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慢性閉塞性肺疾患の進行予測について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
COPDになりやすい体質.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
慢性閉塞性肺疾患へと進行する患者さんの特徴を、
長期間の観察で検証した論文です。

慢性閉塞性肺疾患というのは、
主に喫煙の影響により、
肺気腫や慢性気管支年といった病態が進行し、
肺の機能が低下する病気のことです。

単純に言えば肺気腫と慢性気管支炎という別箇の病気が、
同じ喫煙者に多いことに着目し、
肺気腫における肺胞の破壊と、
慢性気管支炎における気管支の炎症が、
共に起こるような一連の病態をそう呼んでいるのです。

慢性閉塞性肺疾患は、
1秒率と1秒量という数値が診断の指標になっています。

1秒量というのは、
大きく息を吸ってから、
一気に勢い良く息を吐いた時に、
1秒間で吐くことの出来た空気の量のことです。

これを肺に最初に溜めた空気の量、
すなわち努力肺活量で、
割り算した数値が1秒率です。

この1秒率が70%未満であることが、
慢性閉塞性肺疾患の診断基準の1つになります。

一方で年齢などから予測された1秒量で、
実際に計測された1秒量を割り算した数値が、
%1秒量などと言われています。

この%1秒量は1秒率とは別箇の指標として、
慢性閉塞性肺疾患の重症度の指標として利用されています。

さて、慢性閉塞性肺疾患が進行するのは、
1秒量が低下することによると考えられています。

当然大きな1秒量の低下があれば、
それだけ早く肺機能は低下し、
それだけ早く病的な状態、
すなわち1秒率が70%未満になることが想定されます。

しかし、経年的な経過を見た臨床研究においては、
当初想定されたより、
患者さんの1秒量の低下は軽度で、
しかもかなりばらつきのあることが分かりました。

ここで1つの想定として、
病気になる前の1秒量が、
年齢等から予測される数値より低いことが、
そもそも慢性閉塞性肺疾患の、
発症のリスクになるのではないか、
という考えが成立します。

要するに、
慢性閉塞性肺疾患には、
そもそもなり易い体質があるのではないか、
という考え方です。

今回の研究では、
これまでに別個に施行された、
3つの大規模な疫学研究のデータを活用して、
平均年齢が約40歳時に計測された肺機能の数値が、
数十年後の慢性閉塞性肺疾患の発症に、
どのような関連を持っていたのかを検証しています。

平均約40歳時の1秒量の数値が、
年齢等の予測値の80%以上か、
80%未満かで分類します。

そして、平均で22年間の経過観察を行なったところ、
40歳前の1秒量が予測値の80%未満であった657例中、
26%に当たる174例で、
観察期間中に慢性閉塞性肺疾患を発症し、
1秒量が80%以上であった2207名中では、
7%に当たる158例で病気が発症していました。
つまり、若い時の1秒量が低いと、
有意に数十年後の慢性閉塞性肺疾患が多く発症する、
という結果です。

慢性閉塞性肺疾患を発症した332例から見ると、
そのほぼ半数の174例は、
若い時の1秒量が、予測より低く、
その後の経年の平均低下量は、
27±18mLでした。

それとほぼ同数の158例は、
若い時の1秒量は正常で、
その後急速に低下して病気に至っていました。
経年の平均低下量は、
53±21mLと明らかに大きくなっています。

この両群で喫煙の影響には差はありませんでした。

つまり、慢性閉塞性肺疾患は、
その多くが喫煙の影響で発症することは間違いがありませんが、
若い時の1秒量が正常で、
そこから急激に肺機能が低下するという、
従来想定されたいたパターンがある一方で、
若い時の1秒量が既に低い場合に、
その後それほど急激な1秒量の低下がなくても、
結果として病気に移行するケースが、
意外に多いということが明らかになったのです。

今後は健診等で40歳時くらいの1秒量を記録し、
それが予測値より低い場合には、
喫煙者であればより積極的に禁煙を進めるなど、
別箇の対応が必要になるように思います。
また、喫煙のみで一律に急激に1秒量が減少する、
ということではなく、
比率的には喫煙者の中でも、
そうした低下を示すケースは少数なので、
どのような体質なり条件の方に、
そうした急激な低下が起こり易いのかの検証も、
今後は必要となるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

ももぴっぴ

石原先生お忙しい中すみません。
もう少し踏み込んで、教えて戴きたいのですが…。
私は、肺活量が平均値の120%あるのですが、一秒率が60%で一秒量が90%です。
この場合は一秒量が80%以上に属するので、将来はCOPD発症しにくいと考えていいのでしょうか?
現在、喘息治療中、喫煙なし。
V50、1.86  V25、0.43 で抹消が閉塞していると言われました。
宜しくお願いします。
by ももぴっぴ (2015-07-15 16:53) 

fujiki

ももぴっぴさんへ
喘息がある場合には、
気管支拡張剤で気道をしっかり開いて検査をしないと、
単純な比較は難しいと思います。
上記の文献でも、
喘息のないことが条件になっていたかと思います。
しかし、肺活量も1秒量の充分あるのですから、
基本的には1秒率の低下は喘息に伴うもので、
COPDのリスクが高い、
ということはないと考えて頂いて良いように思います。
by fujiki (2015-07-16 09:13) 

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