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抗うつ剤の適応外処方の実際 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
抗うつ剤の適応外処方.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
抗うつ剤の適応外処方についての論文です。

抗うつ剤の処方は世界的に最近著増していることが知られています。

この背景には、
うつ病が増加しているということもあるのですが、
うつ病以外への抗うつ剤の処方が、
増えているのでは、という見方もあります。

不安障害や睡眠障害に対しては、
ベンゾジアゼピン系の薬剤が広く使用されていましたが、
最近その依存性や常用性が大きな問題となり、
その使用は控えるべき、
という指針が相次いで発表され、
その処方量は激減しました。

しかし、実際には安定剤や睡眠剤が必要な患者さんは、
多く存在していることは確かで、
より問題の少ない処方行動として、
睡眠効果のある抗うつ剤や、
気分安定効果のある抗うつ剤が、
その代わりに使用されるようになったのです。

また、慢性疼痛や不定愁訴的な病態に対しても、
抗うつ剤が使用されることが多くなりました。

その使用は実際にプライマリケアにおいて、
どの程度の比率を占めるもので、
そこにはどのような問題があるのでしょうか?

今回の研究はカナダのプライマリケアでのもので、
日本とカナダでの薬剤の適応病名にも違いがあるので、
全てがそのまま日本の状況に合うものではありませんが、
参考になる点は多いと思います。

抗うつ剤の適応外使用として、
科学的な根拠が確かなものを上記文献では3つ挙げています。
それは、三環系抗うつ剤のアミトリプチリン(商品名トリプタノール)の、
疼痛(特に慢性疼痛)への効果と、
SSRIのエスシタロプラム(商品名レクサプロ)の、
パニック障害への効果、
そしてベンファラキシン(商品名イフェクサー)の、
強迫性障害への効果です。

一方で実際の適応外処方として多かったのは、
三環系抗うつ剤で特にアミトリプチリンが多く、
その使用目的は疼痛以外に、不眠、片頭痛などとなっています。
次に多かったのはトラゾドン(商品名デジレル、レスリン)や、
ミルタザピン(商品名リフレックス)で、
これは主に不眠症の治療として使用されています。
その一方でSSRIやSNRIはその多くが、
うつ病の治療目的で使用されていました。

実際の頻度としては、
三環系抗うつ剤はその81.4%が、
適応外処方として使用され、
その他の分類されるトラゾドンなどが、
次に適応外処方が多くて42.4%となり、
一方でSSRIの適応外処方は21.8%、
SNRIの適応外処方は6.1%となっていました。

このように抗うつ剤が新しくなるにつれ、
古いタイプの抗うつ剤は、
うつ病以外の用途にシフトして、
適応外処方が多くなる傾向にあり、
それが必ずしも誤りとは言えないのですが、
広く使用されている不眠症への抗うつ剤の使用などには、
それほどの科学的裏付けはない、
という事実は心にとめておく必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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