マグネシウム濃度と認知症との関連について [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のNeurology誌に掲載された、
血液のマグネシウム濃度と認知症の発症との関連についての論文です。
マグネシウムはカルシウムに似た性質を持つミネラルで、
植物では光合成に必須の働きを持ち、
人間ではその多くがリン酸塩として骨に存在していますが、
抗炎症作用や代謝の調節などにも関わっています。
脳との関連では、
興奮性グルタミン酸神経の伝達を担っている、
NMDA受容体の調節に関与していて、
マグネシウムの脳内濃度低下が、
うつ病や認知症と関わっているという仮説が存在しています。
人間においても、
血液のマグネシウム濃度の低下が、
片頭痛、てんかん、認知症、うつ病と関連している、
という疫学データが発表されています。
ただ、マグネシウムと認知症との関連についての知見は限られていて、
疫学データは小規模なものしかなく、
その結果もまちまちですし、
初期の認知機能低下の患者さんに対するマグネシウムの使用が、
記憶の機能などを若干改善したという小規模な報告がありますが、
単独の報告に留まっているようです。
マグネシウムが認知症の発症予防に有効というのは、
ネズミのデータがあるのみです。
そこで今回の研究では、
オランダのロッテルダム研究という、
大規模な疫学データを活用して、
登録時に認知症のない55歳以上(平均年齢64.9歳)の9569名を、
中央値で7.8年の経過観察を行い、
登録時のマグネシウム濃度と、
その後の認知症の発症との関連を検証しています。
マグネシウム濃度は5群に分けて分析されていて、
一番低値の群は0.79mmol/L以下
(ほぼ1.9mg/dL以下に相当)で、
一番高値の群は0.90mmol/L以上
(ほぼ2.2mg/dL以上に相当)です。
日本での現行のマグネシウム濃度の基準値は、
概ね1.8から2.4mg/dLに設定されていますから、
大体その上限と下限を見ていることになります。
その結果、
観察期間中に823名の登録者が認知症と診断され、
そのうちの662名はアルツハイマー型認知症でした。
そして、マグネシウム濃度が0.84から0.85mmol/L
(ほぼ2.0から2.1mg/dLに相当)を基準とすると、
マグネシウム濃度が低値であっても高値であっても、
認知症の発症リスクは増加していました。
具体的には0.79mmol/L以下の群では、
そのリスクは1.32倍(95%CI; 1.02から1.69)となり。
0.90mmol/L以上の群では、
1.30倍(95%CI; 1.02から1.67)となっていました。
これは認知症トータルでの解析ですが、
アルツハイマー型認知症のみで解析しても、
ほぼ同様の結果が得られました。
このように、
マグネシウム濃度は一定の範囲に保たれていることが重要で、
それを外れれば高めであっても低めであっても、
認知症のリスクは高まるという結果になっています。
ですから単純にマグネシウムを補充するような介入を、
闇雲に行なっても認知症の予防や治療に結び付くとは思えず、
問題はその調節メカニズムの解明と、
脳神経細胞に対する働きを、
より精緻に観察することにあるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のNeurology誌に掲載された、
血液のマグネシウム濃度と認知症の発症との関連についての論文です。
マグネシウムはカルシウムに似た性質を持つミネラルで、
植物では光合成に必須の働きを持ち、
人間ではその多くがリン酸塩として骨に存在していますが、
抗炎症作用や代謝の調節などにも関わっています。
脳との関連では、
興奮性グルタミン酸神経の伝達を担っている、
NMDA受容体の調節に関与していて、
マグネシウムの脳内濃度低下が、
うつ病や認知症と関わっているという仮説が存在しています。
人間においても、
血液のマグネシウム濃度の低下が、
片頭痛、てんかん、認知症、うつ病と関連している、
という疫学データが発表されています。
ただ、マグネシウムと認知症との関連についての知見は限られていて、
疫学データは小規模なものしかなく、
その結果もまちまちですし、
初期の認知機能低下の患者さんに対するマグネシウムの使用が、
記憶の機能などを若干改善したという小規模な報告がありますが、
単独の報告に留まっているようです。
マグネシウムが認知症の発症予防に有効というのは、
ネズミのデータがあるのみです。
そこで今回の研究では、
オランダのロッテルダム研究という、
大規模な疫学データを活用して、
登録時に認知症のない55歳以上(平均年齢64.9歳)の9569名を、
中央値で7.8年の経過観察を行い、
登録時のマグネシウム濃度と、
その後の認知症の発症との関連を検証しています。
マグネシウム濃度は5群に分けて分析されていて、
一番低値の群は0.79mmol/L以下
(ほぼ1.9mg/dL以下に相当)で、
一番高値の群は0.90mmol/L以上
(ほぼ2.2mg/dL以上に相当)です。
日本での現行のマグネシウム濃度の基準値は、
概ね1.8から2.4mg/dLに設定されていますから、
大体その上限と下限を見ていることになります。
その結果、
観察期間中に823名の登録者が認知症と診断され、
そのうちの662名はアルツハイマー型認知症でした。
そして、マグネシウム濃度が0.84から0.85mmol/L
(ほぼ2.0から2.1mg/dLに相当)を基準とすると、
マグネシウム濃度が低値であっても高値であっても、
認知症の発症リスクは増加していました。
具体的には0.79mmol/L以下の群では、
そのリスクは1.32倍(95%CI; 1.02から1.69)となり。
0.90mmol/L以上の群では、
1.30倍(95%CI; 1.02から1.67)となっていました。
これは認知症トータルでの解析ですが、
アルツハイマー型認知症のみで解析しても、
ほぼ同様の結果が得られました。
このように、
マグネシウム濃度は一定の範囲に保たれていることが重要で、
それを外れれば高めであっても低めであっても、
認知症のリスクは高まるという結果になっています。
ですから単純にマグネシウムを補充するような介入を、
闇雲に行なっても認知症の予防や治療に結び付くとは思えず、
問題はその調節メカニズムの解明と、
脳神経細胞に対する働きを、
より精緻に観察することにあるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本
2017-10-10 08:22
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