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糖尿病治療薬エンパグリフロジンの尿中アルブミン排泄に対する効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
エンパグリフロジンの腎臓に対する効果.jpg
今年のLancet Diabetes Endocrinology誌に掲載された、
SGLT2阻害剤という2型糖尿病の新薬の、
尿中アルブミン排泄という、
糖尿病性腎症の指標に対する効果を検証した論文です。

2型糖尿病において、
糖尿病性腎症やその他の原因による腎機能の低下は、
海外データですが、
患者さんの35%に発症するという頻度の高い合併症で、
その有無は患者さんの生命予後にも大きく影響をします。

糖尿病には小血管の合併症と大血管の合併症があると言われます。

小血管の合併症というのは、
通常3大合併症と呼ばれる網膜症と神経症と腎症で、
大血管合併症は、
動脈硬化の進行による、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患です。

このうちで小血管の合併症については、
血糖コントロールを強化して、
HbA1cが7%を切るくらいにすると、
その発症が予防されることが確認されています。
その一方でより厳格なコントロールを行なっても、
大血管の合併症は十分には抑制されません。

糖尿病に合併する腎機能低下は、
腎症による部分もありますが、
動脈硬化が影響している部分もあります。

従って、
尿中アルブミンなどのマーカーを利用した試験では、
血糖コントロールにより一定の予防効果が確認されるのですが、
腎機能自体の低下を、
血糖コントロールのみで充分に予防出来るかというと、
その知見は限られていて、
明確な結論が得られていません。

エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)は、
SGLT2阻害剤と呼ばれるタイプの経口糖尿病治療薬です。

この薬は腎臓の近位尿細管において、
ブドウ糖の再吸収を阻害する薬で、
要するにブドウ糖の尿からの排泄を増加させます。

この薬を使用すると、
通常より大量の尿が出て、
それと共にブドウ糖が体外に排泄されるのです。

これまでの糖尿病の治療薬は、
その多くがインスリンの分泌を刺激したり、
ブドウ糖の吸収を抑えるような薬でしたから、
それとは全く別個のメカニズムを持っているという訳です。

確かに余分な糖が尿から排泄されれば、
血糖値は下がると思いますが、
それは2型糖尿病の原因とは別物で、
脱水や尿路感染の原因にもなりますから、
あまり本質的な治療ではないように、
直観的には思います。

しかし、最近この薬の使用により、
心血管疾患の発症リスクや総死亡のリスクが有意に低下した、
というデータが発表されて注目を集めました。

こうした効果が認められている糖尿病の治療薬は、
実際には殆ど存在していなかったからです。
2015年のNew England…誌に掲載されたその論文によると、
このエンパグリフロジンの3年間の使用により、
総死亡のリスクが32%、
心血管疾患による死亡のリスクが38%、
それぞれ有意に低下していました。

2016年の同じNew England…誌に掲載された論文では、
2015年のNew England…誌の研究の二次解析として、
エンパグリフロジンの腎機能に与える影響を検証しています。

その結果…

平均の観察期間3.1年間において、
微小アルブミン量の出現、
血液のクレアチニン濃度が2倍になる、
透析導入、腎臓病による死亡を合わせたリスクは、
偽薬群では18.8%に発症したのに対して、
エンパグリフロジン群では12.7%の発症に留まっていて、
エンパクリフロジンにより上記の腎臓リスクは、
トータルで39%(0.53から0.70)有意に低下していました。

経過中に血液のクレアチニン濃度が倍になる頻度は、
エンパグリフリジン群の1.5%、
偽薬群の2.6%で、
エンパグリフロジンの使用により、
そのリスクは44%有意に低下していました。

経過中に透析導入になる頻度は、
エンパグリフロジン群の0.3%、
偽薬群の0.6%で、
エンパグリフロジンの使用により、
そのリスクも55%有意に低下していました。

微小アルブミン尿の出現については、
両群で有意な差は認められませんでした。

SGLT2阻害剤は強制的に尿にブドウ糖を排泄するので、
尿路の感染や脱水を来たしやすく、
その意味では腎機能を悪化させる要因となるように、
普通は考えておかしくはありません。

ただ、このエンパグリフロジンの臨床試験のデータでは、
これまでの糖尿病治療薬より腎臓の保護作用がある、
という結果になっています。

ここで不明瞭であったのは、
糖尿病性腎症の初期の兆候と考えられる、
アルブミンの尿中排泄量を、
エンパグリフロジンが抑制しているかどうか、
と言う点でした。

そこで今回の更なる二次解析では、
グラム・クレアチニン換算による尿中アルブミン量を、
登録時のアルブミン量毎に解析して、
その効果を検証しています。

糖尿病腎症の進行に伴い、
尿へのアルブミンという小さな蛋白質の漏出が増えるのですが、
畜尿をしないで随時尿で計測する場合、
一緒にクレアチニンを測定して、
1グラムのクレアチニンと、
同時に排泄されているアルブミン量を測定します。
これがほぼ1日の排泄量に相当しているのです。

このmg/ gクレアチニン単位で計算されたアルブミン量が、
30mg未満の場合をアルブミン量非検出とし、
30㎎から300㎎を微小アルブミン尿、
そして300㎎を超える場合をマクロ・アルブミン尿と規定しています。

この臨床試験の登録者のうち、
対象薬剤による治療前にアルブミン尿のデータがあるのは、
6953名の患者さんで、
そのうちの59%はアルブミン尿非検出で、
29%は微小アルブミン尿があり、
11%の患者さんはマクロ・アルブミン尿を最初から有していました。

12週間の短期の使用期間後において、
エンパグリフロジン使用群は偽薬群と比較して、
アルブミン非検出群のアルブミン尿の進行を7%、
微小アルブミン尿群の進行を25%、
マクロ・アルブミン尿群の進行を32%、
それぞれ有意に抑制していました。

3群の全てにおいて、
164週の時点の長期の治療期間においても、
偽薬群と比較したエンパグリフロジン群の有効性は維持されていました。

このように3か月程度の短期間においても、
3年間程度のより長い期間においても、
エンパグリフロジン糖尿病性腎症の初期の変化である。
尿中のアルブミン排泄の抑制と減少に、
明確な効果を示していて、
2016年の腎不全のリスク低下の結果とも併せると、
エンパグリフロジンは、
糖尿病性腎症の進行を、
トータルに抑制していると言って良い結果です。

ただ、これはいずれも単独の大規模臨床試験の結果を、
サブ解析したデータでしかないので、
別個の臨床試験においても同様の結果が再現されるのかを含めて、
今後の検証が矢張り必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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