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ステロイドの短期使用とその悪影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
短期ステロイドの悪影響.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
短期のステロイド治療の身体に与える影響についての論文です。

ステロイド(糖質コルチコイド)は、
副腎皮質から分泌されるホルモンで、
強い抗炎症作用と免疫抑制作用などを併せ持ち、
特に合成ステロイドであるプレドニゾロンやデキサメサゾンなどは、
その抗炎症作用が強力で、
炎症性疾患の治療薬などとして広く使用されています。

気管支喘息や慢性関節リウマチなどの慢性の炎症性の病気は、
このステロイドの使用により、
患者さんの予後は劇的に改善しました。

しかし、その一方でこの合成ステロイド剤を、
漫然と長期間使用することにより、
多くの有害事象が出現することも、
また徐々に明らかになりました。

合成ステロイドの長期使用により起こる有害事象としては、
結核や敗血症などの感染症のリスク増加や、
静脈血栓症、血管の壊死や骨折リスクの増加などがあり、
糖尿病や高血圧、骨粗鬆症の原因ともなります。

そのため、長期のステロイド剤の使用は、
他に代わり得る治療のない場合のみに限られ、
気管支喘息においては身体への影響の少ない吸入ステロイドに、
慢性関節リウマチの治療も、
ステロイドは最小限の使用にとどめ、
他の免疫抑制剤や、
遺伝子標的薬をより優先的に使用する流れになっています。

ここまでは最低でも1か月を超えるようなステロイドの使用についての話です。

それでは、
もっと短期間のステロイドの使用でも、
身体に何等かの悪影響があるのでしょうか?

この場合、
糖尿病や高血圧、骨粗鬆症などが、
短期間の使用で発症するとは考えにくいのですが、
感染症や骨折、血栓症のリスクの増加は、
起こらないとは言い切れません。

今回の研究ではアメリカの健康保険の医療データを活用することにより、
多数例において、
30日未満という短期間の経口ステロイド剤(主にプレドニゾロン)の処方と、
その後の病気の発症との関連性を検証しています。
医療データを後から解析したもので、
対象者を最初から登録して経過を追ったものではないので、
その精度は落ちる部分があるのですが、
その代わり非常に多数の事例の解析が可能となっています。

2012年から2014年までの解析が可能な、
18歳から64歳の加入者のデータ1548945名が対象で、
3年間で1度以上経口ステロイド剤の使用処方があったのは、
全体の21.1%に当たる327452名でした。

その処方目的で最も多かったのは、
上気道の感染症で、
次が腰椎ヘルニアなどによる疼痛、
蕁麻疹などのアレルギー症状などとなっていました。
アメリカではメチルプレドニゾロンの6日パックというものがあるようで、
平均の使用期間はそれを活用した6日間程度になっていました。
平均の1日使用量はプレドニゾロン換算で20ミリグラムくらいです。

ステロイド剤開始後30日間で見ると、
その間の敗血症のリスクは、
未使用と比較して5.30倍(95%CI;3.80から7.41)、
静脈血栓塞栓症のリスクは3.33倍(95%CI;2.78から3.99)、
骨折リスクは1.87倍(95%CI;1.69から2.07)と、
それぞれ有意に増加していました。
このリスクはステロイドの使用量が、
1日20ミリグラム未満でも認められ、
必ずしも用量依存性を示していませんが、
使用開始から30日以内とそれ以降との比較では、
明確に30日以内でのリスクがより高くなっていました。

このように短期的な経口ステロイドの使用においても、
感染症や血栓症、骨折のリスクは増加する可能性があり、
今回のデータは実際の事例を解析したものではないので、
その点は割り引いて考える必要がありますが、
その使用はより症例を選んで慎重に行う必要があると思いますし、
使用後30日はそうした合併症の発症に注意を払う必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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