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風邪の咳への科学的対処法について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
かぜの咳の治療.jpg
今年のChest誌に掲載された、
風邪の咳に対する治療法の根拠を検証して、
それをまとめた報告です。
アメリカ胸部医学会の専門家委員会によるものです。

この場合の風邪というのは、
ライノウイルスに代表されるような、
予後の良い風邪ウイルスによる感染症に不随する症状のことで、
マイコプラズマ肺炎のようなものとは違います。

こうした予後の良いウイルス感染症による咳は、
欧米では医療機関での治療の対象とはなりませんから、
このレビューも基本的には医療機関での治療の話ではなく、
民間療法やOTCなどの市販の医薬品による治療を効果を、
科学的に検証したものです。

その結果は以下の4項目にまとめられています。

①風邪の咳に対して、それを軽くしたり早く治したりする目的で咳止めや風邪薬を使用することは推奨されない。
②風邪の咳に対して、それを軽くしたり早く治したりする目的で消炎鎮痛剤を使用することは推奨されない。
③1歳から18歳の小児の風邪の咳に対して、はちみつは未治療や抗ヒスタミン剤より、咳を抑える効果が期待出来る。ただ、その有効性はデキストロメトルファン(咳止めの代表薬)に勝るものではない。補足として、はちみつは1歳未満の小児には使用出来ない。また2歳未満ではデキストロメトルファンは使用するべきではない。
④18歳未満の小児の風邪の咳に対して、コデインを含む処方は呼吸機能の低下などの危険性があるため推奨されない。

これだけだと分かりにくい部分があるので補足します。

まず、基本的なこととして、
日常生活に大きな支障のないような風邪の咳は、
通常は一週間から10日くらいの経過で改善するので、
それに対して無理に咳を抑えるような治療は、
患者さんの予後には良い影響を与えるという根拠がない、
という点が明確に記載をされています。

そうは言ってもつらい咳は止めたいので、
咳止めに効くと称する薬が、
日本でも沢山ドラッグストアには並んでいますし、
それはアメリカでも同じです。

ただ、その主力である消炎鎮痛剤や痰がらみの薬、
抗ヒスタミン剤などについては、
それを風邪の咳に対して使用した時に、
未使用と比較して明確な効果があった、
という科学的なデータが殆どない、
というのがもう1つの事実です。

コデインというのは、
咳の中枢を抑える軽い麻薬のようなもので、
フスコデやカフコデ、ライトゲンシロップなどの名称の咳止めの中にも、
市販薬の成分として広く使用されています。

これは勿論一定の咳止めとしての効果があるのですが、
その一方で咳の中枢に働くので、
呼吸自体が抑えられたり、気管支がけいれんするような副作用が、
しばしば認められます。

そのためアメリカのFDAは警告を出し、
18歳未満でのコデインの使用を制限しています。

しかし、日本においては7歳以上で使用可能な風邪薬にも、
平気でコデインが含有されています。

何故規制がされないのか極めて不可解ですが、
小児用PL顆粒という、
小児への使用はほぼ禁忌と言って良いサリチル酸を含む感冒薬が、
2歳以上では使用可能で、
2014年に厚労省の再審査でもそのまま認められている、
という奇々怪々な事例もありますから、
風邪薬というものの安全性を、
当局が軽視していることは事実であるようです。

民間療法として科学的にも評価されているのがハチミツです。

これは300人規模の厳密な方法での介入試験のデータが、
複数存在しているからで、
こうしたデータのある咳止めの処方というには、
他にあまり類例がありません。

寝る前に小さじ1杯くらいのハチミツを飲むことで、
夜に咳で起きることが減り、
咳の頻度や強さも改善します。

単独では結構ハチミツは飲みにくいので、
レモン水に溶いたり、コーヒーに入れたりするのも良いようです。

ただ、勿論ボツリヌス菌の食中毒の報告がありますから、
1歳未満のお子さんには禁忌です。

欧米でよく使用されている亜鉛ドロップにも、
一定の効果があったとするデータが複数あります。

このように風邪の咳はその経過が、
通常の風邪の経過と合致していて、
その程度も軽ければ何もする必要がないのですが、
民間療法としてはハチミツの使用がお勧めです。
大人で強い咳の時には、
コデインを含む咳止めの短期間の使用も、
やむを得ないことがありますが、
18歳未満の小児では、
使用を控えることが望ましいと思います。
こうした薬は意外に市販の風邪薬や咳止めに入っているので、
今の日本の薬事行政においては、
風邪薬の特にお子さんへの使用に関しては、
慎重な対応が求められると思います。
端的に言えば、どんなにCMが流れても、
風邪薬を買わないことが一番の健康法なのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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