SSブログ

マクロTSHと睡眠との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
マクロTSH.jpg
今月のScientific Reports誌にウェブ掲載された、
マクロTSHについての論文です。

甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、
脳下垂体から分泌されて、
甲状腺を刺激し、
甲状腺ホルモンの分泌を調節しているホルモンです。

この数値が高値であると、
通常は甲状腺ホルモンの分泌が不足していることを示しています。

要するに甲状腺機能低下症です。

しかし、稀にこのTSHが高値であっても、
T3やT4という甲状腺ホルモンの数値は、
正常であるという事例が報告されています。

TSH産生下垂体腫瘍などと共に、
その稀な原因の1つと考えられているのが、
IgGという免疫グロブリンと結合したマクロTSHです。

TSHは血液中では、
通常は蛋白質とは結合しない、
遊離ホルモンという状態で存在しているのですが、
そのうちの一部が血液中で免疫グロブリンと結合して、
マクロTSH(大きさの大きなTSH)という状態になることがあります。

免疫グロブリンというのは抗体ですから、
これは要するに抗TSH抗体が、
TSHと結合してしまう、
ということを意味しています。

抗体と結合したTSHは、
甲状腺のTSH受容体とは結合出来ませんから、
結果としてTSHとしての働きを示すことが出来ません。

そのために、
TSHは上昇しているのに、
甲状腺機能は正常ということが起こるのです。

症例報告ではTSHが96.0から274という高値に上昇し、
その多くがマクロTSHであったという事例が報告されています。

それでは、
通常に分泌されるTSHと、
抗体と結合してしまうTSHとの間には、
何等かの違いがあるのでしょうか?

この点についての1つの仮説は、
通常の下垂体前葉とは少し違う周辺の脳神経細胞から、
少しだけ構造の違うTSHが分泌されていて、
それは脳内のみで作用を持っているので、
血液中では抗体に結合して不活化されるのだ、
というものです。

2014年の名古屋大学の研究者らによる報告では、
下垂体の隆起葉という組織から、
その構造の違うTSHが分泌され、
ネズミにおいては春になると、
その部位からホルモンが分泌され、
生物に季節を知らせ、
そのTSHは血液中では抗体と結合してマクロTSHになる、
という結果になっています。

非常に興味深い報告ですが、
人間でもこうした現象があるかどうかは、
現時点では分かりません。

今回の研究は兵庫医科大学において、
脂質異常症や糖尿病など、
心血管疾患のリスクのある患者さん314名を登録し、
睡眠と動脈硬化や心血管疾患との関連を見る疫学研究の一環として、
血液のマクロTSHと睡眠の状態との関連を検証しています。

その結果TSHが正常であっても、
中間値で77.6%のTSHはマクロTSHの状態であることが確認されました。

TSHが高いほど、
マクロTSHの比率が高い傾向はあるのですが、
通常でも3分の2を超えるTSHは、
実際には抗体に結合した状態で存在しているということになり、
これはかなり驚くような結果です。

この研究ではアクチノグラフィーという簡易検査で、
計測された睡眠の状態において、
睡眠の持続などの指標が、
マクロTSHの高い人では低下していた、
という結果が示されていて、
マクロTSHの多い人は、
睡眠の状態も悪いのでは、
という仮説が提唱されています。

ただ、これはやや疑問に感じる結論です。

TSHの高い人は睡眠時無呼吸が多い、
というようなデータはあり、
それが実際にはトータルなTSHより、
マクロTSHの影響なのではないか、
ということが言いたいのだと思いますが、
そもそもTSHと睡眠時無呼吸との関連は、
甲状腺機能低下症において、
肥満や喉頭の浮腫みが生じやすく、
それが無呼吸の要因になっているのではないか、
という考えによっているのです。
今回登録された患者さんはそれほど肥満の人はなく、
甲状腺機能低下が著明な人もいないので、
前提はかなり異なっていると思います。

検査自体も簡易検査(脳波などは取っていない)によるものなので、
分類も中間値で2群に分けて比較したという大雑把なものですし、
これで睡眠とマクロTSHとの関連を、
云々出来るようなものではないと思うのです。

ただ、実際には多くのTSHが血液中では抗体と結合して、
その活性を持っていないという指摘は興味深く、
今後の検証を期待したいと思いますし、
甲状腺の臨床に関わっている立場からは、
トータルのTSHの濃度が、
必ずしも甲状腺機能を正確に反映していない可能性がある、
という指摘は、
重要なものであるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


nice!(13)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 13

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0