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院外心停止の1年後の予後とAEDの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
院外心停止の予後.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
院外心停止とその予後についての論文です。

日本でも町のあちこちにAEDと呼ばれる、
心臓に電気ショックを与えて、
主に心室細動と呼ばれる重症の不整脈を、
治療する装置が設置され、
心臓マッサージや人工呼吸を含めて、
救急蘇生の講習が、
一般の方向けにも行われるようになりました。

その目的は、
医療機関の外で突然心停止を来したような場合に、
そのまま何もせずに救急車が到着するまで待っているのでは、
心停止中に脳がダメージを受け、
その後心臓の働きは再開しても、
脳のダメージは元に戻らない、
という知見を元にしています。

実際に電気ショックを含めた適切な処置を、
心停止から間もない時間に施すことにより、
院外心停止の救命率は格段に向上していることが、
国内外の調査で裏付けられています。

しかし、
これまでに分かっているのは、
主に心停止の発作後30日間という、
生命予後と病状についてのみのデータです。

それでは、院外心停止で救命された患者さんの長期予後は、
一体どのようなもので、
それはAEDなどの使用の有無によって、
改善する性質のものなのでしょうか?

その疑問を検証する目的で今回の研究では、
国民総背番号制を取っているデンマークの医療データを活用して
(昨日ご紹介した論文と同じデータです)、
2001から2012年に院外心停止を来し、
30日経過した後にも生存していた2855名を対象として、
その後1年の時点での生命予後と、
後遺症の有無を初期治療毎に検証しています。

その間の院外心停止は34459名
(総数42089名から今回の登録基準を満たさないものを除外)で、
その30日での救命率は8.3%となっています。

2001年から2012年の間に、
その救命率は3.9%から12.4%に増加していて、
AEDなどの使用の増加が、
この救命率の増加に結び付いているものと想定されます。

その30日時点の生存者2855名中、
153名は一般の方によるAED(電気ショック)を受けていて、
AEDを受けた患者さんの9割以上は心臓マッサージも一緒に受けていました。
534名は特に蘇生処置を受けずに救急車を待ち、
1069名は心臓マッサージのみを受け、
771名は救急隊員が居合わせて処置を受けていました。

その30日時点の生存者のうち、
1年の観察期間中に脳障害を認めたか介護施設に入所した事例は、
全体の10.5%で、
死亡した事例は9.7%でした。

そして、
その場に居合わせた人によって、
心臓マッサージが施行された事例では、
されなかった事例に比較して、
1年後の脳障害もしくは介護施設入所のリスクは38%
(95%CI;0.47から0.82)、
1年後の死亡のリスクは30%
(95%CI;0.50から0.99)、
それぞれ有意に低下していました。
AEDによる電気ショックが行われた事例では、
脳障害や死亡のリスクはより低くなっていました。

以上をまとめた図がこちらです。
院外心停止の処置の図.jpg
赤の何も現場で蘇生処置をしなかった場合と比較して、
心臓マッサージやAEDによる処置を行うことにより、
脳障害のリスクや死亡リスクは明確に抑制されています。
(青がAED使用で、緑が心臓マッサージです)
黄色は心停止時に
1年後の障害も死亡リスクも、
より低下していることが分かります。
黄色は救急隊員や救急医が現場にいて蘇生措置をした場合で、
脳障害のリスクは最も低いのですが、
死亡リスクは素人によるAED群より高く、
これは患者さんがより高齢で持病のあるケースが多いことが、
その原因と想定されています。

このように院外心停止を救命するには、
心停止後速やかに、
そばにいる人が心臓マッサージやAEDを施行することが、
その時点でも救命率を増加させるばかりか、
1年後の生命予後や脳障害の予防にも、
良い影響を与えることが確認されたのです。

AEDの必要性と意義は、
より高まったと言って良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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