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副腎疲労は実在しない(BMCのレビュー) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
副腎疲労は存在しない.jpg
2016年のBMC Endocrine Disorders誌に掲載された、
「副腎疲労」についてのレビューです。
題名はずばり、「副腎疲労は存在しない」となっています。

副腎疲労(adrenal fatigue)という言葉は、
1998年にジェイムズ・ウィルソンというカイロプラクティックの治療者によって、
提唱された概念です。

その後複数の医師や医療者の団体が、
この概念を引き継いで広めて行きました。

副腎疲労とは何でしょうか?

副腎から分泌されるステロイドホルモンは、
別名ストレスホルモンと言われるように、
身体がストレスに曝された時に分泌されます。

ところが、慢性的に身体がストレスに曝され続けると、
副腎は常に刺激を受け続けることによって疲労し、
萎縮してホルモンを産生する働きが弱くなってしまいます。

これが副腎疲労だと提唱者達は主張しています。

副腎不全(adrenal insufficiency)という病気があります。

こちらは正式な病名なのですが、
何らかの原因により副腎からのステロイドホルモンの分泌が、
低下した状態のことを意味しています。

その診断は血液のコルチゾールとACTHの測定、
尿中のコルチゾールの測定、
そしてACTH負荷試験などの結果から総合的に判断されます。
きちんとした診断基準も設定されています。

こうした説明を見ると、
副腎疲労と副腎不全は同じもののように思えます。

副腎疲労と副腎不全は何が違うのでしょうか?

必ずしもその違いは明確ではないのですが、
通常副腎疲労は副腎不全の診断基準には当て嵌まりません。
つまり、通常の診断基準では病気とは診断されないレベルの数値なのですが、
正常よりもその分泌が低下し、
その1日の変動も正常なパターンを逸脱しているので、
それにより身体のだるさや原因不明の痛みなどの、
不定愁訴と判断されがちな症状が出るのだ、
という説明になっているのです。

症状のある潜在的な副腎皮質機能低下症が副腎疲労である、
というような言い方が出来るかも知れません。

こうしたものがあると仮定して、
果たしてその診断はどのようにすれば良いのでしょうか?

それをこれまでの文献を総ざらいして分析したのが、
最初にご紹介した論文になります。

診断には沢山の方法が提唱されていて、
確立されたものがあるという訳ではないようです。

日本などでは唾液中のコルチゾールの日内変動が、
副腎疲労の指標として使用されることが多いようです。
それについての文献も複数分析されています。

ただ、実際には正常なパターンと異常なパターンが、
クリアに分かれると証明されたようなものはなく、
データもバラバラで信頼性の低いものがほとんどである、
という評価になっています。

そうした発表されたデータの分析を介して、
副腎疲労という概念は、
独立した疾患としては認めがたい、
というのがご紹介した文献の結論になっています。

個人的な見解としては、
潜在性の副腎皮質機能低下症という病態は、
あって然るべきなのではないか、
もしそれで症状のある患者さんが存在するのであれば、
その治療を考えるのも医療者の努めなのではないか、
というようには思います。
ただ、現行の副腎疲労という概念が、
おおざっぱで不確かなものであることも確かで、
特に唾液のコルチゾールに血液と違う意味合いがあり、
それで診断が可能だという考えには、
あまり根拠がないように思います。

これだけ副腎疲労という考え方が広まった背景には、
診断の付かない症状で苦しんでいる人が多いことがあるのも事実で、
潜在性の副腎皮質機能低下症については、
今後もっと緻密で実証的なデータの蓄積が、
是非必要なのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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