ゾウに癌が少ない理由を「真面目」に考える [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後とも通常通りの診療です。
診療は全日院長の石原が行ないます。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
ゾウに癌の少ない理由を、
遺伝子レベルで検証した論文です。
インパクトがあるので、
医療ニュースなどでも取り上げられています。
癌の出来るメカニズムについては、
多くのことが分かっていますが、
それでも全てが実証されている、
という訳ではありません。
ただ、癌というのは細胞の遺伝子に付いた傷のようなものが、
積み重なって起こることは分かっています。
生物の身体には、
そうした遺伝子の傷を修正するような仕組みがあり、
そのために多少の傷が付いても、
それですぐに癌になる、
ということにはならないのです。
ここで仮に全ての細胞において、
一定の確率で遺伝子に傷が付き、
それがあるレベル以上に蓄積することにより、
どんな動物でも癌が発症すると考えてみます。
すると、
身体を構成する細胞の数が多く、
その寿命も長い生物の方が、
より多く癌を発症する筈だ、
という理屈になります。
哺乳類の中でそうした観点から、
発癌率の比較をすると、
そうした仮定が成り立つ場合もあり、
成り立たない場合もあります。
そして、成り立たない場合の代表が、
ゾウの癌の発症率です。
ゾウの寿命は70から80年とされていて、
人間とそう違いはありません。
人間を除く哺乳類の中では、
最も長生きです。
そして、ゾウは巨大な生物で、
人間より身体を構成する細胞の数はずっと多いのです。
そうであるなら、
理屈から言ってゾウが癌になる確率は、
人間よりずっと多い筈です。
ところが、
実際にはゾウの癌の発症率は、
人間よりずっと低いことが分かっています。
それは一体何故でしょうか?
今回の研究においては、
癌抑制遺伝子であるTP53に着目しています。
TP53はp53という遺伝子産物をコードしている遺伝子で、
現在判明している癌抑制遺伝子の代表です。
p53は細胞内において、
癌化した細胞を死滅(アポトーシス)させ、
癌細胞を増殖させないような働きを持っているとされています。
そして、
多くの癌細胞において、
このp53の遺伝子に変異が起こり、
正常に機能しない状態になっていることが確認されています。
つまり、
同じ確率で細胞の遺伝子に、
癌に繋がるような傷が付いても、
癌抑制遺伝子が正常に機能していれば、
癌化は阻止されるのです。
人間は1対2個のp53遺伝子を持っています。
それではゾウはどうなのでしょうか?
今回の研究においては、
まず36種類の哺乳類の癌での死亡リスクを、
その体重と寿命との比較において検証し、
次にアフリカゾウの遺伝子を解析して、
p53遺伝子の数と機能を検証しています。
更に細胞に放射線でダメージを与えて、
その修復能を人間と比較しています。
その結果…
人間の癌による死亡リスクは11から25%であるのに対して、
ゾウのそれは4.81%(3.14から6.49)と、
明らかにゾウは人間より癌に対して抵抗性があると考えられました。
アフリカゾウの遺伝子を解析したところ、
人間では1対(2個)しか存在しない、
癌抑制遺伝子TP53が、
少なくとも20対(40個)存在していて、
そのうちの19対(38個)は遺伝子として機能していることが、
確認されました。
細胞に放射線を照射してダメージを与えると、
リンパ球のp53により誘発される細胞死は、
通常の人間の細胞では7.17%に生じ、
リ・フラウメニ症候群という、
先天性にTP53の遺伝子変異のある病気では、
2.71%と細胞死の誘導は抑制されます。
その一方でアフリカゾウでは、
細胞死は14.64%に認められました。
こうした傾向は、
抗癌剤であるドキソルビシン投与での細胞死の誘発でも、
同じように認められました。
つまり、
アフリカゾウでは癌抑制遺伝子が、
人間の20倍近く存在していて、
実験レベルではありますが、
実際に遺伝子が変異した細胞の、
細胞死をより多く誘導していました。
このことが、
その全てではなくても、
ゾウがその寿命や身体の大きさと比較して、
癌による死亡の少ないことの、
理由の一部を説明するものだとは言えそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後とも通常通りの診療です。
診療は全日院長の石原が行ないます。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
ゾウに癌の少ない理由を、
遺伝子レベルで検証した論文です。
インパクトがあるので、
医療ニュースなどでも取り上げられています。
癌の出来るメカニズムについては、
