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コレステロール降下療法と糖尿病リスク(2016年遺伝子解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ゼチーアの糖尿病リスクを推測する.jpg
先月のJAMA誌に掲載された、
コレステロール降下剤と2型糖尿病の発症リスクについての論文です。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
強力なLDLコレステロールの低下作用を持ち、
その使用により、
心筋梗塞などの心血管疾患の、
予防効果のあることが実証されている薬剤です。

ただ、有効性の確立している一方で、
多くの有害事象や副作用のある薬でもあります。

その中で体重増加作用と、
新規の糖尿病の発症リスクを増加させる作用については、
スタチン自体のターゲットである、
HMGCRという酵素の阻害作用自体にその原因のあることが、
遺伝子の解析からほぼ明らかになっています。

HMGCRの活性のみが低下する変異のある人では、
スタチンを使用するのと同じように、
体重増加や糖尿病のリスクが増加することが確認されたからです。

それではスタチン以外のコレステロール降下剤はどうでしょうか?

今スタチン以外で最も広く使用されているコレステロール降下剤は、
エゼチミブ(商品名ゼチーア)です。
この薬は小腸でのコレステロールの吸収を抑える薬です。
そのメカニズムは、
小腸におけるコレステロール輸送蛋白である、
NCP1L1(Niemann-Pick C1-like 1)の阻害にあります。

現状エゼチミブでは、
スタチンと同じような体重増加や2型糖尿病との関連は知られていません。

今回の研究では、
これまでヨーロッパとアメリカで行われた遺伝子解析のデータを活用して、
コレステロール降下剤に関連する遺伝子と、
2型糖尿病のリスクとの関連を検証しています。

2型糖尿病の患者さん50775例と、
そのコントロールの270269例、
そして冠動脈疾患の患者さん60801例と、
そのコントロールの123504例をまとめて解析した、
非常に大規模なものです。

解析されているのは、
スタチンに関連するHMGCR遺伝子と、
アゼチミブのターゲットであるNPC1L1遺伝子、
最近発売されたコレステロール降下剤の注射薬である、
PCSK9阻害剤のターゲットであるPCSK9遺伝子、
LDLコレステロールの細胞内の取り込みに関わるLDLR遺伝子、
そして体内の脂質量のコントロールに関わる、
ABCトランスポーターに関わるABCG5/G8遺伝子で、
その遺伝子の変異及びその近傍の変異が対象となっています。

その結果…

HPC1L1遺伝子の機能を抑制する変異は、
冠動脈疾患のリスクを、
LDLコレステロール38.7mg/dLの低下により、
31%(0.42から0.88)有意に低下させていました。
その一方で同じLDLコレステロール38.7mg/dLの低下により、
2型糖尿病の発症リスクは2.42倍(1.70から3.43)有意に増加していました。

これはつまり、
アゼチミブを使用することにより、
スタチンと同じように、
2型糖尿病の発症リスクが増加するという可能性を示唆しています。

他の遺伝子の変異の解析では、
スタチンと関連するHMGCRの機能を抑制する変異により、
LDLコレステロール38.7mg/dLの低下当たり、
2型糖尿病のリスクは1.39倍(1.12から1.73)有意に増加し、
PCSK9の機能を抑制する変異では、
同様の2型糖尿病のリスクは1.19倍(1.02から1.38)に留まっていました。

つまり今回の解析においては、
スタチン以上にエゼチミブは、
2型糖尿病のリスクの増加をもたらす可能性が高い、
という結果になっています。
その一方でPCSK9阻害剤は、
そうした影響は皆無とは言えないものの、
極軽微なものに留まる可能性が高い、
ということになります。

これはまだ遺伝子変異から推測された仮定の結果ですから、
それがそのまま臨床的な事実ということではないのですが、
コレステロール降下療法における2型糖尿病の発症リスクの増加は、
スタチンではあるけれどエゼチミブでは安全、
ということはなく、
同様のチェックが必要な性質のものであると、
そう考えておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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コメント 5

みき

いつも興味深い記事ありがとうございます。以前の先生の記事で「低量のスタチンとエゼチミブの併用は大変魅力的」とありましたが、この記事を見ると新期糖尿病発症リスクの観点から見るとエゼチミブはスタチンより良くないと読めま。先生のお考えでは現時点でLDL低下で1番いい薬は何だと思われますか?
by みき (2023-06-23 13:32) 

fujiki

みきさんへ
いつもお読みいただきありがとうございます。
現時点でエビデンスの蓄積からは、
矢張り第一選択はスタチンかと思います。
by fujiki (2023-06-23 19:00) 

みき

ありがとうございます。ということは、今より更にLDLを下げたいといったような時はスタチンにエゼチミブを追加するより、スタチンの増量がベターというお考えでしょうか?
by みき (2023-06-24 01:23) 

fujiki

みきさんへ
そこは難しいところで、
ガイドライン的には特に有害事象がなければ、
スタチンを充分量まで増量することがベターとされています。
特に心筋梗塞などの二次予防ではその方が良いと思います。
ただ、一次予防(まだ病気を起こす前の予防)では、
より慎重に判断した方が良いので、
スタチンを増量したくない場合には、
エゼチミブとの併用も有効な選択肢ではあると思います。
by fujiki (2023-06-24 09:41) 

みき

お返事ありがとうございます。
1次予防の時にスタチン増量をためらう理由は何かあるのでしょうか?新規糖尿病のリスクを考えるとスタチン増量を無難に思えてしまいのですが…。ご教授お願いいたします。
by みき (2023-06-24 10:46) 

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