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健康診断の心電図は必要か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心電図検査の適応.jpg
今年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
健康診断での心電図検査の必要性についての論文です。

この雑誌はアメリカ医師会の学術誌なので、
こうした一般診療や家庭医の診療内容についての論文が、
よく掲載されます。

心電図検査は持病がなく、
健康上のリスクも低い人にも必要でしょうか?

アメリカの臨床ガイドラインにおいては、
糖尿病や高血圧症などの病気がなく、
胸部痛や動悸などの症状がなく、
心臓の病気の既往もないような人では、
心電図検査を健康管理のみのために行うことは推奨をされていません。

日本においては、
雇用前の健診では心電図検査が必須ですが、
それ以外の住民健診などでは、
通常は選択項目となっていることが多いと思います。

この場合の選択ということの意味は、
心臓疾患の可能性があったり、
そのリスクがあったりする場合に、
心電図の適応を検討する、
という意味合いだと思うのですが、
心電図検査は比較的何処でも気軽に出来て、
受ける人にも負担の少ない検査ではあるので、
それほどの適応がなくても、
施行されることが多いのが実際だと思います。

アメリカでもそうした状況自体は変わらないようで、
必要性の高くはない心電図検査が、
健康診査の後などでは、
行なわれることが多いと指摘されています。

それでは、実際には健診の後にどの程度の比率で心電図検査は行われ、
検査を受けることでその人の健康には、
何等かのメリットがあるのでしょうか?

今回の研究では、
カナダのプライマリケアの大規模な医療データベースを活用して、
定期健康診査の後30日以内に心電図検査の行われた頻度と、
医療機関毎の差、
そして心電図検査とその後の医療活用や、
心臓疾患のリスクなどを検証しています。

対象となっているのは年齢が18歳以上で、
1回以上の1年に1回の健康診査(annual health examination)を受け、
心疾患の既往がなく、胸痛などの症状もなく、
高血圧は糖尿病などの心疾患のリスクもない、
3629859名です。

その結果…

健康診査を家庭医で受診した受診者のうち、
21%はその後30日以内に心電図検査を施行されていました。
これをかかりつけ医療機関(primary care practices)毎に見ると、
679の医療機関において、
1.8%から76.1%という大きな差があり、
そこに所属する8036名のかかりつけ医(primary care physicians)毎に見ても、
1.1%から94.9%という大きな差がありました。
つまり、医者によってほとんどの受診者に、
心電図検査を勧める場合もあれば、
ほとんど勧めない場合もある、
という結果です。

心電図検査を施行された受診者は、
そうでない受診者と比較して、
その後の循環器専門医の受診や、
心臓関連の他の検査の施行が増えていましたが、
その一方でその後の死亡リスクや、
心臓病関連の入院のリスク、
また心臓のカテーテル治療施行のリスクについては、
有意な差はありませんでした。

これをもって症状のない心電図検査は全て無用、
というのは言い過ぎだと思いますが、
医者のスタンスによって心電図検査の実施基準が大きく異なり、
その多くが実際にはあまりその人の予後に結び付いていない、
という指摘は重く受け止める必要があり、
今後どのような患者さんに心電図検査がメリットがあるのか、
そうした検証を元にしたより具体的な指針が、
作成されることが望ましいように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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コメント 4

ひでほ

血圧計のように、リスクある患者さんには簡易心電図計を普及させて、変なときはすぐ測定させるのがいいのではないかとひそかに思っています。10年選手のぼろいやつですが、おかしいときはコメントだしてくれるし重宝しています。その内容を執刀医の先生にメールしたら、来院するようにいわれ不整脈治療にこぎつけられました。
by ひでほ (2017-07-14 18:38) 

fujiki

ひでほさんへ
そうですね。
不整脈の疑いのあるような人には、
携帯の心電計の普及は有用だと思います。
by fujiki (2017-07-14 20:08) 

特急あずさ

先生、いつも興味深く拝見させて頂いております。
今日はいくつか質問させて頂きたいのですが、
今回心臓ドックをやろうとしてMRIを予約したのですが、
MRIの圧迫感に堪えられず検査が出来ませんでした・・・。
別に閉所恐怖症ではないのですが、それでもあの圧迫感は
耐えられれませんでした・・・。
私は心臓病の家系でさらに、時々徹夜明けに脈が飛ぶ感覚(胸
がゴロゴロしてドックンという感覚)があります。
心電図やエコーでの検査はやったことがあるのですが、やはり
突然死リスクの判定や血管の狭窄はCTやMRIなどでないと
判定は難しいのでしょうか?
by 特急あずさ (2017-08-01 22:17) 

fujiki

特急あずささんへ
不整脈については1日心電図があります。
冠動脈の狭窄については、
昔ながらの検査ですが運動負荷試験が有効だと思います。
まずはそうした検査をされて、
異常の疑いがあった場合に、
もう一度CTもしくはMRIを検討されるのが良いように思います。
by fujiki (2017-08-02 08:35) 

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