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原発性アルドステロン症の診断に静脈サンプリングは必要なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
PAの診断とその経過.jpg
今月のthe Lancet Diabetes Endocrinology誌に掲載された、
原発性アルドステロン症の診断法と、
その予後の違いについての論文です。

原発性アルドステロン症というのは、
副腎からアルドステロンという、
ナトリウムと体液量を維持するホルモンが過剰に分泌されるため、
高血圧と低カリウム血症とが生じる、
二次性高血圧の代表的な病気です。

海外の統計によれば、
高血圧のある患者さんのうち、
5から15%はこの病気であるとのことです。

この病気はかつては見逃されることが多かったのですが、
最近ではレニン活性やアルドステロンの測定が、
以前より広く行われるようになったため、
診断される機会が増えました。

さて、この原発性アルドステロン症は、
片方の副腎に腺腫というしこりがある場合と、
両側の副腎にしこり(過形成)がある場合の、
2通りに分けられます。

このうち片方の副腎のみにしこりがあって、
そこから過剰なアルドステロンが分泌されているのであれば、
その腺腫を外科的に手術することにより、
血圧やカリウム値の安定が期待出来ます。
その一方で両側の副腎の過形成の場合には、
左右差はあっても両側の副腎からホルモンが出ているので、
一方だけを取っても有効ではないと考えられ、
通常ホルモンの効果を抑えるような、
薬物治療が選択されます。

それでは、
片側の腺腫と両側の過形成を、
診断するにはどうすれば良いのでしょうか?

通常まずCT(もしくはMRI)の検査をして、
副腎にあるしこりを検索します

片側のみにしこりがあれば、
腺腫である可能性が高く、
両側に複数のしこりがあれば、
過形成の可能性が高くなります。

ただ、これは機能的な診断ではないので、
本当にそのしこりから、
アルドステロンが出ているのかどうかは分かりません。
腺腫のように画像的には見えても、
実際にはホルモンを分泌していないようなしこりもあるからです。

それでは、
しこりがホルモンを出しているかどうかを、
どのようにして証明するかと言うと、
それは「副腎静脈サンプリング」という一種の血管造影の検査を行います。

これは足の付け根の静脈からカテーテルを入れ、
それを左右の副腎の静脈に挿入して、
左右の静脈から血液を採取し、
その場所のホルモンの濃度を測定するのです。

典型的な腺腫であれば、
それがある方のアルドステロンが増加していますから、
その左右差から病変の場所を確定するのです。

ある報告によると、
38%の術前診断では、
CTによる診断と静脈サンプリングによる診断は、
一致していなかったということです。

こうした結果からは、
原発性アルドステロン症の術前診断のためには、
副腎静脈のサンプリングが必須であると考えられます。

しかし…

原発性アルドステロン症という病気は、
診断が確定して手術をしても、
必ずしも臨床的に治癒する、
という病気ではありません。

手術後も降圧剤が必要となることは稀ではありませんし、
当初は腺腫と思われていても、
切除後しばらくしてから、
今度は対側にしこりが見つかるというようなこともあります。

つまり、
術前の診断が正確であっても、
それが患者さんの予後の差にも繋がる、
という確証は必ずしもないのです。

そこで今回の研究では、
原発性アルドステロン症が疑われる患者さん、
トータル200名をくじ引きで2つに分け、
一方はCTのみで腺腫か過形成かの診断を行い、
もう一方は副腎静脈サンプリングを行って、
より確実な診断を確定します。
そして、腺腫であれば手術を施行し、
過形成であればホルモン拮抗剤による内服治療を行なって、
1年後の血圧を含めた予後を比較します。

その結果…

184名の患者さんが観察期間を終えました。
CT主体の診断をされた92名のうち、
46名は副腎摘除術を行い、46名は内服治療を行ないました。
一方で静脈サンプリングを行った92名中では、
矢張り46名が副腎を切除し、46名がホルモン拮抗剤による治療を行ないました。

そして、1年後の降圧剤の使用と到達血圧には、
両群で有意な差はなく、
QOLにも差は認められませんでした。

要するにCTのみで診断を確定しても、
静脈サンプリングまで行っても、
患者さんのその後1年間の予後には、
特に差は付かなかったという結果です。

勿論静脈サンプリングまで行った方が、
診断の確実性が増すことは間違いがありません。
しかし、侵襲のある検査である割には、
その結果は患者さんの予後には大きな影響を与えないので、
サンプリングを術前に必須とまで考えるのは行き過ぎで、
要はケースバイケースで、
サンプリングの持つ意義が大きいケースに限って、
精密検査として行うのが妥当であるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ゆま

石原先生こんにちは。いつも興味深い論文の提示と解説をありがとうございます。さて、私も原発性アルドステロン症(PA)患者です。この診断法も検査も手術も何もかもが素人には摩訶不思議な病気が発覚して2年になりました。PAのことだけをブログに書きつけてきましたが、書くネタはまだまだ尽きません。さて、先日副腎静脈サンプリングを漸く決心して受けました。CTに腺腫が写らなかった私は、両側性だろうと予想していましたが、(グレーではあるが)片側性でした。手術はせず、投薬治療続行です。そんな私にドンピシャな今日の論文ですが、二つ、質問させてください。