多くのことが分かっていますが、
それでも全てが実証されている、
という訳ではありません。
ただ、癌というのは細胞の遺伝子に付いた傷のようなものが、
積み重なって起こることは分かっています。
生物の身体には、
そうした遺伝子の傷を修正するような仕組みがあり、
そのために多少の傷が付いても、
それですぐに癌になる、
ということにはならないのです。
ここで仮に全ての細胞において、
一定の確率で遺伝子に傷が付き、
それがあるレベル以上に蓄積することにより、
どんな動物でも癌が発症すると考えてみます。
すると、
身体を構成する細胞の数が多く、
その寿命も長い生物の方が、
より多く癌を発症する筈だ、
という理屈になります。
哺乳類の中でそうした観点から、
発癌率の比較をすると、
そうした仮定が成り立つ場合もあり、
成り立たない場合もあります。
そして、成り立たない場合の代表が、
ゾウの癌の発症率です。
ゾウの寿命は70から80年とされていて、
人間とそう違いはありません。
人間を除く哺乳類の中では、
最も長生きです。
そして、ゾウは巨大な生物で、
人間より身体を構成する細胞の数はずっと多いのです。
そうであるなら、
理屈から言ってゾウが癌になる確率は、
人間よりずっと多い筈です。
ところが、
実際にはゾウの癌の発症率は、
人間よりずっと低いことが分かっています。
それは一体何故でしょうか?
今回の研究においては、
癌抑制遺伝子であるTP53に着目しています。
TP53はp53という遺伝子産物をコードしている遺伝子で、
現在判明している癌抑制遺伝子の代表です。
p53は細胞内において、
癌化した細胞を死滅(アポトーシス)させ、
癌細胞を増殖させないような働きを持っているとされています。
そして、
多くの癌細胞において、
このp53の遺伝子に変異が起こり、
正常に機能しない状態になっていることが確認されています。
つまり、
同じ確率で細胞の遺伝子に、
癌に繋がるような傷が付いても、
癌抑制遺伝子が正常に機能していれば、
癌化は阻止されるのです。
人間は1対2個のp53遺伝子を持っています。
それではゾウはどうなのでしょうか?
今回の研究においては、
まず36種類の哺乳類の癌での死亡リスクを、
その体重と寿命との比較において検証し、
次にアフリカゾウの遺伝子を解析して、
p53遺伝子の数と機能を検証しています。
更に細胞に放射線でダメージを与えて、
その修復能を人間と比較しています。
その結果…
人間の癌による死亡リスクは11から25%であるのに対して、
ゾウのそれは4.81%(3.14から6.49)と、
明らかにゾウは人間より癌に対して抵抗性があると考えられました。
アフリカゾウの遺伝子を解析したところ、
人間では1対(2個)しか存在しない、
癌抑制遺伝子TP53が、
少なくとも20対(40個)存在していて、
そのうちの19対(38個)は遺伝子として機能していることが、
確認されました。
細胞に放射線を照射してダメージを与えると、
リンパ球のp53により誘発される細胞死は、
通常の人間の細胞では7.17%に生じ、
リ・フラウメニ症候群という、
先天性にTP53の遺伝子変異のある病気では、
2.71%と細胞死の誘導は抑制されます。
その一方でアフリカゾウでは、
細胞死は14.64%に認められました。
こうした傾向は、
抗癌剤であるドキソルビシン投与での細胞死の誘発でも、
同じように認められました。
つまり、
アフリカゾウでは癌抑制遺伝子が、
人間の20倍近く存在していて、
実験レベルではありますが、
実際に遺伝子が変異した細胞の、
細胞死をより多く誘導していました。
このことが、
その全てではなくても、
ゾウがその寿命や身体の大きさと比較して、
癌による死亡の少ないことの、
理由の一部を説明するものだとは言えそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2015-10-13 07:48
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コメント(4)
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p53は老化とも関連すると言われてますし、象の老けているというイメージとも合致しますね
人間で同じ状態なら、早老症でしょうか。遺伝学的に、何故そのようなセレクションがかかったかは興味深いです
by お名前(必須) (2015-10-13 09:44)
お名前…さんへ
コメントありがとうございます。面白い研究ですね。
by fujiki (2015-10-14 08:05)
どうして、象のほうがヒトよりp53対が多いんですか?
by ひろ (2015-10-19 18:19)
ひろさんへ
原因は全く分かりません。
by fujiki (2015-10-19 21:17)