アジスロマイシンの気管支喘息予後改善効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のLancet誌にウェブ掲載された、
抗生物質を長期継続使用することによる、
気管支喘息の予後改善効果を検証した論文です。
気管支喘息の予後に大きな影響を与えるのは、
急性増悪と呼ばれる、
気道の感染などをきっかけとした、
呼吸状態の急激な悪化です。
気管支喘息の治療の第一選択は吸入ステロイドで、
充分量の吸入ステロイドで気道のアレルギー性の炎症を抑えても、
発作のコントロールが不安定である場合には、
長時間作用型の気管支拡張剤が併用されます。
しかし、そうした治療を継続していても、
急性増悪や重症の発作を繰り返すような患者さんが、
実際には少なからず存在しています。
つまり、そうしたコントロールに問題のある患者さんに対しては、
吸入ステロイドや気管支拡張債による治療だけでは、
不充分であるのです。
それではどうすれば良いのでしょうか?
急性増悪の引き金となっているのは、
細菌やウイルスなどによる気道の感染である、
という考え方があります。
とすると、
感染のコントロールに有効な薬剤を、
上乗せで使用することで、
急性増悪が予防される可能性が示唆されます。
慢性の気道感染のコントロールにおいて、
マクロライド系と呼ばれる種類の抗生物質の有効性が、
以前から研究対象となっています。
これはそもそも、
日本において一般の臨床医が、
びまん性汎細気管支炎という気道の慢性の感染が持続する病気に対して、
エリスロマイシンというマクロライド系の抗生物質を、
少量で長期継続することにより、
病状をコントロールすることが可能となった、
という知見が元になっています。
その後日本においては、
慢性の鼻炎や副鼻腔炎に対して、
マクロライドの少量長期使用が流行し、
その一方で欧米においては、
気管支喘息やCOPDの急性増悪の予防のために、
マクロライドの長期使用(必ずしも少量ではない)が、
流行するようになりました。
こうしたマクロライドの長期使用は、
抗菌作用を期待するものではなく、
その免疫調整作用や抗炎症作用、
抗ウイルス作用などが相まって、
その効果を現すのだと考えられています。
それでは気管支喘息の急性増悪に対する、
通常治療へのマクロライドの上乗せ効果は、
どの程度のものなのでしょうか?
また、抗生物質を長期使用することで、
何か健康上の問題は起こらないのでしょうか?
その点について最近幾つかのメタ解析や、
システマティック・レビューという、
これまでの臨床データをまとめて評価するような試みが行われていて、
その結論としては、
喘息の症状をマクロライドが改善する効果は認められたものの、
急性増悪の予防効果などについては、
明確な結果が得られませんでした。
これは効果がないという意味ではなく、
これまでの臨床データは、
そうした点に白黒を付けるほど充分なものではない、
とうことを意味しています。
そこで今回の臨床試験においては、
オーストラリアの複数の専門施設において、
18歳以上の気管支喘息の患者さんで、
充分量の吸入ステロイドと長期作用型の気管支拡張剤を使用していても、
喘息症状が不安定で急性増悪の既往のある、
トータル420名の患者さんを、
本人にも主治医にも分からないようにクジ引きで2つの群に分け、
一方はマクロライド系の抗生物質で、
長期作用型のアジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)を、
週に3回500mg使用することを48週間継続し、
もう一方は偽薬を使用して、
その間の急性増悪の有無などを比較検証しています。
副作用のリスクに配慮して、
心電図にQT延長という所見のある人や、
張力低下のある人は除外されています。
その結果…
喘息の急性増悪は、
アジスロマイシン群では年間1.07件であったのに対して、
偽薬群では年間1.86件で、
アジスロマイシンは喘息の急性増悪のリスクを、
41%有意に抑制していました。
(95%CI; 0.47から0.74)
観察期間中に1回でも急性増悪を起こした患者さんの比率は、
アジスロマイシン群で44%であったのに対して、
偽薬群では61%で、
これも明確にアジスロマイシン群で少ない、
という結果になっていて、
喘息に関する生活への影響をトータルに見ても、
明らかにアジスロマイシン群が良いという結果になっていました。
アジスロマイシンの有害事象では、
下痢が34%と最も多く認められました。
抗生物質の長期使用で危惧されるのは耐性菌の増加ですが、
この点については、
耐性菌自体は増えているものの、
それが臨床的な感染の増加などには繋がっていませんでした。
ただ、この点については、
今回のデータのみでは、
確実に問題がないとは言えないと記載されています。
このように、
今回の偽薬を使用した厳密な検証において、
アジスロマイシンの長期使用が、
気管支喘息の急性増悪を予防する効果が確認されました。
現状こうした処方は日本では認められていませんが、
今後マクロライドの喘息やCOPDの患者さんに対する長期使用は、
日本でも議論になるように思います。
これは勿論無害な治療ではないので、
どのような条件の患者さんに対して、
治療の適応を検討するのかを、
今後より詰める必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のLancet誌にウェブ掲載された、
抗生物質を長期継続使用することによる、
気管支喘息の予後改善効果を検証した論文です。
気管支喘息の予後に大きな影響を与えるのは、
急性増悪と呼ばれる、
気道の感染などをきっかけとした、
呼吸状態の急激な悪化です。
気管支喘息の治療の第一選択は吸入ステロイドで、
充分量の吸入ステロイドで気道のアレルギー性の炎症を抑えても、
発作のコントロールが不安定である場合には、
長時間作用型の気管支拡張剤が併用されます。
しかし、そうした治療を継続していても、
急性増悪や重症の発作を繰り返すような患者さんが、
実際には少なからず存在しています。
つまり、そうしたコントロールに問題のある患者さんに対しては、
吸入ステロイドや気管支拡張債による治療だけでは、
不充分であるのです。
それではどうすれば良いのでしょうか?
