肥満治療薬リラグルチドの効果 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から介護保険の意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
元々は2型糖尿病の治療に用いる注射薬を、
用量を増やして肥満の体重コントロールに使用した、
臨床試験の結果です。
肥満は世界的な健康上の問題ですが、
薬物治療という観点では、
満足のいくような、
第一選択薬と言えるような薬剤は、
未だに見付かっていません。
その候補として今回臨床試験が行われたのが、
インクレチン関連薬と呼ばれるタイプの薬の一種で、
現在日本でも2型糖尿病の治療薬として使用されている、
リラグルチド(商品名ビクトーザ)という注射薬です。
この薬はGLP-1アナログと呼ばれ、
消化管ホルモンでインスリン分泌を、
食後のみに刺激する作用を持つ物質です。
インスリンの拮抗ホルモンであるグルカゴンを抑制する働きがあり、
また食事の胃からの排出時間を延ばし、
満腹が得やすくなるので、
当初より体重減少に結び付くことが期待されていました。
同じインクレチン関連薬には、
代謝酵素の阻害剤であるDPP4阻害剤がありますが、
効果が間接的でGLP-1のみを増加させる訳ではないので、
体重減少効果はあまり認められていません。
現状のビクトーザの日本での適応用量は、
最大で1日0.9㎎です。
海外での用量の上限はその倍の1.8㎎です。
しかし、その効果を見る臨床試験においては、
1日3.0㎎までの用量が使用され、
その範囲では用量依存的に体重の減少が、
確認されています。
これは主に食欲の減少によると考えられています。
現行の用量が低く抑えられているのは、
安全性の面での懸念もありますが、
主にはその血糖減少作用自体は、
0.9から1.8㎎くらいで頭打ちになっているからです。
しかし、この薬を肥満症に対して使用するとすれば、
より高用量で効果が期待出来る、
と言う可能性があるのです。
今回の臨床試験は、
この高用量のリラグルチドを、
糖尿病ではない高度の肥満の患者さんに使用し、
56週間の経過観察を行なっているものです。
対象は糖尿病の基準には達していない、
BMIが30以上の肥満の患者と、
脂質異常症もしくは高血圧がある、
BMIが27.0以上の患者、
トータル3731例です。
この患者をくじ引きで2対1に分け、
2487名の患者にはリラグルチドを1日3.0㎎毎日使用し、
残りの1244名の患者には偽薬の注射を同じように施行して、
56週間経過後の、
体重の減少幅、及び血糖やインスリンなどの検査数値、
更には心血管疾患や糖尿病の発症を両群で比較しています。
その結果…
登録の時点での患者の平均年齢は45歳で、
平均のBMIは38を超えています。
日本ではあまりお目に掛かれないような、
高度の肥満の方が多い、と言うことが分かります。
56週間の時点で、
偽薬の使用群では体重減少は2.8±6.5㎏であったのに対して、
リラグルチド使用群では8.4±7.3㎏減少しており、
リラグルチドは有意に体重を減らしていることが分かります。
この差は平均で5.6㎏程度あり、
リラグルチドのもう少し低用量を使用した、
これまでの試験結果を明確に上回っていました。
体重が5%以上減少した割合は、
偽薬が21.7%に対して、
リラグルチド群が63.2%、
10%以上減少した割合も、
偽薬が10.6%であったのに対して、
リラグルチド群が33.1%と、
いずれも有意にリラグルチド群で体重が減少していました。
一部では56週以降の検討も行なっているのですが、
一旦リラグルチドの使用を中止すると、
平均で12週間後には、
2.9㎏のリバウンドが起こっていました。
脂質異常の数値や血糖値、インスリンなどの、
肥満に伴う検査値も、
リラグルチド群でマイルドな改善傾向が認められました。
短期間のため、心血管疾患の発症には差がありませんでしたが、
糖尿病の新規発症については、
リラグルチド群で8分の1に減少していました。
有害事象については、
リラグルチド群で吐き気や下痢は有意に多くなっていました。
これはリラグルチドの発売当時、
吐き気がするので食事が摂れずに、
それで体重が減るのは当たり前、
というように揶揄されたこともあったのですが、
今回は1年を超えるような長期の試験ですから、
単にそれだけで体重が減少している訳ではないと思います。
