抗凝固療法の質と脳梗塞の予後について [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
心房細動不整脈に伴う脳梗塞の発症と、
その重症度に与える抗凝固療法の効果についての論文です。
心房細動という不整脈があり、
心臓内の血液の滞りにより血の塊が出来て、
それが脳に飛んで脳梗塞(脳塞栓)を起こす原因となります。
心房細動になることにより、
4から5倍脳梗塞の危険性が増すと考えられています。
その予防のために、
通常血液を固まりにくくするような薬が使用されます。
心房細動患者さんの脳梗塞予防として、
最もその有効性が確認されているのは、
ワルファリンの使用です。
しっかりとコントロールされたワルファリンの使用により、
脳梗塞は6割以上予防されると報告されています。
アスピリンなどの抗血小板剤と呼ばれる薬が、
脳梗塞予防として使用されることもありますが、
その予防効果はせいぜい2割程度で、
ワルファリンとは大きな差があります。
最近ワルファリンと同等の効果を持つとされる、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤と呼ばれる薬が、
2011年以降に日本でも使用が開始されています。
直接トロンビン阻害剤やⅩa因子阻害剤の、
以前は新規抗凝固剤と呼ばれていた一連の薬剤です。
直接トロンビン阻害剤のダビガトラン(商品名プラザキサ)、
Ⅹa因子阻害剤のリバーロキサバン(商品名イグザレルト)、
アピキサバン(商品名エリキュース)、
エドキサバン(商品名リクシアナ)などがその代表です。
従って、脳梗塞のリスクがある程度高いと推定される場合には、
ワルファリンもしくは非ビタミンK阻害経口抗凝固剤を、
使用することが国際的に推奨されています。
ただ、実際の臨床においては、
ガイドラインで推奨されている患者さんのうち、
本当にしっかりと治療をされているのはどのくらいなのでしょうか?
ワルファリンはPT-INRという数値が、
2.0から3.0を目標としてコントロールすることが求められていますが、
それも実際にはどのくらいの患者さんで達成されているのでしょうか?
どちらも意外に低い数字であるような気もします。
今回の研究はアメリカの複数施設において、
心房細動があることが判明していて、
急性の虚血性脳梗塞を起こした患者さん、
トータル94474名の治療の実際と、
脳梗塞の予後との関連を検証しています。
実臨床における非常に大規模なデータです。
その結果…
解析されている患者さんの平均年齢は79.9歳で、
57.0%が女性です。
全体の7.6%に当たる7176名は、
PT-INRが2以上のコントロールされたワルファリン治療を受けていました。
また、8.8%に当たる8290名は、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤を使用していました。
一方で全体の83.6%に当たる79008名は、
ガイドラインで推奨されるような予防治療を受けてはいませんでした。
13.5%に当たる12751名は、
PT-INR2未満の不充分なワルファリン治療を受け、
39.9%に当たる37674名は、
アスピリンなどの抗血小板剤のみの治療を受け、
30.3%に当たる28583名は、
何の治療も予防のために行っていませんでした。
脳梗塞のリスクの指標であるCHA2DS2-VAScスコアが、
2以上という高リスクの91155名のみでの解析でも、
83.5%の患者さんは有効とされる抗凝固療法を受けていませんでした。
一方でNIHSSという指標で16点以上の中等度から重症の脳梗塞は、
未治療では27.1%で、抗血小板剤のみの治療では24.8%、
不充分なコントロールのワルファリンでは25.8%に見られたのに対して、
コントロールが適切なワルファリン治療では15.8%、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤治療では17.5%で、
脳梗塞を起こした場合の重症化は、
治療が適切ではない患者さんで、
より頻度が高くなっていました。
また、入院中の死亡率も、
未治療では9.3%で、抗血小板剤単独では8.1%、
不充分なコントロールのワルファリンでは8.8%であったのに対して、
コントロールが良好なワルファリンでは6.4%、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤では6.3%と、
死亡率も治療が適切である場合に有意に低くなっていました。
関連する因子を補正した結果として、
未治療の場合と比較して、
中等度から重度の脳梗塞になるリスクは、
コントロールされたワルファリン治療で44%(95%CI;0.51から0.60)、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤治療で35%(95%CI;0.61から0.71)、
抗血小板剤治療で12%(95%CI;0.84から0.92)、
それぞれ有意に抑制されていました。
つまり、
推奨される抗凝固療法を施行することにより、
万一脳梗塞を発症した場合でも、
その予後はより軽いものに留まっていた、
という結果になっています。
そして、心房細動においては抗凝固療法が推奨されていながら、
多くの高齢者において、
実際には不充分な治療しか行われていないか、
未治療のケースが、
脳梗塞を実際に起こした患者さんにおいては、
非常に多かった、ということも明らかになりました。
実臨床においては、
患者さんの年齢や状態、
出血系の合併症のリスクなどを重く見て、
抗凝固療法が控えられるケースが、
少なからずあるのですが、
今回の実際の臨床データを見る限り、
極力推奨される治療を行なった方が、
脳梗塞を発症したケースにおいても、
その予後には良い影響を与えることが多いと考えられます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
心房細動不整脈に伴う脳梗塞の発症と、
その重症度に与える抗凝固療法の効果についての論文です。
心房細動という不整脈があり、
心臓内の血液の滞りにより血の塊が出来て、
それが脳に飛んで脳梗塞(脳塞栓)を起こす原因となります。
心房細動になることにより、
4から5倍脳梗塞の危険性が増すと考えられています。
その予防のために、
通常血液を固まりにくくするような薬が使用されます。
心房細動患者さんの脳梗塞予防として、
最もその有効性が確認されているのは、
ワルファリンの使用です。
しっかりとコントロールされたワルファリンの使用により、
脳梗塞は6割以上予防されると報告されています。
アスピリンなどの抗血小板剤と呼ばれる薬が、
脳梗塞予防として使用されることもありますが、
その予防効果はせいぜい2割程度で、
ワルファリンとは大きな差があります。
最近ワルファリンと同等の効果を持つとされる、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤と呼ばれる薬が、
2011年以降に日本でも使用が開始されています。
直接トロンビン阻害剤やⅩa因子阻害剤の、
以前は新規抗凝固剤と呼ばれていた一連の薬剤です。
直接トロンビン阻害剤のダビガトラン(商品名プラザキサ)、
Ⅹa因子阻害剤のリバーロキサバン(商品名イグザレルト)、
アピキサバン(商品名エリキュース)、
エドキサバン(商品名リクシアナ)などがその代表です。
従って、脳梗塞のリスクがある程度高いと推定される場合には、
ワルファリンもしくは非ビタミンK阻害経口抗凝固剤を、
使用することが国際的に推奨されています。
ただ、実際の臨床においては、
ガイドラインで推奨されている患者さんのうち、
本当にしっかりと治療をされているのはどのくらいなのでしょうか?
