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ヒトパピローマウイルスワクチンによる自律神経障害(デンマークの報告) [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
HPVワクチン接種後の神経障害デンマーク.jpg
今年のDanish Medical Journal誌に掲載された、
ヒトパピローマウイルスワクチン(ガーダシル)接種後の、
自律神経障害、特に起立性調節障害の患者さん53例をまとめた報告です。

この問題については、
信州大学の池田先生のグループによる、
44例をまとめた日本の報告が昨年あり、
ブログでも記事にしました。
こちらは症例の詳細にかなり踏み込んだ内容になっていましたが、
今回ご紹介するデンマークのものは、
もっと簡便な症例のまとめに留まっています。
ただ、論文化されたまとまった報告としては、
おそらく現状日本以外では唯一のもので、
その意義は大きいと考えます。

皆さんご存知のように、
将来的な子宮頸癌の予防のために、
ヒトパピローマウイルスワクチンの接種が、
任意接種としては2010年から、
2013年の4月からは13歳から16歳の女性に対して、
定期接種として開始されたのですが、
その後接種後の副反応、
特に歩行困難となるような下肢の痛みや脱力、
不随意運動など、
通常のワクチンの副反応としては、
極めて稀にしか報告されないような症状が、
複数報告され、
そのために事実上ワクチン接種は現行中断となっています。

その副反応の原因は、
色々と対立する見解もあり、
未だ明らかにはなっていません。

デンマークにおいては、
4価のヒトパピローマウイルスワクチンである、
ガーダシルの接種が、
2006年より無料の定期接種として行われ、
現在までに概ね48万人の女児が接種を完了しています。

その安全性に関しては、
デンマークとスェーデンを一緒にして解析した、
大規模な疫学データが、
British Mrdical Journal誌や、
JAMA誌で論文となっていて、
ワクチン接種後半年以内の、
自己免疫疾患などの発症リスクには、
個別にはやや増加の疑われるものもあるのですが、
トータルには有意な上昇はない、
という結論になっています。

ただ、こうした有害事象の報告と言うのは、
診断の明確でないような病状については、
全てが漏れなくカウントされているとは限りません。

つまり、予め想定される有害事象の頻度については、
信頼して間違いがないと思うのですが、
そもそもあまり想定されていないような病態であると、
見落とされているケースも考えられるのです。

今回の報告はデンマークの単独施設において、
意識消失発作の専門科(Syncope Unit)を受診した患者のうち、
ガーダシル接種後2 ヶ月以内に初めてその症状が出現していて、
慢性の基礎疾患などのない、
53名の女性を対象として、
起立性調節障害の診断のために、
ヘッドアップティルト試験を行ない、
その結果をまとめています。
ヘットアップティルト試験というのは、
精密に行なう起立試験で、
寝た姿勢から徐々に身体を起こし、
血圧や脈拍などの推移を観察するものです。

患者の平均年齢は23歳で、
12歳から39歳に分布しています。
症状出現の平均年齢は21.0歳で、
ワクチン接種から症状出現までの期間は、
平均で11.1日です。

症状として多かったものは、
頭痛が100%、立ちくらみが96%、
倦怠感が96%、認知機能障害が89%、
睡眠障害が85%などとなっています。

立ちくらみの症状のあった患者のうち、
45%は繰り返す意識消失発作を起こしていて、
ヘッドアップティルト試験の結果として、
53%に当たる28名が、
POTS(起立性頻脈症候群)と診断されています。

興味深いことは、
89%の患者において、
意識がぼんやりしたり、
短期記憶が障害されたりといった、
認知機能の障害が同時に認められていることです。

また、疼痛も66%の患者さんに認められ、
焼けるような痛みや刺されるような痛みが、
典型的なものは一方の四肢の末端から始まり、
その後範囲が拡大しています。

今回の文献はこの症例のまとめに留まるものなので、
これがガーダシルの接種に伴うものである、
という確たる根拠が存在するものではありません。

ただ、日本の池田先生のグループの論文とも、
かなりの相同性のある報告であることは間違いがありません。

日本の論文では、
歩行障害や痛みが主訴としてはクローズアップされていたのに対して、
今回のデンマークの報告は、
意識消失発作のあった患者さんが対象となっているので、
POTSの患者さんが、
より多く診断されているという違いが、
生じているように思います。

現状他にまとまった報告はないと思います。
日本のものも今回のものも、
数十例の事例をまとめただけのものなので、
ワクチン接種との因果関係を云々出来るような性質のものではありません。
掲載された雑誌も、
インパクト・ファクターが1未満程度のものです。