重篤な有害事象としては、
胆石の発作が明確にリラグルチド群で増加していました。
これは解釈としては、
肥満で元々胆石の合併は多く、
体重減少時に発作が誘発され易いので、
その影響ではないかと考察されています。
ただ、これまでのデータでも胆石発作はリラグルチドで多く、
この辺りは慎重に考える必要があります。
これまでに危惧されていた副作用としては、
膵炎の発症と甲状腺髄様癌の発症とがあります。
膵炎は膵臓を刺激することから頻度の多いことが指摘され、
甲状腺髄様癌やカルシトニン値の上昇は、
動物実験での報告が認められます。
しかし、今回の症例の中では、
急性膵炎はリラグルチド群で4例とやや多く、
髄様癌やカルシトニン上昇の事例は、
認められませんでした。
癌では乳癌の頻度が、
例数は4例対1例と、
少ないのですがリラグルチド群で増加していました。
リラグルチドが発癌に関与した可能性もないとは言えませんが、
上記文献の著者らは、
体重が減ることにより、
乳房の脂肪も減少し、
それによって腫瘍が触知し易いなったことによるバイアスを、
その理由として想定しています。
リラグルチドに体重減少効果のあることは間違いなく、
1年程度の使用であれば、
比較的安全に使用可能であることも、
ほぼ確認されました。
そのため、
アメリカのFDAはリラグルチドを、
上記文献の条件と同じ、
BMI30以上もしくは、
27以上で高血圧や脂質異常症などを伴う場合に限って、
肥満の治療薬としての認可を、
昨年の12月に行ないました。
論文は今回の掲載ですが、
元データ自体は昨年にはまとめられていたのです。
この薬がおそらく同じ用量設定で日本で認可されることは、
肥満の患者さんの分布から言ってなさそうですが、
用量を低くしての採用は想定されます。
個人的には長期使用の成績が是非欲しいところで、
その上で大きな問題がなければ、
今後の肥満の診療において、
第一選択の治療薬となる可能性は、
潜在的には充分あるように思います。
薬物でのこうしたクリアな結果は、
実際にはこれまであまり例のないことだからです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から介護保険の意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
元々は2型糖尿病の治療に用いる注射薬を、
用量を増やして肥満の体重コントロールに使用した、
臨床試験の結果です。
肥満は世界的な健康上の問題ですが、
薬物治療という観点では、
満足のいくような、
第一選択薬と言えるような薬剤は、
未だに見付かっていません。
その候補として今回臨床試験が行われたのが、
インクレチン関連薬と呼ばれるタイプの薬の一種で、
現在日本でも2型糖尿病の治療薬として使用されている、
リラグルチド(商品名ビクトーザ)という注射薬です。
この薬はGLP-1アナログと呼ばれ、
消化管ホルモンでインスリン分泌を、
食後のみに刺激する作用を持つ物質です。
インスリンの拮抗ホルモンであるグルカゴンを抑制する働きがあり、
また食事の胃からの排出時間を延ばし、
満腹が得やすくなるので、
当初より体重減少に結び付くことが期待されていました。
同じインクレチン関連薬には、
代謝酵素の阻害剤であるDPP4阻害剤がありますが、
効果が間接的でGLP-1のみを増加させる訳ではないので、
体重減少効果はあまり認められていません。
現状のビクトーザの日本での適応用量は、
最大で1日0.9㎎です。
海外での用量の上限はその倍の1.8㎎です。
しかし、その効果を見る臨床試験においては、
1日3.0㎎までの用量が使用され、
その範囲では用量依存的に体重の減少が、
確認されています。
これは主に食欲の減少によると考えられています。
現行の用量が低く抑えられているのは、
安全性の面での懸念もありますが、
主にはその血糖減少作用自体は、
0.9から1.8㎎くらいで頭打ちになっているからです。
しかし、この薬を肥満症に対して使用するとすれば、
より高用量で効果が期待出来る、
と言う可能性があるのです。
今回の臨床試験は、
この高用量のリラグルチドを、
糖尿病ではない高度の肥満の患者さんに使用し、
56週間の経過観察を行なっているものです。
対象は糖尿病の基準には達していない、
BMIが30以上の肥満の患者と、
脂質異常症もしくは高血圧がある、
BMIが27.0以上の患者、
