イキウメ「聖地X」 [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
午前中に修理に来てもらい、
インターネットは復旧しました。
やれやれです。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
人間関係や世界の問題を、
突き放した視点で化学分析するように冷徹に描く、
独特の世界観を持つ劇団イキウメの本公演が、
今三軒茶屋のシアタートラムで上演中です。
今回の作品は、
2010年に初演された、
「プランクトンの踊り場」と言う作品のリニューアル版で、
題名は「聖地X」と変更されています。
これまでのイキウメの再演作品は、
設定やラスト、演出などを、
初演とはかなり大きく変更することが多く、
それが勿論成功していればいいのですが、
あまり上手くはいっていないことが正直殆どで、、
「ああ、これなら初演の方が全然いいのに、
何で変えるんだよ、馬鹿」
というような結果になって、
失望の中で劇場を後にすることが一度ならずありました。
ただ、今回の作品は題名が変更されたことと、
キャストが整理されて1人減ったことを除けば、
ほぼ初演通りのスタイルで、
間違いなく初演を超える上演になっていたと思います。
ラストは初演はもう少しグロテスクでくどい感じだったので、
その辺りが淡泊で分かり易くなったことは、
良い面と悪い面とがあるとは思うのですが、
そのこと以外は確実に初演を超えるレベルで、
イキウメのおそらくは最も特徴的で優れた個性を、
十全に味わうことの出来る作品に仕上がっていたと思います。
非常に理屈っぽい世界なので、
好みではない、
と言う方もいらっしゃるとは思いますが、
ベスト・オブ・イキウメと言って、
誤りではない上演だと思いますので、
迷われている方は、
是非劇場まで足をお運び下さい。
星新一のショートショートを、
面白いと思える方ならより楽しめます。
特にイキウメを初見の方には、
他に類例のない、
奇妙でグロテスクで知的で刺激的な世界が、
目の前で繰り広げられることを保証します。
以下ネタバレを含む感想です。
風俗に入れあげて、
実家から多額の借金をした夫に愛想を尽かし、
土地持ちの地方都市の実家に、
若い人妻が戻って来るところから物語は始まります。
その町の、まだオープン前の飲食店で、
たまたま夫の姿を目にするのですが、
実際の夫はその時同時に遠く離れた都会にいたことが明らかになり、
2人の同じ夫が現れる、
という怪異が起こります。
奇妙なことに、
2人の夫の記憶には、
別箇の欠落があり、
それが妻に関する記憶の部分です。
実はその飲食店のあった場所では、
過去にも、
食事が沢山あるのに餓死した夫婦とか、
従業員が自分の分身を見て、
狂気に陥ったというような出来事が起こっています。
物語はまず、
何故このような奇怪な現象が起こるのかを、
理詰めの検証で解き明かし、
その後2人いる主人公の夫を、
1人に合成するための実験に取り掛かります。
実験は成功するのですが、
その結果、2日の記憶しか持たない、
「人間もどき」のような3人目の夫が生成されてしまい、
最後に妻はその「人間もどき」を自分が受け入れて終わります。
ドッペルゲンガーを主題にした小説は山のようにありますが、
このような異様なストーリーは他には例がないと思います。
特に分裂した2人を元に戻すために、
わざわざもう1人の分身を作る、
という奇想が秀逸です。
基本的なプロットは、
イキウメの代表作の1つ「散歩する侵略者」に似ていて、
どちらの作品も、
哲学的な思考実験が、
地方都市の非現実的な悪夢的現象として表現され、
それが最終的には、
極めてミニマルな個別の男女の愛の物語に収束します。
基本的には初演版とストーリーラインは同じで、
人物関係はより整理されて分かり易く、
演出も壁などは抽象的に構成されていますが、
基本的には家具などのセットは、
リアルなものが使用されています。
物語が突飛で展開に抽象的な部分があるので、
セットや演出はむしろ保守的で具象的な方が、
観客が落ち着いて作品世界に入れるのではないか、
というのが僕の基本的な考えで、
最近のイキウメの作品は、
抽象的なセットが多いのですが、
僕はその判断は疑問に思います。
今回はその意味でバランスの良い判断であったように思います。
ただ、斜めの壁が迫って来るような動きを、
何度も演出として見せ、
それで上演時間が伸びている感じがするのは、
個人的にはあまり良いことのように思えませんでした。
また、ジャケットの動きだけで、
2人の夫が入れ替わったことを表現する、
野田秀樹みたいな演出があるのですが、
稚拙でとてもそんな風には見えませんし、
そうした小細工は、
逆に舞台の内容のリアルさを、
損なうもののように感じました。
はっきり言えば不要だと思います。
初演のラストは、
頭から袋を被せられた人間もどきの夫を、
妻が強く抱くようなグロテスクな場面があったのですが、
今回はそうしたことはせず、
どちらかと言えば台詞のみで淡々と処理していました。
元々かなり問題のあるラストで、
この「人間もどき」の夫を家に連れ帰り、
共に暮らす日々を描写などすれば、
ある種の異常心理文学のようになると思うのですが、
その危険な部分には踏み込まず、
上っ面を撫ぜたまま終わりにしているのが今回で、
より納得のいくオチが、
創出されれば別ですが、
作品がそのままであれば、
今回のような処理の方が、
瑕疵がないように思いました。
役者さんは今回は非常に良くて、
盛さんくらいの辺りが、
非常に上手くなっているので、
作品に厚みが生まれています。
アンサンブルも絶妙でした。
総じてイキウメの特徴がしっかりと出た、
代表作の1つと言って良い作品で、
今後も「このままの演出」で、
上演を続けて欲しいと思いました。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
