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遠隔虚血プレコンディショニングの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
遠隔虚血プレコグニションの効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
心臓から離れた部位を虚血にすることにより、
心臓の回復力を高め、
心臓手術の予後を改善しようという、
興味深い試みの臨床試験の結果を報告した論文です。

基本的には日本で流行している、
「加圧トレーニング」と共通する発想で、
より強い虚血状態を作り出す、
という手法です。

心臓のバイパス手術は、
カテーテル治療が困難な冠動脈疾患の治療においては、
最も有効な治療の1つで、
技術の進歩によりその安全性は向上していますが、
それでも術後の合併症の多い手術であることは、
間違いがありません。

2013年のLancet誌に、
心臓バイパス手術の患者さんへ、
遠隔虚血プレコンディショニングという、
特殊な手法を行なうことにより、
行わない場合と比較して、
心筋虚血のマーカーであるトロポニンI濃度が低下した、
という結果が報告されて注目を集めました。

そこで行われた方法は、
手術直前の麻酔時に、
左腕に血圧計のマンシェットを巻き、
200mmHgに加圧して5分虚血してから、
マンシェットを緩めて最還流させることを、
3回繰り返す、というものです。

例数はトータルで329名で、
患者さんにも主治医にも分からないように行なった、
厳密なスタイルの試験ですが、
単独施設で行われていて、
直接的には術後の予後を比較してはいない、
という点には注意が必要です。
死亡リスクなども比較していますが、
明確な差は付いていません。

動物実験においては、
こうした虚血による負荷を与えることにより、
心臓などの重要臓器において、
虚血への抵抗性が生じることが確認されています。

これがよりマイルドな負荷である、
所謂「加圧トレーニング」の理屈の1つでもあります。

ただ、人間において、
実際に虚血負荷の強い手術などの前処置として、
こうした手法を用いることに、
本当に予後改善の効果があるかどうかは、
前述のLancet誌のような報告がある一方で、
有効性が確認されない、
という報告も複数あり、
その評価はまだ確立したとは言えません。

そこで今回の研究では、
ドイツの14の専門医療機関において、
人工心肺を使用した手術を受ける患者さんを2群に分け、
一方は遠隔虚血プレコンディショニングを施行し、
もう一方はする振りのみをして、
術後90日までの経過観察を行なっています。
トータルな例数は1403名です。

手法は200mmHgの加圧と弛緩とを、
5分毎に4サイクル繰り返すというもので、
これまでの同種の臨床試験と、
ほぼ同一のものです。

その結果…

加圧施行群と未施行群との間で、
予後には明確な差は認められず、
トロポニンの放出量にも差はありませんでした。

同じ紙面にもう1篇、
同様の論文が掲載されています。

こちらは、イギリスの30箇所の専門施設において、
1612名の心臓バイパス手術前の患者さんに、
同様の検証を行ない、
術後12ヶ月の時点までの経過観察を行なっています。

その結果は、
矢張りトロポニンの放出量を含めて、
両群に明瞭は差は認められませんでした。

遠隔虚血プレコンディショニングが、
全く無効であるとは言い切れないのですが、
少なくともリスクの高い心臓の手術の前に、
全ての患者さんに施行するべきものではないことは、
今回の検証からほぼ明らかになったように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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