ままごと「わたしの星」(2017年上演版) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当します。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
柴幸男さん率いるままごとが、
2014年に初演した「わたしの星」が、
キャストも新たにリニューアルして、
今三鷹で上演されています。
ままごとと言えば「わが星」という作品が、
演劇史上に燦然と輝く大傑作で、
僕も非常に感銘を受けました。
星を擬人化してその一生を辿る、
という着想がまず素晴らしく、
少女に見立てた星と、
それを望遠鏡で見つけた少年が時空を超えて奇跡的に出逢う、
という超絶なラブストーリーでした。
2014年に初演された「わたしの星」は、
題名の通り「わが星」の姉妹編的な性質のもので、
今度は実際の高校生をオーディションで集め、
未来の高校生を演じさせるという物語でした。
作品の性質上、
キャストをそのままに時間を置いて再演することは出来ないので、
今回はまた新たに高校生をオーディションで選び、
そのキャストにあて書きで、
新たな「わたしの星」を創作しています。
これも…素晴らしかったです。
「わが星」と比較すると、
そのスケール観や完成度、
オリジナリティにおいてはやや落ちるのですが、
非常に愛すべき、
抱きしめたくなるような85分ほどの小品で、
誰でも一度は感じたことのある、
思春期の頃の胸が苦しくなるような切なさに、
もう一度出逢うことの出来る作品に仕上がっていました。
これはもう、絶対のお薦めです。
以下ネタバレを少し含む感想です。
これは端的に言えば、
もう一度同じ時間を巻き戻して、
アンハッピーエンドをハッピーエンドに変える、
というお話で、
最近は映画もドラマも小説も、
そんなものばかりなので、
「またそれかい!」と思いたくなるところはあるのですが、
この作品は未来の地球で、
何かの原因があって、
殆どの人間は火星に移住してしまい、
老人と行き場のない人だけが、
地球に残っているという設定を加え、
それでいて登場するのはレトロなカセットデッキで、
全校でも10人しかいない「残された高校生」が、
最後の文化祭で最後の出し物を、
誰も観客のいない体育館で上演し、
その音だけがカセットテープに記録される、
という、これでもかのノスタルジックな仕掛けを追加して、
時間軸を何度も巻き戻しながら、
ある特別な1日の出来事を綴っています。
柴さんの作品の素晴らしさは、
多分柴さん自身が、
この世界観を本気で信じているからで、
勿論絵空事ではあるのですが、
設定自体が日本の現状のようでもあり、
過疎の島や村の現状のようでもあり、
それでいてもっと大きく世界そのもののようでもあります。
つまり、設定を超えたある種の心情のようなもの、
今この時代に生きている全ての人の心の底にある、
何かが失われていくという切なさと悔恨のようなものが、
柴さんの心から、
舞台を観る観客の心へと、
確実で手渡されている、
という部分にあります。
何も言わずに永遠に別れてしまった2人の少女が、
カセットテープの音源を巻き戻し、
代役の女の子の体を使うことで、
もう一度最後の瞬間を繰り返して、
実際には言えなかったことを伝え、
舞台の中央で抱き合う瞬間などは、
お芝居という虚構を遥かに超えた、
本物の心情そのものが、
立ち現れるような思いすらありました。
キャストは高校生とは言え、
セミプロみたいな経験者が多いようで、
高校演劇的な安定感があります。
ただ、それだけでは詰まらないことが柴さんには分かっているので、
主人公の内気な少女には、
本当に演技などまるで出来なさそうな、
内気そうな素人を選んでいて、
その彼女がクライマックスではしっかり泣いて見せます。
ちょっとあざといのですが、
さすがだと思いました。
演出も囲み舞台で、
舞台下に10人のキャスト全員が座り、
登場しないキャストが楽器を演奏したりする、
という、まあこれも野田秀樹演出や、
串田和美演出などで手垢の付いた、
「またそんなのかい!」というようなものなのですが、
高校生がたどたどしく演奏する楽器で、
シンプルで抒情的な旋律が奏られると、
その微妙な揺らぎがグッとくる感じがありますし、
舞台上へのキャストのまなざしのようなものも、
初々しくて心に残るのです。
これがプロだったら全く面白くはない訳で、
この辺りの柴さんのセンスというか、
感覚は抜群だと思います。
そんな柴さんの演出があるので、
絵空事の設定の物語に、
すぐに観客は引き込まれて、
舞台上に確かに過疎の地球の海辺の風景や、
少年少女が語らう光景の空気感のようなものが、
極めてリアルに感じられるのです。
これはもう、ざらにあることではありません。
作品の性質上、
この作品はこれで終わりだと思います。
公演は明日までで、
当日券も毎日かなり並んでいるようですが、
苦労しても観る値打ちはあります。
とてもとても素晴らしいです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当します。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
