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遊離テストステロンの測定と男性更年期症状との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
テストステロンと男性更年期.jpg
今月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
男性ホルモンの測定法と、
いわゆる男性更年期症状との関連を検証した論文です。

この問題については、
これまでにも何度も記事にしています。

女性の更年期があるように、
男性にも更年期症状があるのではないか、
というような議論は以前からあり、
アンチエイジング的な考えでの男性ホルモンの補充は、
今でも国内外を問わず行われています。

ただ、医学的に女性における更年期治療と同じような意義が、
男性の更年期に対してもあるのかどうか、
また比較的高齢の男性や元気のない中年男性に、
男性ホルモンを補充することの効果と安全性はどうなのか、
というような点については、
正直見解は割れていて、
少なくとも積極的な適応としての男性ホルモンの使用は、
表立っては推奨されていないのが実状です。

経緯から言うと、
2000年代の前半くらいには、
男性更年期を男性ホルモンで治療することが、
一定の健康上のメリットのある治療として注目され、
盛んに行なわれたのですが、
2000年代の後半くらいからは、
今度はその効果を否定したり、
その安全性への危惧を示唆するような報告が相次ぎ、
男性ホルモン補充療法は、
推奨されない流れになりました。

その効果はあまり明確ではない反面、
前立腺癌のリスクの増加や、
心血管疾患のリスクの増加が指摘されています。

ただ、
先月のLancet Diabetes Endocrinology誌の論文では、
短期的にはリスクの増加が見られても、
3年間という長期の治療においては、
総死亡のリスクも、心血管疾患のリスクも、
更には前立腺癌のリスクさえ、
男性ホルモンの外用剤治療により、
低下させているという、
男性ホルモン補充療法を、
再評価するような結果が得られています。

男性更年期に対する男性ホルモン補充療法は、
有効なのでしょうか、それとも無効なのでしょうか?

この問題を考える上で重要なポイントは、
男性ホルモン補充療法の適応にあります。

日本においては2007年に男性更年期のガイドラインが発表されました。
LOH症候群という名前が付けられ、
テレビなどでも一時は盛んに取り上げられましたが、
その後海外で男性更年期の治療に対し、
批判的な報告が相次いだために、
何となく尻すぼみの感じになり、
発表後9年が経ちますが、
改訂すらされていないのが実状です。

専門家の無責任極まれりという実例の1つです。

この日本のガイドラインにおいては、
遊離テストステロンという数値が、
その判定に使用されています。
日本人独自のデータを取り、
その数値が8.5pg/mL未満の時にそう診断する、
という記載になっています。

ただ、例によって海外では別個の基準があり、
概ね遊離テストステロンより、
総テストステロンでの評価が一般的です。

男性ホルモンであるテストステロンは、
血液中ではアルブミンと性ホルモン結合グロブリンという、
2種類の蛋白質に、
その9割以上は結合した状態で存在しています。
そして、2から5%の遊離テストステロンが、
実際には活性を持っています。

年齢と共に、
血液中の総テストステロンは低下しますが、
その一方で性ホルモン結合グロブリンは増加するので、
実際の総テストステロンの数値以上に、
遊離テストステロンは減少しているという可能性があります。

ただ、遊離テストステロンの測定値の意義は、
必ずしも明確ではないため、
2010年のアメリカ内分泌学会のガイドラインにおいては、
朝の総テストステロンの数値をもって、
男性ホルモンの低下の基準とするように定められています。

しかし、総テストステロンの数値は、
結合蛋白の量によって変動しますから、
遊離テストステロンの測定が信頼のおけるものであれば、
遊離ホルモンを指標とする方が、
より理に適っている、という見解は根強くあったのです。

そこで今回の研究では、
ヨーロッパの高齢者疫学研究のデータを活用して、
中年以降の男性の総テストステロンと遊離テストステロンを測定し、
男性更年期の症状や、各種の指標との関連性を検証しています。
遊離テストステロンは、
総テストステロンと性ホルモン結合グロブリンから、
換算するという方法が取られています。

対象者は40歳から79歳の男性一般住民、
トータル3334名です。

総テストステロンは10.5nmol/L(3.03ng/mL)以上と正常とし、
遊離テストステロンは220pmol/L(63.5pg/mL)以上を正常と判定しています。

その結果…

総テストステロンが正常で遊離テストステロンが低値であると、
対象者はより高齢で健康上の問題を抱えていました。
性ホルモン結合グロブリンと黄体ホルモン値は増加していて、
性欲低下や意欲減退が強く、
ヘモグロビンと骨量も低下していました。

その一方で遊離テストステロンが正常で総テストステロンが低値のグループは、
対象者がより若く太っていて、
性ホルモン結合グロブリンは低値で黄体ホルモンは正常の傾向を示し、
性欲減退などの症状は示していませんでした。

以上の関連を図示したものがこちらになります。
テストステロン値と診断の図.jpg
今回の検証では、
総テストステロンより遊離テストステロンの値の方が、
より男性更年期の状態を正確に判定出来る、
という結果になっています。

ただ、この結果はこれまでの同様の検討とは、
異なる部分もあり、
今後データの蓄積を待たないと、
事実とまでは言い切れません。

日本の測定系と今回使用されたような欧米の検査とは、
その基準値も測定法も異なっているので、
同列に判定することが出来ず、
遊離テストステロン測定の信頼性も未知数であるので、
その点は十分考慮した上で、
考える必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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