原発性アルドステロン症の長期生命予後 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2012年のHypertension誌に掲載された、
原発性アルドステロン症の長期予後を、
通常の高血圧の患者さんと比較検証した論文です。
原発性アルドステロン症は、
高血圧を起こすホルモンの病気の代表で、
副腎に腺腫や過形成が出来、
そこから過剰のアルドステロンというホルモンが分泌されます。
アルドステロンは身体のナトリウムと水を、
保持する働きを持つホルモンなので、
その過剰な分泌により、
血液量は増加して高血圧になるのです。
同時にアルドステロンはナトリウムの保持のため、
交換としてカリウムを排泄するので、
血液のカリウム濃度が低下して、
低カリウム値症になります。
従って、原発性アルドステロン症の健康上の問題は、
主には高血圧と低カリウム血症ということになります。
原発性アルドステロン症の患者さんでは、
心筋梗塞などの心血管疾患のリスクが増加することが知られています。
しかし、
それでは手術やアルドステロン拮抗薬の内服により、
治療をされたアルドステロン症の患者さんでも、
その予後は通常の高血圧の患者さんや、
正常血圧の人と比較して、
明確な差があるものなのでしょうか?
この点については、
上記論文が発表されるまで、
あまり長期の検証が行われていませんでした。
上記論文においては、
ドイツにおいて3つの大学病院で治療された、
300名の原発性アルドステロン症の患者さんを、
10年を超える長期の経過観察を行い、
年齢や性別をマッチさせた、
600名の正常血圧のコントロールと、
600名の本態性高血圧で治療中の患者さんと、
生命予後などの比較検証を行っています。
原発性アルドステロン症の患者さんは、
そのほぼ半数が片側の副腎切除術を施行されています。
それ以外の患者さんも、
抗アルドステロン剤を含む降圧剤により、
血圧のコントロールが施行されています。
ただ、登録の時点での血圧値は、
通常の高血圧治療群より原発性アルドステロン症群で、
有意に高くなっています。
登録後10年間の生存率は、
正常血圧のコントロール群で95%であったのに対して、
本態性高血圧治療群では90%、
そして原発性アルドステロン症治療群でも90%で、
3群間に有意な差は認められませんでした。
原発性アルドステロン症群において、
その生命予後に影響を与える因子を検証したところ、
狭心症のある人はない人と比較して、
死亡リスクは3.6倍(95%CI:1.04から12.04)、
糖尿病があることにより2.55倍(95%CI: 1.07から6.09)、
死亡リスクは有意に増加していました。
興味深いことに血液のカリウム値が3.2mmol/L未満であると、
死亡リスクは36%有意に低下していました。
原発性アルドステロン症の患者さんの、
心血管疾患のよる死亡の総死亡に占める割合は50%で、
本態性高血圧治療群の34%より有意に高くなっていました。
ただ、正常血圧のコントロール群でもその比率は38%あり、
こちらは原発性アルドステロン症群と、
有意な差は認められませんでした。
要するに、
原発性アルドステロン症で治療をされている患者さんの、
10年を超える長期の生命予後は、
トータルには通常の高血圧の患者さんと違いはなく、
心血管疾患による死亡はやや多いという可能性はありますが、
それを特別視する必要は現時点ではないようです。
個人的には血圧コントロールが充分に取られていて、
問題となるようなカリウムの低下を伴わない原発性アルドステロン症は、
通常の高血圧と同等に考えて良いのではないかと考えます。
問題となるのは低カリウム血症による症状があったり、
降圧剤でコントロールが困難な高血圧を伴うケースで、
そうした場合に初めてこの病気を、
通常の高血圧と別個のものとして、
捉える必要があるのではないでしょうか。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2012年のHypertension誌に掲載された、
原発性アルドステロン症の長期予後を、
通常の高血圧の患者さんと比較検証した論文です。
原発性アルドステロン症は、
高血圧を起こすホルモンの病気の代表で、
副腎に腺腫や過形成が出来、
そこから過剰のアルドステロンというホルモンが分泌されます。
アルドステロンは身体のナトリウムと水を、
保持する働きを持つホルモンなので、
その過剰な分泌により、
血液量は増加して高血圧になるのです。
同時にアルドステロンはナトリウムの保持のため、
交換としてカリウムを排泄するので、
血液のカリウム濃度が低下して、
低カリウム値症になります。
従って、原発性アルドステロン症の健康上の問題は、
主には高血圧と低カリウム血症ということになります。
原発性アルドステロン症の患者さんでは、
心筋梗塞などの心血管疾患のリスクが増加することが知られています。
しかし、
それでは手術やアルドステロン拮抗薬の内服により、
治療をされたアルドステロン症の患者さんでも、
その予後は通常の高血圧の患者さんや、
正常血圧の人と比較して、
明確な差があるものなのでしょうか?