急性増悪の引き金となっているのは、
細菌やウイルスなどによる気道の感染である、
という考え方があります。
とすると、
感染のコントロールに有効な薬剤を、
上乗せで使用することで、
急性増悪が予防される可能性が示唆されます。
慢性の気道感染のコントロールにおいて、
マクロライド系と呼ばれる種類の抗生物質の有効性が、
以前から研究対象となっています。
これはそもそも、
日本において一般の臨床医が、
びまん性汎細気管支炎という気道の慢性の感染が持続する病気に対して、
エリスロマイシンというマクロライド系の抗生物質を、
少量で長期継続することにより、
病状をコントロールすることが可能となった、
という知見が元になっています。
その後日本においては、
慢性の鼻炎や副鼻腔炎に対して、
マクロライドの少量長期使用が流行し、
その一方で欧米においては、
気管支喘息やCOPDの急性増悪の予防のために、
マクロライドの長期使用(必ずしも少量ではない)が、
流行するようになりました。
こうしたマクロライドの長期使用は、
抗菌作用を期待するものではなく、
その免疫調整作用や抗炎症作用、
抗ウイルス作用などが相まって、
その効果を現すのだと考えられています。
それでは気管支喘息の急性増悪に対する、
通常治療へのマクロライドの上乗せ効果は、
どの程度のものなのでしょうか?
また、抗生物質を長期使用することで、
何か健康上の問題は起こらないのでしょうか?
その点について最近幾つかのメタ解析や、
システマティック・レビューという、
これまでの臨床データをまとめて評価するような試みが行われていて、
その結論としては、
喘息の症状をマクロライドが改善する効果は認められたものの、
急性増悪の予防効果などについては、
明確な結果が得られませんでした。
これは効果がないという意味ではなく、
これまでの臨床データは、
そうした点に白黒を付けるほど充分なものではない、
とうことを意味しています。
そこで今回の臨床試験においては、
オーストラリアの複数の専門施設において、
18歳以上の気管支喘息の患者さんで、
充分量の吸入ステロイドと長期作用型の気管支拡張剤を使用していても、
喘息症状が不安定で急性増悪の既往のある、
トータル420名の患者さんを、
本人にも主治医にも分からないようにクジ引きで2つの群に分け、
一方はマクロライド系の抗生物質で、
長期作用型のアジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)を、
週に3回500mg使用することを48週間継続し、
もう一方は偽薬を使用して、
その間の急性増悪の有無などを比較検証しています。
副作用のリスクに配慮して、
心電図にQT延長という所見のある人や、
張力低下のある人は除外されています。
その結果…
喘息の急性増悪は、
アジスロマイシン群では年間1.07件であったのに対して、
偽薬群では年間1.86件で、
アジスロマイシンは喘息の急性増悪のリスクを、
41%有意に抑制していました。
(95%CI; 0.47から0.74)
観察期間中に1回でも急性増悪を起こした患者さんの比率は、
アジスロマイシン群で44%であったのに対して、
偽薬群では61%で、
これも明確にアジスロマイシン群で少ない、
という結果になっていて、
喘息に関する生活への影響をトータルに見ても、
明らかにアジスロマイシン群が良いという結果になっていました。
アジスロマイシンの有害事象では、
下痢が34%と最も多く認められました。
抗生物質の長期使用で危惧されるのは耐性菌の増加ですが、
この点については、
耐性菌自体は増えているものの、
それが臨床的な感染の増加などには繋がっていませんでした。
ただ、この点については、
今回のデータのみでは、
確実に問題がないとは言えないと記載されています。
このように、
今回の偽薬を使用した厳密な検証において、
アジスロマイシンの長期使用が、
気管支喘息の急性増悪を予防する効果が確認されました。
現状こうした処方は日本では認められていませんが、
今後マクロライドの喘息やCOPDの患者さんに対する長期使用は、
日本でも議論になるように思います。
これは勿論無害な治療ではないので、
どのような条件の患者さんに対して、
治療の適応を検討するのかを、
今後より詰める必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本
2017-07-07 07:53
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