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SSRIによる胎児奇形リスクについて(個別の薬剤のリスク) [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
SSRIと奇形のリスク.jpg
抗うつ剤や抗精神病薬の妊娠中の使用の是非というのは、
解決されていない大きな問題の1つです。

精神疾患の患者さんは、
薬を中止した上で妊娠することが望ましい、
というのは一面の真理ではありますが、
現実にはそれが困難な患者さんも多く、
中止が無理なら自己責任で、
と医療者が患者さんを突き放すことも、
しばしばあることですが、
本来の医療の姿とは言えません。

以前取り上げたアメリカの文献の記載によると、
アメリカでは妊娠されている女性の10から15%には、
臨床的なうつ状態が認められ、
8から13%の女性が妊娠中に抗うつ剤を使用している、
という統計さえあるようです。

それでは、妊娠中の抗うつ剤の使用には、
どの程度の危険性があるのでしょうか?

SSRIというタイプの抗うつ剤は、
妊娠中の使用でも比較的安全に使用出来る、
という報告の多くある薬です。

これは安全性が高い、と言うよりも、
使用頻度が多くそれだけ有害事象のデータも多い、
ということが一番の要因だと思います。

その中でもデータの多いのがパロキセチン(商品名パキシルなど)です。

パロキセチンを妊娠中に使用した場合の影響については、
以前にも何度か記事にしたことがあります。
最も信頼のおける報告としては、
2007年のNew England…誌に論文が出ていて、
それによると妊娠初期の使用により、
右室流出路狭窄という先天性の心臓奇形が、
2から3倍程度増加する可能性がある、
ということと、
妊娠後期の使用により、
新生児遅延性肺高血圧症と、
新生児禁断症候群という病態が、
出産直後に生じる可能性がある、
ということが指摘されていました。

ただ、出生時の異常については、
概ね出産後の時間経過と共に回復する性質のものです。

心臓奇形については、
他にセルトラリン(商品名ジェイゾロフト)というSSRIにおいて、
心室中核欠損という心奇形が数倍増加する、
という報告があります。

その後メタ解析の文献などでは、
パロキセチンにより心奇形全体のリスクが、
50%程度増加する、という報告もありますが、
寄せ集めのデータなので、
その信頼性はそれほど高いものではありません。

昨年の6月には再びNew England…に論文が掲載され、
これもその時に記事にしています。
アメリカの健康保険のデータから、
95万人近い妊娠された女性を抽出し、
妊娠初期の抗うつ剤の使用と、
お子さんの心奇形の発症との関連性を検証したものです
抗うつ剤を使用されていた妊娠中の女性の数は64000人余で、
単独の対象群でのデータとしては、
これまでで最も大規模なものだと思います。

その結果は、
抗うつ剤使用群では、
心奇形の発症率は出生1万人当たり90.1件であったのに対して、
未使用群では72.3件で、
そのままではやや増加傾向がありましたが、
うつの状態など関連する因子を補正すると、
発症率の有意な差は消失しました。
また個別にパロキセチンと右室流出路狭窄、
セルトラリンと心室中核欠損との関連を検証したところ、
それに関しても有意な相関は認められなかった、
というものです。

ただ、元データを見ると、
古いタイプの3環系抗うつ剤が、
最も心奇形の発症は少ないようにも見えます。

このように、
用いられるデータによっても、
その結果は異なっていて、
断定的なことは言えないのが実状なのです。

今回の研究は、
アメリカの10カ所の医療センターのデータを活用して、
17652名の先天性の疾患を持って生まれたお子さんを、
9857名の障碍のないお子さんと比較して、
先天性の障碍と妊娠初期(3か月以内)のSSRIの使用との、
関連性を検証したものです。

SSRIについては、
シタロプラム(日本未発売)、エスシタロプラム(商品名レクサプロ)、
フルオキセチン(日本未発売)、パロキセチン(商品名パキシル)、
そしてセルトラリン(商品名ジェイゾロフト)が対象となっています。

対象となる先天性疾患も、
これまでの疫学データにおいて、
SSRIとの関連が疑われたもののみが抽出されています。

もう1つのポイントは解析法で、
最近流行りのベイジアン解析という手法が取られています。

事例がどのように分布するのかを、
事前には決めないで自由度の高い解析を行うという方法で、
同じデータを用いても、
若干これまでとは異なる結果になる可能性があるのです。

個別のSSRIを使用した際の、
個別の胎児奇形のリスクということで考えると、
数万例の妊娠を対象としていても、
個々の事例は数的には少ないので、
限られた事例から従来の統計手法で結果を出すことは難しく、
仮に想定された分布が異なっていると、
全く実態とは異なる結果が出る可能性もあります。
こうした事案に対しては、
ベイジアン解析の方が理に適っている、
という側面があるのです。

今回そのベイジアン解析の結果として、
個別のSSRIと個別の胎児奇形との間で関連が認められたのは、
パロキセチンと5種類の先天性疾患との関連、
及びフルオキセチンと2種類の先天性疾患との関連のみでした。

具体的には、
パロキセチンについては、
無脳症のリスクが2.5倍、心房中核欠損のリスクが1.8倍、
右室流出路狭窄のリスクが2.4倍、
腸壁破裂リスクが2.5倍、臍帯ヘルニアのリスクが3.5倍、
それぞれ有意に増加している、
という結果でした。

フルオキセチンについては、
右室流出路狭窄のリスクが2.0倍、
頭蓋骨癒合のリスクが1.9倍と、
それぞれ有意に増加していました。

それ以外の抗うつ剤と個々の胎児奇形との間には、
明確な相関は認められませんでした。

今回の解析から分かることは、
SSRIと一括りで論じるのは適切ではなく、
個別の薬剤の個別のリスクとして、
考える必要があるのでは、ということです。

今回の解析ではパロキセチンのリスクが高く、
その点については、
今後これが本当にパロキセチンが原因と特定されるものなのか、
そのメカニズムを含め検証される必要があると思います。

今回の結果を見る限り、
日本で使用されている薬の中では、
エスシタプラムとセルトラリンは、
比較的安全と考えられますが、
これまでとは違う解析法を用いた単独のデータでもあり、
現時点で安全と即断するのはまだ早計という気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

ひでほ

ジェイロソフトをのんでいるので、とても興味深く読ませていただきました。
by ひでほ (2015-07-14 15:00) 

fujiki

ひでほさんへ
コメントありがとうございます。
SSRIは安全面を含むデータが豊富と言う意味では、
慎重に使用すれば安全な薬、
と言えるのではないかと思います。
by fujiki (2015-07-15 08:21) 

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