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原発性アルドステロン症と脊椎の骨折リスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アルドステロン症と骨折リスク.jpg
今年のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
原発性アルドステロン症という副腎の病気と、
骨折のリスクとの関連についての論文です。

島根大学内分泌代謝血液内科の、
杉本利嗣先生のグループの研究です。

原発性アルドステロン症は、
副腎からのアルドステロンというホルモンが、
過剰に分泌されるために、
血圧が上昇し、血液のカリウム値が低下する、
という病気です。

以前は通常の高血圧として診断がされないケースが多かったのですが、
最近ではレニン活性やアルドステロン値を測定することが一般化したので、
多く診断されるようになりました。

さて、高血圧や心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患では、
骨粗鬆症やそれに伴う骨折が多い、
という疫学データが複数存在しています。
その原因の1つとして、
アルドステロンを含むレニン・アンジオテンシン系の、
過剰な反応の影響を指摘する意見があります。

レニンの刺激によって活性化される、
アンジオテンシンⅡという昇圧物質は、
骨を吸収する破骨細胞を活性化して、
骨量の減少につながる可能性があります。
また、アルドステロンは遠位尿細管という部分での、
カルシウムの再吸収を抑制する作用があることが分かっていて、
これは結果的にカルシウムの排泄を増加させるので、
血液のカルシウムの低下が副甲状腺ホルモンを刺激して、
骨の吸収の増加に繋がり、
骨量が減少する、という可能性も想定されます。

そこで今回の研究では、
56名の原発性アルドステロン症の患者さんと、
年齢や性別をマッチングさせた56名の病気のないコントロールとを比較して、
椎骨(背骨)の骨折との関連を検証しています。
これは経過を追った研究ではなく、
登録時に既往もしくはレントゲンの検査で、
骨折の確認された頻度を比較しているもののようです。

原発性アルドステロン症の患者さんは、
そのうちの16名が片側の腺腫が見つかって手術を受けていて、
12名の患者さんは両側の過形成との診断になっています。
静脈サンプリングまで施行されたのは34名で、
それ以外の方は負荷テストまででの診断となっています。
つまり、治療と未治療の患者さんが混在しています。

その結果、
原発性アルドステロン症の患者さんのうち、
45%に当たる25名で脊椎の骨折が見つかり、
コントロールでは23%に当たる13名でした。
アルドステロン症群で有意に骨折の頻度が高いという結果です。
またより重症の骨折の比率も、
アルドステロン症群で多いという結果になっていました。
他に両群で差のあった項目は、
血圧値がアルドステロン症群で有意に高かった点と、
尿中へのカルシウム排泄が、
アルドステロン症群で高かったという点のみでした。
コントロール群でのアルドステロンなどの測定は行われていません。

患者さんの年齢は50代の後半で、
それで45パーセントに背骨の骨折というのは、
平均からしてかなりの高頻度と言うことが出来ます。
骨量の測定は行われていますが、
こちらは両群で有意な差は見られていません。

何故こんなにも骨折の患者さんが多いのでしょうか?

原発性アルドステロン症の存在のみを理由にするには、
この頻度の多さはちょっと説明が困難であるような気もします。

この研究は本来は未治療のアルドステロン症のみで比較するか、
治療後と未治療とを比較する、
という手法が望ましいと考えられますが、
実際には例数を集めることが困難なので、
こうした区分になったのではないかと思われます。
コントロール群の血圧は正常なので、
血圧値に差が付いているという点も問題だと思います。
骨折の差が血圧の差であるという可能性も否定は出来ないからです。

血圧の治療薬には立ちくらみを起こすようなものもあり、
アルドステロン症の内科的治療薬として使用されるアルドステロン拮抗薬は、
利尿作用がありますから、
脱水によるふらつきなどの発症が、
骨折のリスクになった可能性も否定は出来ません。

従って、今回の不充分なデータからは、
骨折の原因とアルドステロン症との関連については、
確かなことは言えないのですが、
高血圧と骨折とに関連があり、
それが尿中のカルシウム排泄と関連がありそうだ、
という指摘は興味深く、
アルドステロン症に限らず高血圧の患者さんを治療する場合には、
骨折や骨粗鬆症のリスクの評価が、
重要であることは間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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