ワルファリンはPT-INRという数値が、
2.0から3.0を目標としてコントロールすることが求められていますが、
それも実際にはどのくらいの患者さんで達成されているのでしょうか?
どちらも意外に低い数字であるような気もします。
今回の研究はアメリカの複数施設において、
心房細動があることが判明していて、
急性の虚血性脳梗塞を起こした患者さん、
トータル94474名の治療の実際と、
脳梗塞の予後との関連を検証しています。
実臨床における非常に大規模なデータです。
その結果…
解析されている患者さんの平均年齢は79.9歳で、
57.0%が女性です。
全体の7.6%に当たる7176名は、
PT-INRが2以上のコントロールされたワルファリン治療を受けていました。
また、8.8%に当たる8290名は、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤を使用していました。
一方で全体の83.6%に当たる79008名は、
ガイドラインで推奨されるような予防治療を受けてはいませんでした。
13.5%に当たる12751名は、
PT-INR2未満の不充分なワルファリン治療を受け、
39.9%に当たる37674名は、
アスピリンなどの抗血小板剤のみの治療を受け、
30.3%に当たる28583名は、
何の治療も予防のために行っていませんでした。
脳梗塞のリスクの指標であるCHA2DS2-VAScスコアが、
2以上という高リスクの91155名のみでの解析でも、
83.5%の患者さんは有効とされる抗凝固療法を受けていませんでした。
一方でNIHSSという指標で16点以上の中等度から重症の脳梗塞は、
未治療では27.1%で、抗血小板剤のみの治療では24.8%、
不充分なコントロールのワルファリンでは25.8%に見られたのに対して、
コントロールが適切なワルファリン治療では15.8%、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤治療では17.5%で、
脳梗塞を起こした場合の重症化は、
治療が適切ではない患者さんで、
より頻度が高くなっていました。
また、入院中の死亡率も、
未治療では9.3%で、抗血小板剤単独では8.1%、
不充分なコントロールのワルファリンでは8.8%であったのに対して、
コントロールが良好なワルファリンでは6.4%、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤では6.3%と、
死亡率も治療が適切である場合に有意に低くなっていました。
関連する因子を補正した結果として、
未治療の場合と比較して、
中等度から重度の脳梗塞になるリスクは、
コントロールされたワルファリン治療で44%(95%CI;0.51から0.60)、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤治療で35%(95%CI;0.61から0.71)、
抗血小板剤治療で12%(95%CI;0.84から0.92)、
それぞれ有意に抑制されていました。
つまり、
推奨される抗凝固療法を施行することにより、
万一脳梗塞を発症した場合でも、
その予後はより軽いものに留まっていた、
という結果になっています。
そして、心房細動においては抗凝固療法が推奨されていながら、
多くの高齢者において、
実際には不充分な治療しか行われていないか、
未治療のケースが、
脳梗塞を実際に起こした患者さんにおいては、
非常に多かった、ということも明らかになりました。
実臨床においては、
患者さんの年齢や状態、
出血系の合併症のリスクなどを重く見て、
抗凝固療法が控えられるケースが、
少なからずあるのですが、
今回の実際の臨床データを見る限り、
極力推奨される治療を行なった方が、
脳梗塞を発症したケースにおいても、
その予後には良い影響を与えることが多いと考えられます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本
2017-03-22 07:52
nice!(9)
コメント(3)
トラックバック(0)
いつも興味深く拝読させていただいております。2月24日に弁膜症(僧帽弁)の手術を受け、現在抗凝固薬のイグザレルトを服用していますが、服用期間が2~3カ月、または6カ月間とまちまちです。服用期間は何を基準にしてして決められているのでしょうか?お教えいただければ幸いです。
by kenrin (2017-03-22 15:27)
kenrinさんへ
生体弁の置換であれば、通常3か月の抗凝固で、
終了となる場合が多いと思いますが、
血栓のリスクが高い何等かの要因があれば、
それを超えて継続される場合もあると思います。
by fujiki (2017-03-22 16:25)
ありがとうございます。お伝えしそこないましたが、当方僧帽弁の弁形成と腱索の再建です。歯痛がたまらず抜歯や切開をしないという条件で歯科受診しましたが、ちょっとしたところから出血し、本日で3日目になるのでお伺いしました。リコメント、ありがとうございました。
by kenrin (2017-03-22 21:45)