慢性閉塞性肺疾患に対するβ遮断剤の効果 [医療のトピック]
こんばんは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日はクリニックは休診だったのですが、
老人ホームやグループホームの診療があり、
レセプトも押せ押せだったりもして、
1日バタバタして遅い更新になってしまいました。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のThorax誌に掲載された、
慢性の肺の病気に、
喘息の場合には禁忌の心臓病の薬が、
予後改善に効果的であったという、
興味深い内容の論文です。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)というのは、
主に喫煙の継続によって肺に起こる、
慢性気管支炎や肺気腫などの病気の総称です。
このCOPDの治療は禁煙以外には決定的なものがなく、
特に肺気腫が進行した状態になると、
症状を緩和する治療が精一杯です。
COPDの治療薬は、
気管支喘息の治療薬と、
ほぼ同じものが使用されています。
使用される薬の1つはβ2刺激剤と呼ばれる交感神経の刺激剤で、
これは交感神経の受容体の1つであるβ2受容体が刺激されると、
気管支の平滑筋が緩むことから、
気管支拡張剤として使用されているのです。
その反対にβ遮断剤という、
交感神経の働きをブロックするタイプの薬があります。
これは主に心不全や狭心症の治療薬として使用されています。
何故交感神経を抑えることが心臓に良いのかと言うと、
心臓の働きが落ちた状態においては、
交感神経が過緊張していて、
脈拍も過剰に上がり、
それが心臓に負担を掛けているからです。
このβ遮断剤は気管支喘息では原則禁忌とされています。
それは勿論この薬が気管支を収縮させる方向に働くことがあるからです。
喘息発作の増悪に結び付くリスクがあるのです。
それでは、COPDに対してβ遮断剤はどのような影響を与えるのでしょうか?
その点については、
まだ明確な結論が出ていません。
β遮断剤がCOPDの急性増悪を抑制した、
という複数の報告がある一方、
重症で在宅酸素の必要なCOPDの患者さんに使用したところ、
生命予後に悪影響を及ぼした、
という単独のデータも存在しています。
COPDと喘息とは別の病気ですが、
両者がオーバーラップしていることは稀ではなく、
その鑑別もそう簡単ではありません。
その意味ではCOPDへのβ遮断剤の使用は、
リスクが高いように思われます。
その一方である程度進行したCOPDにおいては、
心臓にも少なからずの負担が掛かり、
実際にCOPD自体が心臓病のリスクになる、
というデータも存在しています。
COPDの予後に大きな影響を及ぼす急性増悪は、
心臓への負担と無関係ではないと思います。
そうした意味では、
β遮断剤で心臓への交感神経の負担を軽減することは、
COPDのトータルな予後を、
改善する可能性も秘めているのです。
今回の研究はCOPDについての大規模な疫学データを活用して、
β遮断剤やカルシウム拮抗薬、ACE阻害剤などの、
心臓の働きを保護する作用のある薬剤の使用と、
COPDの急性増悪や生命予後に対する影響を検証しています。
その結果…
中等度から重症のCOPDの患者さん、
トータル3464名を平均で2.1年観察した結果として、
β遮断剤の使用は、
COPDのトータルな急性増悪のリスクを27%、
特に重度の急性増悪のリスクを33%、
それぞれ有意に低下させていました。
このリスクの低下はCOPDの重症の事例で、
より大きなものとなっていました。
その一方でカルシウム拮抗薬は、
むしろCOPDの急性増悪のリスクを高める傾向を示していました。
β遮断剤は非常に興味深い薬で、
副作用や有害事象のリスクもあることは間違いないので、
こうしたデータがあるからと言って、
全てのCOPDの患者さんに、
β遮断剤を使用することが正しいとは勿論言えないのですが、
今後どのようなCOPDの患者さんに、
最もβ遮断剤の恩恵が大きいのか、
データの蓄積を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんに良い眠りが訪れますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日はクリニックは休診だったのですが、
老人ホームやグループホームの診療があり、
レセプトも押せ押せだったりもして、
1日バタバタして遅い更新になってしまいました。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のThorax誌に掲載された、
慢性の肺の病気に、
喘息の場合には禁忌の心臓病の薬が、
予後改善に効果的であったという、
興味深い内容の論文です。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)というのは、
主に喫煙の継続によって肺に起こる、
慢性気管支炎や肺気腫などの病気の総称です。
このCOPDの治療は禁煙以外には決定的なものがなく、
特に肺気腫が進行した状態になると、
症状を緩和する治療が精一杯です。
COPDの治療薬は、
気管支喘息の治療薬と、
ほぼ同じものが使用されています。
使用される薬の1つはβ2刺激剤と呼ばれる交感神経の刺激剤で、
これは交感神経の受容体の1つであるβ2受容体が刺激されると、
気管支の平滑筋が緩むことから、
気管支拡張剤として使用されているのです。
その反対にβ遮断剤という、
交感神経の働きをブロックするタイプの薬があります。
これは主に心不全や狭心症の治療薬として使用されています。
何故交感神経を抑えることが心臓に良いのかと言うと、
心臓の働きが落ちた状態においては、
交感神経が過緊張していて、
脈拍も過剰に上がり、
それが心臓に負担を掛けているからです。
このβ遮断剤は気管支喘息では原則禁忌とされています。
それは勿論この薬が気管支を収縮させる方向に働くことがあるからです。
喘息発作の増悪に結び付くリスクがあるのです。
それでは、COPDに対してβ遮断剤はどのような影響を与えるのでしょうか?
その点については、
まだ明確な結論が出ていません。
β遮断剤がCOPDの急性増悪を抑制した、
という複数の報告がある一方、
重症で在宅酸素の必要なCOPDの患者さんに使用したところ、
生命予後に悪影響を及ぼした、
という単独のデータも存在しています。
COPDと喘息とは別の病気ですが、
両者がオーバーラップしていることは稀ではなく、
その鑑別もそう簡単ではありません。
その意味ではCOPDへのβ遮断剤の使用は、
リスクが高いように思われます。
その一方である程度進行したCOPDにおいては、
心臓にも少なからずの負担が掛かり、
実際にCOPD自体が心臓病のリスクになる、
というデータも存在しています。
COPDの予後に大きな影響を及ぼす急性増悪は、
心臓への負担と無関係ではないと思います。
そうした意味では、
β遮断剤で心臓への交感神経の負担を軽減することは、
COPDのトータルな予後を、
改善する可能性も秘めているのです。
今回の研究はCOPDについての大規模な疫学データを活用して、
β遮断剤やカルシウム拮抗薬、ACE阻害剤などの、
心臓の働きを保護する作用のある薬剤の使用と、
COPDの急性増悪や生命予後に対する影響を検証しています。
その結果…
中等度から重症のCOPDの患者さん、
トータル3464名を平均で2.1年観察した結果として、
β遮断剤の使用は、
COPDのトータルな急性増悪のリスクを27%、
特に重度の急性増悪のリスクを33%、
それぞれ有意に低下させていました。
このリスクの低下はCOPDの重症の事例で、
より大きなものとなっていました。
その一方でカルシウム拮抗薬は、
むしろCOPDの急性増悪のリスクを高める傾向を示していました。
β遮断剤は非常に興味深い薬で、
副作用や有害事象のリスクもあることは間違いないので、
こうしたデータがあるからと言って、
全てのCOPDの患者さんに、
β遮断剤を使用することが正しいとは勿論言えないのですが、
今後どのようなCOPDの患者さんに、
最もβ遮断剤の恩恵が大きいのか、
データの蓄積を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんに良い眠りが訪れますように。
石原がお送りしました。
2016-01-08 23:22
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