柴幸男さん率いるままごとが、
2014年に初演した「わたしの星」が、
キャストも新たにリニューアルして、
今三鷹で上演されています。
ままごとと言えば「わが星」という作品が、
演劇史上に燦然と輝く大傑作で、
僕も非常に感銘を受けました。
星を擬人化してその一生を辿る、
という着想がまず素晴らしく、
少女に見立てた星と、
それを望遠鏡で見つけた少年が時空を超えて奇跡的に出逢う、
という超絶なラブストーリーでした。
2014年に初演された「わたしの星」は、
題名の通り「わが星」の姉妹編的な性質のもので、
今度は実際の高校生をオーディションで集め、
未来の高校生を演じさせるという物語でした。
作品の性質上、
キャストをそのままに時間を置いて再演することは出来ないので、
今回はまた新たに高校生をオーディションで選び、
そのキャストにあて書きで、
新たな「わたしの星」を創作しています。
これも…素晴らしかったです。
「わが星」と比較すると、
そのスケール観や完成度、
オリジナリティにおいてはやや落ちるのですが、
非常に愛すべき、
抱きしめたくなるような85分ほどの小品で、
誰でも一度は感じたことのある、
思春期の頃の胸が苦しくなるような切なさに、
もう一度出逢うことの出来る作品に仕上がっていました。
これはもう、絶対のお薦めです。
以下ネタバレを少し含む感想です。
これは端的に言えば、
もう一度同じ時間を巻き戻して、
アンハッピーエンドをハッピーエンドに変える、
というお話で、
最近は映画もドラマも小説も、
そんなものばかりなので、
「またそれかい!」と思いたくなるところはあるのですが、
この作品は未来の地球で、
何かの原因があって、
殆どの人間は火星に移住してしまい、
老人と行き場のない人だけが、
地球に残っているという設定を加え、
それでいて登場するのはレトロなカセットデッキで、
全校でも10人しかいない「残された高校生」が、
最後の文化祭で最後の出し物を、
誰も観客のいない体育館で上演し、
その音だけがカセットテープに記録される、
という、これでもかのノスタルジックな仕掛けを追加して、
時間軸を何度も巻き戻しながら、
ある特別な1日の出来事を綴っています。
柴さんの作品の素晴らしさは、
多分柴さん自身が、
この世界観を本気で信じているからで、
勿論絵空事ではあるのですが、
設定自体が日本の現状のようでもあり、
過疎の島や村の現状のようでもあり、
それでいてもっと大きく世界そのもののようでもあります。
つまり、設定を超えたある種の心情のようなもの、
今この時代に生きている全ての人の心の底にある、
何かが失われていくという切なさと悔恨のようなものが、
柴さんの心から、
舞台を観る観客の心へと、
確実で手渡されている、
という部分にあります。
何も言わずに永遠に別れてしまった2人の少女が、
カセットテープの音源を巻き戻し、
代役の女の子の体を使うことで、
もう一度最後の瞬間を繰り返して、
実際には言えなかったことを伝え、
舞台の中央で抱き合う瞬間などは、
お芝居という虚構を遥かに超えた、
本物の心情そのものが、
立ち現れるような思いすらありました。
キャストは高校生とは言え、
セミプロみたいな経験者が多いようで、
高校演劇的な安定感があります。
ただ、それだけでは詰まらないことが柴さんには分かっているので、
主人公の内気な少女には、
本当に演技などまるで出来なさそうな、
内気そうな素人を選んでいて、
その彼女がクライマックスではしっかり泣いて見せます。
ちょっとあざといのですが、
さすがだと思いました。
演出も囲み舞台で、
舞台下に10人のキャスト全員が座り、
登場しないキャストが楽器を演奏したりする、
という、まあこれも野田秀樹演出や、
串田和美演出などで手垢の付いた、
「またそんなのかい!」というようなものなのですが、
高校生がたどたどしく演奏する楽器で、
シンプルで抒情的な旋律が奏られると、
その微妙な揺らぎがグッとくる感じがありますし、
舞台上へのキャストのまなざしのようなものも、
初々しくて心に残るのです。
これがプロだったら全く面白くはない訳で、
この辺りの柴さんのセンスというか、
感覚は抜群だと思います。
そんな柴さんの演出があるので、
絵空事の設定の物語に、
すぐに観客は引き込まれて、
舞台上に確かに過疎の地球の海辺の風景や、
少年少女が語らう光景の空気感のようなものが、
極めてリアルに感じられるのです。
これはもう、ざらにあることではありません。
作品の性質上、
この作品はこれで終わりだと思います。
公演は明日までで、
当日券も毎日かなり並んでいるようですが、
苦労しても観る値打ちはあります。
とてもとても素晴らしいです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2017-08-26 08:04
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