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2型糖尿病の管理に関する日本の大規模臨床試験結果について(J-DOIT3) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
日本の大規模臨床試験.jpg
今年のLancet Diabetes & Endocrinology誌に掲載された、
J-DOIT3と名付けられた、
2型糖尿病の管理ついての日本発の大規模臨床データをまとめた論文です。

これは日本発のかなり画期的な臨床データとして、
その論文化が待たれていたものです。

ただ、事前の発表などでは、
物凄く効果があったようなニュアンスであったのですが、
実際に論文化されているものを読んでみると、
ちょっとその印象は違っていました。

2型糖尿病というのは、
単純に血糖が高いという病気ではなく、
全身の血管の老化を進行させるような代謝病で、
その予後に最も大きな影響を与えるのは、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患です。

ただ、血糖コントロールのみをターゲットにして、
糖尿病の治療を行なっても、
動脈硬化の進行によって起こる心血管疾患の予後の改善には、
充分ではないことがこれまでの臨床試験などの結果から、
判明しています。

その原因のうち大きいと考えられているのが、
血糖を強力に下げるような治療による、
副作用としての重症の低血糖の増加です。

低血糖は急性心筋梗塞や重症不整脈の、
誘因となることが指摘されています。

そのために現行のガイドラインにおいては、
2型糖尿病の治療の目標は、
数か月の血糖の指標であるHbA1cが、
7.0%程度に設定されていて、
これは確かに低血糖の予防のためには仕方のない基準ですが、
一方でこのレベルでは、
心血管疾患の予後の改善には、
不充分であることもほぼ明らかです。

それでは、どうすれば良いのでしょうか?

1つの考え方は、
血糖以外の心血管疾患のリスクである、
血圧と脂質(主にコレステロール)を、
より厳格にコントロールすることにより、
その合わせ技として、
2型糖尿病の患者さんにおける心血管疾患の予後を、
改善しようという治療方針です。

そこで今回の研究においては、
日本の81の専門施設において、
年齢が45から69歳の2型糖尿病で、
高血圧と脂質異常症の両者もしくはいずれかを合併し、
HbA1cが6.9%以上である2542名を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は通常の治療を継続し、
もう一方はより厳格なコントロール目標を、
血糖、血圧、脂質の3つにおいて設定した治療を行なって、
中央値で8.5年の経過観察を行っています。

この場合、
血糖コントロールの目標値は、
標準治療群ではHbA1cが6.9%未満で、
強化治療群では6.2%未満となり、
血圧コントロールの目標値は、
標準治療群で130/80mmHg未満、
強化治療群では120/75未満、
LDLコレステロールの目標値は、
標準コントロール群で120mg/dL未満、
強化治療群では80mg/dL未満、
というようになっています。

その結果…

観察期間中の心筋梗塞、脳卒中、
心臓カテーテル治療、心臓バイパス手術、
総死亡を併せたリスクは、
強化治療群で19%低下する傾向を示したものの、
有意ではありませんでした。
(95%CI; 0.63から1.04)

個別のリスクについては、
総死亡と虚血性心疾患については有意差はなく、
脳卒中については、
強化治療群で58%のリスクの低下を有意に認めました。
(95%CI: 0.24から0.74)

有害事象については、
低血糖の発症は強化治療群で有意に高く、
浮腫も強化治療群で高くなっていました。

このようにトータルに見ると、
現状のガイドラインよりも強力な介入を行なって、
血糖、血圧、脂質を改善しても、
心血管疾患や生命予後には明確な改善が認められませんでした。

ただ、脳卒中に限って見ると、
一定の予防効果が認められました。

これは日本において脳卒中の発症率が高いことと、
無関係ではないと思われ、
逆に言えば心疾患のリスクとの関連を見るには、
今回の対象者数では不充分であった可能性もあるように思います。

個人的には、
介入により低血糖のリスクが増加すれば、
それにより予後の悪化が起こって、
有効性をマスクしてしまう可能性があるので、
血糖コントロールの改善を項目に入れるのではなく、
脂質と血圧のコントロールのみで、
同様の検討を行なった方が良かったのでは、
というようにも思いますが、
日本においてこれだけ大規模で長期間の臨床データはあまりなく、
より詳細な解析の結果にも今後期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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コメント 3

とはちは

石原先生
いつも興味深く読ませてもらっています。
有害事象についてなのですが、
浮腫も強化治療群で高くなっていたとのことですが、
なぜ浮腫が起こるのでしょうか。
お忙しいところ恐れ入りますが、
お手すきのときがあれば、教えてください。
よろしくお願いします。
by とはちは (2017-10-26 09:41) 

fujiki

とはちはさんへ
これはおそらく治療薬との関連がありそうです。
降圧剤のACE阻害剤やカルシウム拮抗薬には、
特に高用量でむくみの副作用があります。
また糖尿病治療薬の中にも、
むくみを生じやすい薬(ピオグリタゾン)などがあります。
強化療法では薬の量が増えるので、
それが影響をしているのではないでしょうか。
by fujiki (2017-10-26 10:18) 

とはちは

石原先生
返信をいただきまして、ありがとうございます。
お薬のメリット、デメリットは奥が深いなと思いました。
とても勉強になりました。
ありがとうございました!

by とはちは (2017-10-27 10:34) 

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