午前中に修理に来てもらい、
インターネットは復旧しました。
やれやれです。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
人間関係や世界の問題を、
突き放した視点で化学分析するように冷徹に描く、
独特の世界観を持つ劇団イキウメの本公演が、
今三軒茶屋のシアタートラムで上演中です。
今回の作品は、
2010年に初演された、
「プランクトンの踊り場」と言う作品のリニューアル版で、
題名は「聖地X」と変更されています。
これまでのイキウメの再演作品は、
設定やラスト、演出などを、
初演とはかなり大きく変更することが多く、
それが勿論成功していればいいのですが、
あまり上手くはいっていないことが正直殆どで、、
「ああ、これなら初演の方が全然いいのに、
何で変えるんだよ、馬鹿」
というような結果になって、
失望の中で劇場を後にすることが一度ならずありました。
ただ、今回の作品は題名が変更されたことと、
キャストが整理されて1人減ったことを除けば、
ほぼ初演通りのスタイルで、
間違いなく初演を超える上演になっていたと思います。
ラストは初演はもう少しグロテスクでくどい感じだったので、
その辺りが淡泊で分かり易くなったことは、
良い面と悪い面とがあるとは思うのですが、
そのこと以外は確実に初演を超えるレベルで、
イキウメのおそらくは最も特徴的で優れた個性を、
十全に味わうことの出来る作品に仕上がっていたと思います。
非常に理屈っぽい世界なので、
好みではない、
と言う方もいらっしゃるとは思いますが、
ベスト・オブ・イキウメと言って、
誤りではない上演だと思いますので、
迷われている方は、
是非劇場まで足をお運び下さい。
星新一のショートショートを、
面白いと思える方ならより楽しめます。
特にイキウメを初見の方には、
他に類例のない、
奇妙でグロテスクで知的で刺激的な世界が、
目の前で繰り広げられることを保証します。
以下ネタバレを含む感想です。
風俗に入れあげて、
実家から多額の借金をした夫に愛想を尽かし、
土地持ちの地方都市の実家に、
若い人妻が戻って来るところから物語は始まります。
その町の、まだオープン前の飲食店で、
たまたま夫の姿を目にするのですが、
実際の夫はその時同時に遠く離れた都会にいたことが明らかになり、
2人の同じ夫が現れる、
という怪異が起こります。
奇妙なことに、
2人の夫の記憶には、
別箇の欠落があり、
それが妻に関する記憶の部分です。
実はその飲食店のあった場所では、
過去にも、
食事が沢山あるのに餓死した夫婦とか、
従業員が自分の分身を見て、
狂気に陥ったというような出来事が起こっています。
物語はまず、
何故このような奇怪な現象が起こるのかを、
理詰めの検証で解き明かし、
その後2人いる主人公の夫を、
1人に合成するための実験に取り掛かります。
実験は成功するのですが、
その結果、2日の記憶しか持たない、
「人間もどき」のような3人目の夫が生成されてしまい、
最後に妻はその「人間もどき」を自分が受け入れて終わります。
ドッペルゲンガーを主題にした小説は山のようにありますが、
このような異様なストーリーは他には例がないと思います。
特に分裂した2人を元に戻すために、
わざわざもう1人の分身を作る、
という奇想が秀逸です。
基本的なプロットは、
イキウメの代表作の1つ「散歩する侵略者」に似ていて、
どちらの作品も、
哲学的な思考実験が、
地方都市の非現実的な悪夢的現象として表現され、
それが最終的には、
極めてミニマルな個別の男女の愛の物語に収束します。
基本的には初演版とストーリーラインは同じで、
人物関係はより整理されて分かり易く、
演出も壁などは抽象的に構成されていますが、
基本的には家具などのセットは、
リアルなものが使用されています。
物語が突飛で展開に抽象的な部分があるので、
セットや演出はむしろ保守的で具象的な方が、
観客が落ち着いて作品世界に入れるのではないか、
というのが僕の基本的な考えで、
最近のイキウメの作品は、
抽象的なセットが多いのですが、
僕はその判断は疑問に思います。
今回はその意味でバランスの良い判断であったように思います。
ただ、斜めの壁が迫って来るような動きを、
何度も演出として見せ、
それで上演時間が伸びている感じがするのは、
個人的にはあまり良いことのように思えませんでした。
また、ジャケットの動きだけで、
2人の夫が入れ替わったことを表現する、
野田秀樹みたいな演出があるのですが、
稚拙でとてもそんな風には見えませんし、
そうした小細工は、
逆に舞台の内容のリアルさを、
損なうもののように感じました。
はっきり言えば不要だと思います。
初演のラストは、
頭から袋を被せられた人間もどきの夫を、
妻が強く抱くようなグロテスクな場面があったのですが、
今回はそうしたことはせず、
どちらかと言えば台詞のみで淡々と処理していました。
元々かなり問題のあるラストで、
この「人間もどき」の夫を家に連れ帰り、
共に暮らす日々を描写などすれば、
ある種の異常心理文学のようになると思うのですが、
その危険な部分には踏み込まず、
上っ面を撫ぜたまま終わりにしているのが今回で、
より納得のいくオチが、
創出されれば別ですが、
作品がそのままであれば、
今回のような処理の方が、
瑕疵がないように思いました。
役者さんは今回は非常に良くて、
盛さんくらいの辺りが、
非常に上手くなっているので、
作品に厚みが生まれています。
アンサンブルも絶妙でした。
総じてイキウメの特徴がしっかりと出た、
代表作の1つと言って良い作品で、
今後も「このままの演出」で、
上演を続けて欲しいと思いました。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2015-05-17 10:39
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