①『1年後の降圧剤の使用と到達血圧には、 両群で有意な差はなく、QOLにも差は認められませんでした。』
というところの数値はどうなっているのでしょうか。
つまり、CTのみとAVSを行った両群での、それぞれの摘出と投薬を行った46人ずつのうち、○人が血圧が高いまま、○人が降圧した、なのでしょうか。

②基礎的な質問で恐縮なのですが、過形成というのは副腎が腫大している、というのではないのですね。あくまでも両側に腺腫がある、ということなのですね。

以上です。
すみませんが、よろしくお願いします。
by ゆま (2016-08-19 14:12) 

fujiki

ゆまさんへ
副腎の切除を行った92名中、
1年後の外来血圧が、
降圧剤未使用で135/85未満であったのは、
15%の14名で、
その内訳は静脈サンプリング群の10名と、
CT群の4名です。
ただ、術後のアルドステロンは、
81%の78名では正常化しています。
つまり、一時的なホルモン値の正常化は、
かなり高率にみられるのですが、
実際には1年後には多くの患者さんが降圧剤を使用しています。
最初から薬物治療を選択した両側性の患者さんでは、
目標血圧の達成率は46パーセント(サンプリング、CT両群とも)でした。
日本の先生では、
術後7割で血圧は正常化して降圧剤は不要になる、
という成績を豪語されている方もいますが、
その判定基準の厳密さはどうなのでしょうか?
ちょっと疑問にも感じます。
おそらく、一旦は降圧剤が不要になっても、
その後必要となるケースは結構あると思います。
過形成は基本的には腺腫とは違います。
これはやや古い分類ですが、
基本的な考え方として、
片側性で大きな結節は腺腫を考え、
両側性の小さな結節は、
腺組織が何等かの刺激により、
結節化して過形成の状態にある、
という判断になるのだと思います。
ただ、勿論両側にマイクロアデノーマ、
というケースもあるのだとは思います。
両側のマイクロアデノーマのみを複数切除する、
という手術もあるようですが、
両側の副腎を傷つけるというリスクがあり、
術前に診断は確定出来ないので、
一般的な考えとは言えないと思います。
基本的には明らかに片側に大きなしこりがあれば手術で、
両側性は投薬治療、
というのが基本的な考えだと理解しています。
個人的には片側の腺腫であっても、
全ての事例に手術が最適とは言えないように思います。
手術は成功しても投薬はそのまま、
という患者さんの比率は決して少なくはないからです。
by fujiki (2016-08-22 08:37) 

ゆま

石原先生、数字を教えてくださって、
ありがとうございます!!

切除 投薬 計
CT 46人 46人 92人 100%
AVS 46人 46人 92人 100%
計 92人 92人 184人
% 100%100% 100%

1年後血圧正常(135/85未満)
切除 投薬 計
CT 4人 21人 25人 27%
AVS 10人 21人 31人 34%
計 14人 42人 56人
% 15% 46% 30%

こういう感じでしょうか。
それとも、投薬治療をしている人は、セララやアルダクトンAも一種の降圧剤なので、一緒の表にはできないでしょうか。

いずれにしても、副腎切除には慎重であるべきなのだな、と思います。知っている方に、
○投薬治療をしてもコントロール不能で、かつ片側性病変で、最後の手段として副腎摘出して、ぐっと具合が良くなっている(治癒した)方がいらっしゃいます。
○AVSをするということは、手術が前提ということで、片側性だとわかったとたんに即手術され、結果、血圧も大して下がらず、疲れやすくもなり、感謝と恨みがないまぜになっている方もいます。
色々なんだな、と思います。
私自身は
ACTH負荷後、右副腎PAC=28000pg/ml、左副腎PAC=9000で、LR=3.01、CR=1.13という結果でした。主治医は私の意向を尊重してくださる方でしたので、AVSの前に、
○欧州では投薬治療が第一選択である。
○予後について、副腎摘出の方が良いという論文が5,6本、投薬治療と副腎摘出が同じ位という論文が5,6本ある。だが、投薬治療の方が良いという論文は1本もない。
○しかしながら、それらは重症なPAであるので、軽症なら片側であっても副腎摘出を保留にして投薬治療をするという選択肢もありでよい。
と言ってくださり、AVSの後は、結果を見て、もし私が手術を希望するなら、「CTで腺腫が確認できてからもう一回AVSをして右に局在診断つけば、希望があれば、できます」とおっしゃいました。
つまり、手術には慎重なご様子でした。
私もアルダクトンAだけで血圧コントロール出来ているので、一生飲み続けようと思っています。・・・・そのうち緩解しないかな~、と希望も持っています。(アルダクトンAはアルドステロンには何ら作用せず、その受容体を拮抗しているだけ、というのは存じております・・・)。

先生のお答えの中で、
「両側のマイクロアデノーマのみを複数切除する、
という手術もあるようですが、
両側の副腎を傷つけるというリスクがあり」
という部分について、膝を打つ思い、というか、胸のつかえが降りる思いがしました。
両側の腺腫を部分切除やラジオ波で焼く、というのは
「両側の副腎を傷つける」ということでもあるわけですね。
そういう方向から考えたことがありませんでした。納得です。
色々調べてくださってありがとうございました。よくわかりました。今後ともよろしくお願いします。






by ゆま (2016-08-22 21:38) 

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