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あくびの伝染のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
あくびの伝染.jpg
今年のCurrent Biology誌に掲載された、
あくびがうつるメカニズムについての論文です。

他人が目の前であくびをすると、
特別眠くなくても、
何かつられるようにして自分もあくびをすることは、
皆さん誰でも経験があることではないかと思います。

まるで風邪がうつるように、
「あくび」という現象がうつるのは何故でしょうか?

あくびがうつるという現象は、
相手の行為や音声を無意識に真似るという意味で、
反響現象(echophenoena)の1つの典型と考えられています。

あくびの伝染という現象は、
当初は人間だけの特徴と考えられていましたが、
チンパンジーなどの類人猿でも確認され、
類人猿以外の猿や犬でも同様の現象が確認されています。

人間の脳にはミラーニューロンという、
相手の行動や音声をそのままに模倣する、
という仕組みがあり、
赤ちゃんがお母さんの動作や言葉を真似て、
そこから成長してゆくのも、
このミラーニューロンの経路が関与していると言われています。

反響現象も,
当初はこのミラーニューロンの関与が大きいとされていましたが、
上記文献の著者らのデータでは、
むしろ運動を司る大脳の一次運動野の興奮と、
その生理学的抑制との関連が強いのではないか、
という仮説が得られていました。

今回の研究では、
TMS(経頭蓋磁気刺激)という手法を用いて、
あくびが伝染する時に脳内で起こる現象を検証しています。

TMSは磁気刺激によって、
非侵襲的に脳の特定部位を刺激することにより、
その反応パターンを解析して、
脳のどの部分がどのような機能を持っているのかを分析するもので、
最近ではうつ病などの治療にも応用が試みられています。

ボランティアの成人36人に、
あくびをしたくても我慢する、
という指示と、
我慢をしなくても良いという指示を出して、
他人があくびをしている映像を見せ、
その時の反応を検証してみたところ、
あくびは我慢するようにという指示を出すことにより、
より伝染し易さが増し、
それは大脳運動野の興奮のしやすさと、
その生理学的抑制の強さとに関連していることが、
機能的に確認されました。

つまり、
運動野が興奮しやすいか、
その抑制が掛かりにくいという体質があると、
あくびの伝染が起こりやすく、
それはあくびをするな、という命令により、
増強されるというのです。

無意識の癖が、
それを指摘されしないように命じられると、
却って強くなったり、
それをしたいという衝動が強くなることは、
誰でも実感として感じていることだと思いますが、
それはこの反響現象のメカニズムと、
深い関連のある現象のようです。

チックや発達障害における同じ動作の反復など、
コントロールの困難な無意識の動作の異常は、
おそらく同様のメカニズムで生じている可能性が高く、
今回の知見はその非侵襲的で薬物を用いない治療の可能性を、
開くもののように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。



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コメント 2

okk

石原先生のお考えに賛同いたしましたので質問させてください。
65歳の妻は20年前に脳幹海馬の左隣に海綿状血管腫ができ
放射線照射をしましたが、ここ数年アルツ的認知症の前兆が現れています。食事運動社交性などは理想的と思われまだ日常生活は普通にできています。最近CTやMRIを実施しましたが脳や海馬の
大きな収縮や新たな異変などはなく神経内科の先生の所見では放射線の後遺症が出てきている可能性があるとドネペジルを処方されました。
しかし妻は一度飲み始めたら止められない薬は飲みたくないとその薬を捨ててしまいました。そのため現状では生活に大きな問題はないのでこの状態では様子見をしようと考えていますが、早めにドネペジルを服用したほうがいいという先生もおられるのでどうするか迷っています。石原先生のご意見をお聞きしたく質問いたしました。
よろしくお願いいたします。 神奈川県在住 OKK
by okk (2017-10-03 14:03) 

fujiki

okkさんへ
奥様ご心配なことと思います。
問題はアルツハイマー病の初期であるのか、
それとも放射線の障害の要素が強いのかの鑑別、
という点にあるように思います。
アルツハイマー病がほぼ確定であれば、
ドネペジルではなくても、
コリンエステラーゼ阻害剤の早期の使用は、
病状の進行を遅らせる上で有用ではあると思います。
ただ、体に合わないことも少なからずある薬なので、
体調を見ながら使用する必要があると思いますし、
飲んでみて問題があれば、
中途での中断は特に問題はないと思います。
一度試してみる、というのは1つの考え方です。
一方で放射線の影響が強いのであれば、
ドネペジルが有効という根拠は、
あまりないように思います。
アルツハイマー病を疑う症状が、
はっきり出ている状態であれば、
診断のための詳しい検査は可能ではないかと思います。
健康保険の適応など問題はありますが、
より詳しい検査で認知機能低下の原因を確定したい、
というようなお話は、
一度主治医の先生にされてみるのはどうでしょうか?
by fujiki (2017-10-03 14:28) 

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