トータル3731例です。
この患者をくじ引きで2対1に分け、
2487名の患者にはリラグルチドを1日3.0㎎毎日使用し、
残りの1244名の患者には偽薬の注射を同じように施行して、
56週間経過後の、
体重の減少幅、及び血糖やインスリンなどの検査数値、
更には心血管疾患や糖尿病の発症を両群で比較しています。
その結果…
登録の時点での患者の平均年齢は45歳で、
平均のBMIは38を超えています。
日本ではあまりお目に掛かれないような、
高度の肥満の方が多い、と言うことが分かります。
56週間の時点で、
偽薬の使用群では体重減少は2.8±6.5㎏であったのに対して、
リラグルチド使用群では8.4±7.3㎏減少しており、
リラグルチドは有意に体重を減らしていることが分かります。
この差は平均で5.6㎏程度あり、
リラグルチドのもう少し低用量を使用した、
これまでの試験結果を明確に上回っていました。
体重が5%以上減少した割合は、
偽薬が21.7%に対して、
リラグルチド群が63.2%、
10%以上減少した割合も、
偽薬が10.6%であったのに対して、
リラグルチド群が33.1%と、
いずれも有意にリラグルチド群で体重が減少していました。
一部では56週以降の検討も行なっているのですが、
一旦リラグルチドの使用を中止すると、
平均で12週間後には、
2.9㎏のリバウンドが起こっていました。
脂質異常の数値や血糖値、インスリンなどの、
肥満に伴う検査値も、
リラグルチド群でマイルドな改善傾向が認められました。
短期間のため、心血管疾患の発症には差がありませんでしたが、
糖尿病の新規発症については、
リラグルチド群で8分の1に減少していました。
有害事象については、
リラグルチド群で吐き気や下痢は有意に多くなっていました。
これはリラグルチドの発売当時、
吐き気がするので食事が摂れずに、
それで体重が減るのは当たり前、
というように揶揄されたこともあったのですが、
今回は1年を超えるような長期の試験ですから、
単にそれだけで体重が減少している訳ではないと思います。
重篤な有害事象としては、
胆石の発作が明確にリラグルチド群で増加していました。
これは解釈としては、
肥満で元々胆石の合併は多く、
体重減少時に発作が誘発され易いので、
その影響ではないかと考察されています。
ただ、これまでのデータでも胆石発作はリラグルチドで多く、
この辺りは慎重に考える必要があります。
これまでに危惧されていた副作用としては、
膵炎の発症と甲状腺髄様癌の発症とがあります。
膵炎は膵臓を刺激することから頻度の多いことが指摘され、
甲状腺髄様癌やカルシトニン値の上昇は、
動物実験での報告が認められます。
しかし、今回の症例の中では、
急性膵炎はリラグルチド群で4例とやや多く、
髄様癌やカルシトニン上昇の事例は、
認められませんでした。
癌では乳癌の頻度が、
例数は4例対1例と、
少ないのですがリラグルチド群で増加していました。
リラグルチドが発癌に関与した可能性もないとは言えませんが、
上記文献の著者らは、
体重が減ることにより、
乳房の脂肪も減少し、
それによって腫瘍が触知し易いなったことによるバイアスを、
その理由として想定しています。
リラグルチドに体重減少効果のあることは間違いなく、
1年程度の使用であれば、
比較的安全に使用可能であることも、
ほぼ確認されました。
そのため、
アメリカのFDAはリラグルチドを、
上記文献の条件と同じ、
BMI30以上もしくは、
27以上で高血圧や脂質異常症などを伴う場合に限って、
肥満の治療薬としての認可を、
昨年の12月に行ないました。
論文は今回の掲載ですが、
元データ自体は昨年にはまとめられていたのです。
この薬がおそらく同じ用量設定で日本で認可されることは、
肥満の患者さんの分布から言ってなさそうですが、
用量を低くしての採用は想定されます。
個人的には長期使用の成績が是非欲しいところで、
その上で大きな問題がなければ、
今後の肥満の診療において、
第一選択の治療薬となる可能性は、
潜在的には充分あるように思います。
薬物でのこうしたクリアな結果は、
実際にはこれまであまり例のないことだからです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2015-07-13 08:06
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