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乳癌部分切除における切除範囲と予後について [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
新しい乳癌切除法.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
乳癌の手術法についての、
新しい試みを検証した論文です。

乳癌の手術は、
以前は乳房とその周辺の筋肉を全て切除するという、
乳房全摘術が基本とされていました。
乳房を温存して癌の周囲のみを切除する乳房温存手術を行なうと、
その後周辺の乳腺に再発が起こり、
再手術になる事例が多かったからです。

しかし、その後大規模な臨床試験によって、
乳房全摘術を行なっても、
乳房温存手術を行なっても、
生命予後には殆ど影響しない、
ということが明らかになり、
局所の再発も、
術後の放射線治療によりかなり減らせることが確認されたので、
それなら患者さんの負担が少なく、
乳房の変化も少なくて済む、
乳房温存手術が早期癌の多くで選択される流れになったのです。

しかし、乳房温存手術では、
局所の再発が多い、ということは事実です。

乳房の部分切除を行なう場合、
腫瘍の周辺部を少し大きく切り取ります。
この正常と思われる余白の部分を、
切除マージンと呼んでいます。

この切除マージンが大きければ、
それだけ局所の再発は減ります。
しかし、大きく切除すれば当然、
乳房の変形などの変化は大きくなり、
せっかく乳房温存手術を選択した意味が、
薄れる結果となってしまいます。

この辺りのさじ加減は、
実際には術者の判断に任されていました。

今回の臨床試験においては、
乳房温存手術の選択された事例において、
患者さんをくじ引きで2つのグループに分け、
一方は術者の判断のままに切除範囲を決め、
もう一方は術者の判断による切除の後に、
その周辺組織を薄く切除する操作
(切除腔薄切マージンの切除)
を追加して、
その後の経過を観察しています。

こちらをご覧下さい。
新しい乳癌の切除線の図.jpg
方法を図示したものです。
一番下の左が周辺組織を薄く切除する方法で、
それをしないのが右側です。

4人の専門医が手術を行なった、
トータル235例の乳癌の患者さんが登録されています。

通常の切除が終わった時点で、
切除部位の断端には、
周辺組織の切除を加える群で36%、
加えない群で34%に癌組織が認められました。
それが周辺組織の切除後には、
切除を加える群では19%に低下していました。
平均観察期間22ヶ月において、
局所の再手術を要した事例は、
切除を加える群で10%だったのに対して、
加えない群では21%で、
周辺組織を全周性に薄く切除することにより、
再手術が有意に予防された、
という結果になりました。

切除量は少なく、
乳房の美容的な状態などに、
2つの群での差は認められませんでした。

今後この方法が真にベストであるのかを、
検証する必要があると思いますが、
局所の再発のコントロールに向けて、
ポジティブな一歩であることは間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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