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非ビタミンK阻害抗凝固剤の併用薬と出血リスクとの関連(台湾の大規模研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
NOACの併用薬と出血リスク.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
最近多く使用されている経口抗凝固剤と、
その併用薬による出血リスクについての論文です。

心房細動という年齢と共に増加する不整脈があり、
特に慢性に見られる場合には心臓内に血栓が出来て、
それが脳の血管に詰まることにより、
脳塞栓症という脳梗塞を発症します。

これを予防するために、
抗凝固剤と呼ばれる薬が使用されいます。

この目的で古くから使用されているのがワルファリンです。

ワルファリンは非常に優れた薬ですが、
納豆が食べられないなど食事に制限が必要で、
定期的に血液検査を行って、
量の調節を行う必要があります。

こうしたワルファリンの欠点を克服する薬として、
2011年以降に日本でも使用が開始されているのが、
直接トロンビン阻害剤やⅩa因子阻害剤の、
非ビタミンK阻害抗凝固剤と呼ばれる一連の薬剤です。

直接トロンビン阻害剤のダビガトラン(商品名プラザキサ)、
Ⅹa因子阻害剤のリバーロキサバン(商品名イグザレルト)、
アピキサバン(商品名エリキュース)、
エドキサバン(商品名リクシアナ)などがその代表です。

この非ビタミンK阻害抗凝固剤の有効性は、
コントロールされたワルファリンとほぼ同等と考えられています。
ワルファリンと比較した場合の主な利点は、
消化管出血などの出血系の有害事象が少ないことと、
量の調節が基本的には不要である点です。

ただ、こうしたタイプの薬が広く使用されるようになると、
矢張り問題となるのは出血系の有害事象です。

こうした有害事象は特に複数の薬を、
併用している場合に多いと考えられています。
ワルファリンと比較すれば薬物間の相互作用は少ないとは言え、
その代謝は主にCYP3A4という肝臓の代謝酵素を介して行われ、
同じ代謝酵素で代謝される薬物との併用は、
抗凝固剤の血液濃度を上昇させて、
出血リスクを高めることが想定されます。

心房細動のある患者さんの多くは高齢者で、
糖尿病や高血圧などの疾患を一緒に持っていることが多く、
複数の薬を併用していることが、
実際には大多数であると思われます。

しかし、通常の薬の臨床試験においては、
そうしたリスクの高い患者さんは除外されていることが多いので、
実際よりそのリスクは低く見積もられてしまうことが、
これも多いと想定されるのです。

そこで今回の研究では、
国民全ての医療データが解析可能な台湾において、
心房細動に対する非ビタミンK阻害抗凝固剤の治療の併用薬が、
その合併症の出血リスクに与える影響を大規模に検証しています。

解析されているのは、
非弁膜症性心房細動の診断があって、
非ビタミンK阻害抗凝固剤のうち、
ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンの、
いずれかを使用されているトータル91330名の患者さんで、
その平均年齢は74.7歳です。

抗凝固剤の内訳は、
ダビガトランが45347名、
リバーロキサバンが54006名、
アピキサバンが12886名で、
合計が合わないのは、
途中での変更があるからだと思われます。

併用薬として多かったのは、
スタチンのアトルバスタチンが27.6%、
カルシウム拮抗薬のジルチアゼムが22.7%、
強心剤のジゴキシンが22.5%、
抗不整脈剤のアミオダロンが21.1%などとなっています。

その結果、
有意に併用により出血リスクが増加していたのは、
アミオダロン、抗真菌剤のフルコナゾール、
抗結核剤のリファンピシン、
抗痙攣剤のフェニトインの4種類でした。

具体的には、
アミオダロンが未使用と比較して1.37倍(95%CI; 1.25から1.50)、
フルコナゾールが2.35倍(95%CI; 1.80から3.07)、
リファンピシンが1.57倍(95%CI; 1.02から2.41)、
フェニトインが1.94倍(95%CI;1.59から2.36)となっていました。

一方で併用によりむしろ出血リスクが抑制されていたのは、
アトルバスタチンが0.71倍(95%CI; 0.64から0.78)、
ジゴキシンが0.91倍(95%CI;0.83から0.99)、
抗生剤のエリスロマイシンもしくはクラリスロマイシンが、
0.60倍(95%CI; 0.48から0.75)となっていました。

この結果はやや意外なもので、
マクロライド系の抗生物質はCYP3A4に影響を与えるので、
リスクが高くなってもおかしくはなさそうですが、
使用期間が比較的短期に留まることが多い点などが、
関係しているのかも知れません。

アトルバスタチンやジゴキシンとの併用は、
比較的安全と思われる一方、
フェニトインは神経痛などで長期継続されるケースも多く、
注意が必要と考えられます。

こうしたデータは関連する因子をそれなりに補正はしていますが、
患者さんの状態はまちまちで、
薬の違い以外の背景に、
影響されている可能性は否定出来ません。

ただ、実際の臨床データが大規模に解析されている、
と言う点では非常に意義のあるもので、
同じアジア人のデータとしても、
日本での臨床にも大きな意義のあるものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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