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血圧の変動と認知症リスク(2017年久山町研究解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックは通常通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血圧の変動と認知症のリスク.jpg
今年のCirculation誌に掲載された、
血圧の変動と認知症との関連についての論文です。
九州の久山町研究という、
ある町の健康調査を継続した日本有数の疫学データを元にした、
解析結果を論文化したものです。

認知症と血圧との関連については、
これまでにも多くの研究データがあります。

認知症には脳血管の動脈硬化により起こる、
脳血管性認知症と、
脳の神経細胞への異常蛋白の蓄積などによって起こる、
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などの、
変性性認知症があります。

このうち脳血管性認知症は動脈硬化による病気ですから、
発症前の血圧(収縮期血圧)が高いほど、
認知症のリスクも増加します。

一方でアルツハイマー型認知症などの変性性認知症については、
必ずしも血圧の数値との関連が明確ではありません。

最近血圧の数値の高さよりも、
その変動が大きいことが、
認知症のリスクになるのではないか、
という考え方が広まり、
幾つかのデータもその可能性を裏付けています。

ただ血圧の変動をどのようにして評価するか、
と言う点については、
研究によってもかなりまちまちで、
海外の臨床研究では、
診察室で日を変えて何度か測定した血圧の、
変動を見ていることが多いのですが、
それがその人の毎日の血圧の変動を、
的確に反映しているという根拠はあまりありません。

そこで今回の研究では、
自宅で決められた期間、
オムロンの自動血圧計で毎朝3回の血圧測定を行い、
その3から28日連続の測定値の変動幅と、
その後の認知症の発症との関連を検証しています。

対象者は久山町の、
登録の時点で60歳以上で認知症のない1674名で、
5年間の経過観察を行い、
その間の認知症の発症と、
血圧の変動及び血圧の数値との関連を検証しています。

その結果…

観察期間中に194名の認知症が診断され、
そのうち47名は脳血管性認知症で、
134名がアルツハイマー型認知症でした。
年齢や性別など関連する因子を補正した結果として、
収縮期血圧の変動係数が5.07%以下と、
最も低い群と比較して、
7.61%以上と最も高い群では、
トータルの認知症のリスクが2.27倍(95%CI;1.45から3.55)、
脳血管性認知症のリスクが2.79倍(95%CI;1.04から7.51)、
アルツハイマー型認知症のリスクが2.22倍(95%CI;1.31から3.75)、
それぞれ有意に増加していました。

同様の傾向は拡張期血圧でも認められましたが、
収縮期血圧の数値自体は、
脳血管性認知症のリスクとは相関しましたが、
トータルな認知症のリスクと、
アルツハイマー型認知症のリスクとは相関しませんでした。

収縮期血圧値と血圧の変動幅の2つの数値は、
それぞれ独立した指標として、
個々の認知症のリスクに影響していました。

このように、
血圧が高いほど上がる認知症のリスクは、
脳血管性認知症のみでしたが、
血圧の変動が大きいことは、
アルツハイマー型認知症を含む、
全ての認知症のリスクと関連していました。

これまでの同様の臨床データにおいて、
条件はそれぞれ違うものの、
ほぼ同様の結果が出ていることからして、
血圧の変動がその後の認知症のリスクと、
一定の関連のあることは間違いがなさそうです。

ただ、現状は血圧の変動自体が認知症の原因なのか、
それとも何か別個の原因により血圧が変動しているのかは、
明らかではありませんし、
血圧変動の測定法も一致はしていません。
また、現時点で的確に血圧変動を正常化するような方法も、
確立されてはいません。

今後のそうした点の検証が是非必要だと思いますし、
新しい知見が積み重なってゆけば、
認知症の予防についての、
新しいブレイクスルーに繋がることになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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