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男性の造精ホルモンレベルと生命予後との関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
造精ホルモンと男性の生命予後について.jpg
今年のJ Clin Endorinol Metab誌に掲載された、
男性ホルモンのレベルと生命予後との関連についての論文です。

男性更年期という言葉があります。

男性ホルモンの代表は、
精巣から主に分泌されるテストステロンですが、
年齢などによるその減少が、
どのような影響を身体に及ぼすのかについては、
それほど明確には分かっていません。

テストステロンには造精機能以外に、
筋肉を維持し、骨を健康に保ち、
造血も刺激するなど、多くの作用を持っています。
テストステロンの血液濃度の低下は、
心血管疾患や糖尿病のリスクの増加に繋がるという、
複数の疫学データも存在しています。

こうした知見からは、
テストステロンが減少する男性更年期に対して、
男性ホルモンの補充療法を行なうことで、
患者さんの予後の改善に結び付く可能性が示唆されます。

しかし、そうした目的で海外で行われた、
精度の高い複数の臨床試験の結果としては、
テストステロンの補充療法は、
心血管疾患のリスクの低下には繋がらないばかりか、
心筋梗塞などの発症リスクを増加させる、
という結果が得られています。

本当にテストステロン濃度の低下と、
心血管疾患の増加とは関連があるのでしょうか?

この問題を再検証する目的で、
今回の研究においては、
デンマークおけるこれまでの4つの独立した疫学データを用いて、
30歳以上のトータル5350名の男性を抽出し、
男性ホルモンの血液濃度と、
生命予後との関連を検証しています。

総テストステロン濃度の測定に加えて、
性ホルモン結合グロブリンや遊離テストステロン、
そしてテストステロンの分泌刺激となる、
下垂体の黄体形成ホルモン(LH)などとの関連も検証しているのが、
今回の研究のポイントです。
テストステロンを分泌するレイディッヒ細胞は、
LHによる刺激を受けているので、
LH/総テストステロン比が、
造精機能の低下を反映しているとの見解があるからです。

その結果…

平均の観察期間18.5年中に、
トータルで1533名の死亡事例があり、
そのうちの428名は心血管疾患によるもので、
480名は癌による死亡でした。

総テストステロン濃度と総死亡や、
癌による死亡との間には、
有意な相関は認められませんでした。
ただ、心血管疾患による死亡については、
最も高いグループは、
最も低いグループと比較して、
38%のリスクの低下を有意に認めました。
(HR 0.72; 95%CI:0.53-0.98)

その一方で、
LH濃度の測定値では、
値を4分割して最も高いグループは、
最も低いグループと比較して、
総死亡のリスクが1.32倍(1.14から1.53)、
癌による死亡のリスクが1.42倍(1.10から1.84)、
それぞれ有意に増加していました。
また、LH/総テストステロン比が高いグループも、
総死亡のリスクは1.23倍(1.06から1.43)、
有意に高いという結果が得られました。

要するに、心血管疾患による死亡のリスクについては、
総テストステロン濃度と一定の関連が見られるのですが、
総死亡のリスクにはあまり関連が見られず、
むしろLH濃度がより相関している、
と言う結果になっています。

このデータの解釈は非常に難しいのですが、
単純にテストステロン濃度のみで判断するのではなく、
その刺激ホルモンであるLHとの関連を見ることにより、
男性のホルモン機能とその予後に与える影響は、
判断されるべきなのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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