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劇団チョコレートケーキwithバンダ・ラ・コンチャン「ライン(国境)の向こう」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
昨日はかなり疲れてしまい、
今はちょっとグッタリしているところです。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ラインの向こう.jpg
近藤芳正さんの企画公演バンダ・ラ・コンチャンと、
劇団チョコレートケーキが合同で行なった初めての公演が、
今池袋の東京芸術劇場で上演されています。

脚本は古川健さんの新作で、
演出は日澤雄介さんという劇団チョコレートコンビです。
役者さんは劇団チョコレートケーキの3人に、
戸田恵子さんや近藤芳正さん、
高田聖子さんなど、
豪華なメンバーが顔を揃えました。

これまでの劇団チョコレートケーキの作品は、
取り上げられることの少ない、
歴史的な事件などを、
緻密に取材して構成されたような作品が多かったのですが、
今回は全く架空の設定である点が、
これまでとは異なっています。

ただ、実際に作品を観ると、
日本が第二次世界大戦で南北に二分され、
1950年に南北戦争が勃発するという趣向は、
要するに朝鮮戦争の話が下敷きになっていることが分かります。

日本を舞台にして、
アメリカとソ連が代理戦争をする、という話です。
戦争の経緯も、
首都の東京が一旦奪われて奪還されるなど、
朝鮮戦争の経緯を元にしていることが明らかです。

穿って考えれば、
近代史を演劇の素材として取り上げるとすれば、
朝鮮半島と中国は外せないのですが、
どちらも日本で劇作をするに当たっては、
非常にリスクが高く、
また立場の自由度が極めて狭いので、
朝鮮半島の歴史を取り上げながら、
中国と朝鮮という用語は一切使わずに、
架空の話として創作せざるを得なかったのかな、
と思いました。

以下少し作品の内容に踏み込みますので、
観劇予定の方はご注意下さい。

これまでの劇団チョコレートケーキの作品は、
ある意味清々しいくらいの真っ向勝負で、
歴史的な事件を、
正攻法で骨太に描出していました。

しかし、この作品は、
この戦争と分断された庶民の生活を、
真っ向から描く、というような性質のものにはなっていません。

1つの村が舞台で、
2つの家族が農業を営んでいて、
国境線がその村に引かれることにより、
微妙にその生活が変化する、
というドラマになっていますが、
それほどの大きな波風が立つ訳ではなく、
せいぜい1人の脱走兵の処遇が、
問題になる程度です。

そして、戦争を無視するように、
農村の日常は流れ、
ラストは戦争が終結した、という情報がもたらされるのですが、
登場人物達は、
「そんなことは自分たちの生活には関係ない」
と無視して自分たちの仕事に戻ります。

とても、リアルとは思えませんが、
牧歌的でほのぼのとしたラストではあります。

登場人物は、
軍人を演じた2名を除き、
野良仕事の扮装で登場し、
舞台も棚田のようなものが、
抽象的にイメージされたセットのみで展開されます。

何か、民藝か何処かの、昔の「農村物」の芝居を、
観ているような既視感にとらわれます。

これだけのキャストを集めて、
ちょっともったいないな、という感じがします。
寺十吾さんと谷仲恵輔さんが農民の役にはベストマッチで、
リアルで地味な芝居の方が良い、
という内容になっています。

総じて、どのような芝居にしたかったのか、
その立ち位置が不鮮明な感じがします。

一種の寓話として感じるべきなのか、
それとももっとリアルに、
庶民の生活が戦争によって分断される悲劇と感じるべきなのか、
その辺りがどっちつかずになっているように思います。

寓話として感じるべき物語なのであれば、
もっと自由な設定の方が良かったと思います。
「戦争などより庶民の生活は上にあるのだ」
というテーマは良いと思うのですが、
中途半端にリアルな設定なので、
「そんなことある訳ないじゃん」
と思ってしまうのです。

一方でリアルな設定として捉えるべき物語なのであれば、
もっと展開にもリアルさがないと、
作品として成立しないと思います。
劇中で銃が登場しますが、
構えられるだけで一度も発砲はされず、
発砲されるのでは、という緊張感すら皆無です。
これではまずいのではないでしょうか?

中途半端に危機を煽ったりはしない、
という姿勢には非常に共感が持てるのです。
しかし、現実には矢張り危機はあるのだと思いますし、
それを無視して生活は不可能なのではないかと思います。
劇団チョコレートケーキは今、
現実をどのようにして舞台化するべきなのか、
どう立ち向かうべきなのか、
ちょっと迷っているような気がします。
今はその真摯な姿勢が、
演劇としての、
新たな鉱脈に結び付くことを信じて待ちたいと思うのです。

来年は「治天の君」の再演なので、
これは初演を観ていないので本当に楽しみです。

これからも頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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