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心房細動の患者さんのカテーテル治療後の抗凝固療法について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
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今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
心房細動の患者さんに、
ステントを使用するようなカテーテル治療を施行した場合の、
その後の抗凝固療法のあり方についての論文です。

心臓を栄養する冠状動脈という血管が高度に狭窄すると、
運動をしたりストレスが身体に加わったりした時に、
心臓の筋肉に酸素が不足して、
胸が苦しくなるなどの症状が起こり、
狭くなった血管に血の塊などが詰まると、
血流は途絶えて、
そのままにしておくと心臓の筋肉が死んでしまいます。
これが急性冠症候群です。
以前には血管が詰まり掛かった状態を不安定狭心症と呼び、
完全に血管が詰まった状態を心筋梗塞と呼んでいましたが、
現在ではそれを併せて急性冠症候群と呼ぶのが一般的です。

急性冠症候群が強く疑われる際には、
心臓カテーテル検査を行ない、
狭い血管が診断された場合には、
その部位にワイヤーを挿入して、
風船のような器具で圧力を掛けて拡張し、
ステントと呼ばれる金属の網目状の管を挿入します。

これがPCIと呼ばれる心臓カテーテル治療の、
代表的な手技です。

ステントは非常に有用な治療器具ですが、
広げた部分が再度狭くなったり、
血栓がステントの中に出来たリするような、
合併症が発症することがあります。

その合併症の予防のため、
2種類の抗血小板剤と呼ばれる、
血栓ができにくくする薬を、
一定期間併用することが推奨をされています。

ただ、問題は心房細動という不整脈をお持ちの患者さんの場合です。

心房細動という不整脈を持っていると、
心臓の中に血栓が出来やすく、
それが血液中を流れて脳の血管に詰まることにより、
脳卒中の原因となります。

このため、不整脈自体を治すことが難しい時には、
ワルファリンやダビガトランなどの、
抗凝固剤という薬が使用されます。

心房細動をお持ちの患者さんが急性冠症候群となり、
ステントを使用した治療を受けた場合、
抗凝固剤を継続した上に、
更に1から2種類の抗血小板剤を、
少なくともステント内に血栓の生じやすい数か月間は、
併用することが一般的です。

ただ、この3剤併用療法は、
通常の抗血小板剤2剤併用療法や、
抗凝固剤の単独治療と比較をして、
出血系の合併症がより多くなることが想定されます。

それでは脳梗塞やステント部位の血栓症の予防効果を維持したまま、
出血系の合併症をより低くするにはどうすれば良いのでしょうか?

現状試されている方法は、
まずワルファリンをより新しい抗凝固剤である、
非ビタミンK拮抗経口抗凝固剤に変更するというもので、
更にはビタミンK非依存性抗凝固剤と、
P2Y12拮抗薬という比較的新しいタイプの抗血小板剤を、
2剤で併用するという方法です。

これまでの検証では、
リバーロキサバンという非ビタミンK拮抗経口抗凝固剤と、
P2Y12拮抗薬との併用による治療が、
ワルファリンと2種類の抗血小板剤による3剤併用療法と比較して、
出血系合併症を減らし、
心血管疾患の発症も減らす効果が確認されています。

今回の研究では、
直接トロンビン阻害剤であるダビガトラン(商品名プラザキサ)と、
P2Y12阻害剤のクロピドグレルもしくはチカグレロルの併用の効果を、
ワルファリンとP2Y12阻害剤とアスピリンの3者併用療法と比較検証しています。

対象となっているのは世界41カ国の414の専門施設において、
18歳以上でステントを利用した心臓カテーテル治療を受けた、
トータル2725名を、くじ引きで3つの群に分けると、
2つの群ではダビガトランとクロピドグレルもしくはチカログレルの2剤併用を行い、
もう一方はワルファリンとクロピドグレルもしくはチカログレルの2剤に加えて、
1から3ヶ月間アスピリンを併用した3剤併用療法を施行して、
平均で14ヶ月間の経過観察を行っています。

ダビガトラン使用群では、
1回110mgを1日2回の低用量と、
1回150mgを1日2回の高用量の2群に、
基本的にはくじ引きで2つに分けていますが、
各地域のガイドラインにおいて、
低用量を使用するべき高齢者では、
1回110mgが使用されています。

その結果…

観察期間中の出血系の合併症は、
3剤併用療法で26.9%であったのに対して、
ダビガトラン低用量の2剤併用群では15.4%で、
出血系合併症は3群と比較して有意に低くなっていました。

また、ダビガトラン高用量群での出血系合併症の発症率は、
20.2%であったのに対して、
アメリカ以外の高齢者を除いた3者併用療法群では25.7%で、
この比較においても、
ダビガトラン高用量群は3者併用群と比較して、
出血系合併症は有意に低くなっていました。
(これは単純なくじ引きではないので、
比較毎に対象を分けているのです)

観察期間中の心筋梗塞、脳卒中もしくは全身の血栓症の発症率は、
ワルファリンなどの3剤併用群が13.4%であったのに対して、
高用量と低用量を併せた、
ダビガトランと抗血小板剤併用群では13.7%で、
両群に有意差はありませんでした。
つまり、どちらの方法でも、
血栓症の予防という有効性の観点からは、
違いはないという結果です。

このように、
リバーロキサバンでの検証と同様に、
ワルファリンと2種類の抗血小板剤という3剤の併用療法と比較して、
ダビガトランと1種類の抗血小板剤の併用療法は、
その血栓症予防としての有効性は差がなく、
出血の合併症は明らかに少なくなることが確認されました。

今後こうした知見を元にして、
心臓カテーテル治療後の心房細動の患者さんにおける抗凝固療法は、
非ビタミンK拮抗経口抗凝固剤と抗血小板剤(P2Y12拮抗薬)との併用が、
徐々に第一選択となる流れになるように思いますが、
ワルファリンでコントロール良好の患者さんへの対応や、
治療後の抗血小板剤の継続期間など、
課題も多く残っていて、
今後そうした細部が整理され、
スタンダードな方法が確立されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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