この点については、
上記論文が発表されるまで、
あまり長期の検証が行われていませんでした。
上記論文においては、
ドイツにおいて3つの大学病院で治療された、
300名の原発性アルドステロン症の患者さんを、
10年を超える長期の経過観察を行い、
年齢や性別をマッチさせた、
600名の正常血圧のコントロールと、
600名の本態性高血圧で治療中の患者さんと、
生命予後などの比較検証を行っています。
原発性アルドステロン症の患者さんは、
そのほぼ半数が片側の副腎切除術を施行されています。
それ以外の患者さんも、
抗アルドステロン剤を含む降圧剤により、
血圧のコントロールが施行されています。
ただ、登録の時点での血圧値は、
通常の高血圧治療群より原発性アルドステロン症群で、
有意に高くなっています。
登録後10年間の生存率は、
正常血圧のコントロール群で95%であったのに対して、
本態性高血圧治療群では90%、
そして原発性アルドステロン症治療群でも90%で、
3群間に有意な差は認められませんでした。
原発性アルドステロン症群において、
その生命予後に影響を与える因子を検証したところ、
狭心症のある人はない人と比較して、
死亡リスクは3.6倍(95%CI:1.04から12.04)、
糖尿病があることにより2.55倍(95%CI: 1.07から6.09)、
死亡リスクは有意に増加していました。
興味深いことに血液のカリウム値が3.2mmol/L未満であると、
死亡リスクは36%有意に低下していました。
原発性アルドステロン症の患者さんの、
心血管疾患のよる死亡の総死亡に占める割合は50%で、
本態性高血圧治療群の34%より有意に高くなっていました。
ただ、正常血圧のコントロール群でもその比率は38%あり、
こちらは原発性アルドステロン症群と、
有意な差は認められませんでした。
要するに、
原発性アルドステロン症で治療をされている患者さんの、
10年を超える長期の生命予後は、
トータルには通常の高血圧の患者さんと違いはなく、
心血管疾患による死亡はやや多いという可能性はありますが、
それを特別視する必要は現時点ではないようです。
個人的には血圧コントロールが充分に取られていて、
問題となるようなカリウムの低下を伴わない原発性アルドステロン症は、
通常の高血圧と同等に考えて良いのではないかと考えます。
問題となるのは低カリウム血症による症状があったり、
降圧剤でコントロールが困難な高血圧を伴うケースで、
そうした場合に初めてこの病気を、
通常の高血圧と別個のものとして、
捉える必要があるのではないでしょうか。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本
2016-12-21 08:16
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コメント(1)
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前回の原発性アルドステロン症に関するブログでは、コメントでアドバイスいただき有難うございました。
私は現在、セララ100mgとアムロジピン5mgで家庭血圧は基準値です。ただ診察室で測ると毎回結構高めになりますが。カリウム値も低値ではありますが基準値内で安定しております。
そこで、あれからずっと考えておりました副腎静脈サンプリング検査ですが、これまで先生のブログを読ませていただき、また今回の記事からも、手術は検討する必要はないのではないかと思いました。副腎静脈サンプリング検査の結果が手術適応となって副腎を摘出しても…また両側性で薬物療法になる可能性もあるわけですし。
そして私が出した結論は、このままセララとアムロジピンを服用し続けていきます!です。
先生、私の出した結論で他と比較して生命予後に有意差はないのですよね?
by アイ (2016-12-23 22:18)