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安定狭心症ではカテーテル治療は予後に影響を与えない(2015年アメリカの知見) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はクリニックは午前午後とも、
いつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
安定狭心症のカテーテル治療の長期予後.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
安定狭心症におけるカテーテル治療の、
患者さんの予後に与える影響についての論文です。

心臓を栄養する血管を冠動脈と言いますが、
動脈硬化によってその血管の太い部分が狭窄すると、
運動をした時などに、胸が苦しくなる、
狭心痛と呼ばれる症状が出現します。

これが狭心症です。

ある程度の運動でこうした発作が起こりますが、
それ以外の生活では発作は起きない状態が続いている場合に、
安定狭心症もしくは労作性狭心症、
という言い方をします。

こうした狭心症は、
冠動脈のある特定の部位に、
血管が完全に詰まるほどではない狭窄があり、
その時点では血管が詰まる可能性は、
それほど高くはないと考えられています。

その一方で比較的急に出現した胸痛や、
それほど運動などしていないのに、
胸心痛が頻繁に生じる場合は、
病変が不安定で、
心筋梗塞に至る危険性が高いという意味合いで、
不安定狭心症という言い方が使われます。

現在ではこの不安定狭心症は、
急性心筋梗塞と同列に扱われて、
急性冠症候群という名称で総称されるのが一般的です。

さて、
不安定狭心症は予後の悪い病気で、
心筋梗塞に進展する可能性が高いので、
カテーテルで狭窄した血管に風船を入れて膨らましたり、
そこにステントと呼ばれる金属製の管を挿入したりする治療が、
原則入院の上行われます。

どのような病変に心臓バイパス手術を適応するべきか、
というような議論はありますが、
こうした治療を行なうこと自体の意義は、
ほぼ確立していると言って良いと思います。

それでは、
安定狭心症の場合はどうでしょうか?

たとえば、
仮に閉塞すれば大きな問題のある場所に、
90%の狭窄が確認されたとすれば、
その部位が閉塞する可能性が高いと考え、
ステントを挿入するような治療を行なうことが、
少なくとも僕が心臓カテーテル検査をしていた、
20年くらい前には常識でした。

しかし、実際には必ずしも、
狭窄のある部位が閉塞するとは限らないので、
そうした治療により、
胸の痛みは改善しても、
患者さんの生命予後が、
そうした治療により改善するかどうかは、
分かっていませんでした。

つまり、
当時の循環器の医者は、
「そこに狭窄があるから広げる」
というような方針で治療を行なっていたことが多く、
そこにトータルに患者さんの予後を考える、
という視点は、
良くも悪くも希薄だったのです。

ただ、その後の知見により、
コレステロールを強力に低下させるなどの治療により、
安定狭心症の生命予後は、
カテーテル治療を行わなくても、
必ずしも悪いものではない、
ということが徐々に明らかになり、
カテーテル治療の適応も、
少しずつ変わって来ています。

今回の研究はアメリカとカナダにおいて、
同様の病変で安定狭心症の2287名を登録し、
くじ引きで2群に分けると、
その一方は70%以上の狭窄の病変に、
PTCAやステントなどの治療を行ない、
もう一方は内科的な治療のみを行います。

内科的な治療としては、
LDLコレステロール値は当初は60から85mg/dLを目標とし、
その後70未満を目標として薬物治療を行ない、
血圧は130/85未満を目標としてコントロールを行います。
生活指導としては、
禁煙や体重コントロール、栄養や運動の指導が行われます。
こうした指導は両群ともに行なうのです。

その予後の比較は、
まず平均観察期間が4.6年の時点で公開され、
両群の生命予後には有意な差が認められませんでした。

今回は更に最長で15年、
平均で6.2年の経過観察の結果が報告されています。
生存追跡の許可が得られた患者のみの平均観察期間はより長く、
11.9年に達していました。

当初の登録患者のうち1211名が解析対象となり、
観察期間中に561名の死亡が確認されましたが、
両群で差は認められませんでした。

つまり、
安定狭心症の患者さんに対しては、
狭窄があるからといって、
一律にカテーテル治療を行なうのではなく、
コレステロールと血圧などのコントロールをしっかり行なって、
経過を見ることで通常は大きな問題はなく、
不安定狭心症とは別物と考えるべきだ、
ということです。

今回のデータはアメリカのもので、
そのまま日本の患者さんに適応可能とは言い切れませんし、
個々の患者さんによって、
その生命予後はまた別個に考える必要がありますが、
全ての狭心症を同じように考えることが間違いであることは事実で、
こうしたデータがあることは、
頭に置いておく必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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