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クランベリーの高齢者尿路感染に対する有効性(2016年介入試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
クランベリーの介入試験.jpg
今月のJAMA誌に掲載された、
クランベリーの高齢者尿路感染予防効果についての論文です。

尿路感染は特に女性や高齢者で再発をしやすく、
頻度の高い感染症です。
原因としては大腸菌などによる細菌感染が多く、
そのために短期間の抗生物質が使用されますが、
繰り返しやすく疾患であるため、
抗生物質の使用も頻回となる傾向があり、
耐性菌などの問題も生じて来ます。

そこで注目されるのが、
抗生物質以外で尿路感染を予防出来るような方法が、
何かないのか、ということです。

クランベリーは日本ではそれほど馴染みがありませんが、
ジュースやドライフルーツなどとして、
海外では広く摂取されている食品です。

このクランベリーを定期的に摂取することで、
尿路感染症が予防されるという知見は、
既に1920年代には報告のある古いもので、
そもそもは生活の知恵的なものであったと思われます。

それが1980年代に、
クランベリーに含まれるA型プロアントシアニジンという、
独特のポリフェノールが、
大腸菌の膀胱の細胞への付着を、
阻害するような作用があることが報告されます。

クランベリーの予防効果の、
メカニズムの点での裏付けが得られることになったのです。

その後クランベリーの尿路感染症予防効果についての、
臨床試験が複数行われました。

それをまとめたものがこちらです。
クランベリーのメタ解析.jpg
これは2012年のArch Intern Med.誌の論文で、
これまでのクランベリーの予防効果をまとめて解析したものです。

13の臨床試験における1616名の患者さんのデータを、
まとめて解析した結果として、
クランベリーの使用により、
尿路感染症のリスクは38%(95%CI;0.49から0.80)と、
有意に低下が認められました。
ただ、データはかなりばらつきの多いもので、
信頼性の高い結果とは言えませんでした。

ある臨床試験においては、
1日300ミリリットルのクランベリージュースを、
平均年齢78歳の高齢女性が半年間継続して使用したと記載されています。
しかし、クランベリーは酸味がきつく、
この集団で実際に何人が継続して飲むことが出来たのか、
にわかには信用出来ないようなデータが多いのが実際なのです。

そこで今回の研究においては、
クランベリージュース600ミリリットルに相当する、
A型プロアントシアニジン72mgをカプセルにして毎日使用し、
クジ引きでコントロール群は偽のカプセルを使用するという、
厳密な方法で、高齢女性における、
クランベリー含有ポリフェノールの、
尿路感染予防効果を検証しています。

日本の特別養護老人ホームに近い施設である、
アメリカの複数のナーシングホームに居住する、
65歳以上の女性トータル185例を、
クジ引きで2つの群に分け、
1年間の経過観察を行っています。

その結果、
2か月毎に行われた6回の尿検査で、
細菌尿や膿尿が認められたのは、
クランベリーカプセル使用群の25.5%に対して、
偽カプセル群は29.5%で、
これは両者の差に関連する因子を補正すると、
全く違いはない、という結果になりました。

症状のある尿路感染症の発症や入院、抗生物質の使用期間、
などにおいても、
やや実数としてはクランベリーカプセル使用群が少なかったものの、
統計的に偽薬との間の差は認められませんでした。

要するに今回の厳密な検証では、
クランベリーの抽出物の使用により、
明確な高齢女性の尿路感染予防効果は確認されませんでした。

ただ、このデータは方法は厳密ですが例数は少なく、
クランベリージュースとカプセル含有ポリフェノールが、
その効能的に全く同一とも言えないので、
クランベリーが無効であるとも言い切れないように思います。

しかし、少なくとも薬として使用出来るような有効性はない、
と考えた方が良いようで、
クランベリージュースをコップ1杯くらい夜に飲む習慣は、
そう悪くはない可能性があるけれど、
それを強要するようなものではないと、
考えておいた方が良いのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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