ただ、見落とされている事例は実際には多くあると思うので、
ヒトパピローマウイルスワクチンに限らず、
ワクチン接種後や感染後に、
頭痛や立ちくらみ、全身倦怠感や認知機能低下が生じたようなケースは、
もっと漏れなく拾い上げ、
集計するような努力は必要だと思います。

個人的には、
ワクチン接種後にそれをきっかけとして、
起立性調節障害などの自律神経系の異常が起こることは、
事実ではないかと考えます。

ただ、それが実際にどのくらいの頻度で起こる現象であるのか、
ヒトパピローマウイルスワクチンに特異的なものであるのか、
それとももっと広くワクチン接種であれば起こり得るものであるのか、
そうした点については、
まだ判断出来るような材料は不足しています。

おそらく頻度的にはかなり低いものなので、
数万人規模の検証では、
拾い上げることは困難なのではないかと、
これまでの疫学データからは推測されます。

ただ、たとえばワクチン接種後の立ちくらみや頭痛などの症候を、
接種される方にも周知し、
もっと積極的に拾い上げて、
起立試験などを行なうようにすれば、
もっとその頻度は高くなる可能性はあるように思います。

これがヒトパピローマウイルスワクチンに特異的であるかどうか、
という点については、
全ての原因の特定出来ない副反応が同じ、
ということではありませんが、
この起立性調節障害を伴う病態に関しては、
個人的にはそうではない可能性の方が高いように思います。

日本においては、
ガーダシルでもサーバリックスでも同様の報告がありますし、
特定のロットなどで特に多いというような傾向はないので、
特定の成分が影響しているとは考え難いという気がするからです。

起立性調節障害は思春期に元々多い病気であり、
ヒトパピローマウイルスワクチンの接種年齢と一致しているので、
よりその影響が顕著に出た、
という可能性があるのではないでしょうか?

接種したワクチンの種類よりも、
その接種時期と対象者に、
よりこうした有害事象を起こし易い要因があったのではないか、
という考え方です。

いずれにしてもこの病態の理解が、
ここ止まりのものになってしまうのか、
それともデータが蓄積され、
より深い理解と発見に結び付くものなのか、
池田先生を代表とする研究班も発足するとのことですから、
何よりも今現在こうした症状に苦しんでいる患者さんの役に立つような、
そして今後こうした患者さんが発症しないための、
研究の進捗に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高橋

おはようございます。子供のことで心配なことが
あり質問させて頂いてよろしいでしょうか?

18日に2550gで男の子を産んだのですが、
昨日から黄疸が出たということで光を浴びる治療を
するようです。インターネットで調べても、よくある
ことのようですが、とても心配です。
予後はいかがなものでしょうか?
お返事お待ちしています。よろしくお願い致します。
by 高橋 (2015-04-20 11:21) 

fujiki

高橋さんへ
新生児黄疸に光線療法をされる、
ということだと思いますので、
慎重に経過を見れば、
大きなご心配は要らないのではないかと思います。
ご心配をし過ぎずに、
よく主治医の先生のお話を聞いて、
経過を見て頂くのが良いと思います。
by fujiki (2015-04-20 13:29) 

チモシー

こんにちは。いつもブログ読ませていただいています。
本日はワクチンのことが記事になっていましたので、お聞きしてもよろしいでしょうか。
3月16日に、風疹ワクチンを受けました。医師には二週間避妊したら大丈夫と言われました。しかし、ネットや本で調べると二ヶ月は避妊しなければならないと書いてありました。
夫と住み出すのが5月9日なので、二ヶ月経っておりません。
しかし、母が年老いていて、父も先日亡くなっており、早く孫の顔を見せたいとも思っております。私と夫も早く子供が欲しいです。
ワクチン接種後、すぐ生理が来て先月も来たので二回生理を見送っており、今月もあと一週間前後で来るかと思います。
それでも、二ヶ月となる5月16日まで待たなければならないのでしょうか。
by チモシー (2015-04-20 18:20) 

fujiki

チモシーさんへ
これは1ヶ月しっかりと開いていれば、
基本的には全く問題はないのですが、
より慎重に安全策を取って、
2倍の2ヶ月としているのです。
従って、少し早めても全く問題はありません。
5月9日に同居されたら、
お子さんをすぐに考えて頂いて差し支えありません。
それでも、早くてご妊娠の成立は、
5月の14日くらいにはなるのではないでしょうか。
by fujiki (2015-04-20 22:15) 

鍋

話題違いですみません。
いつも観劇レポートを楽しみにしておりますが、今回のシベリア少女鉄道はご覧になられましたか?
観られたのであれば、記事を楽しみにしております。
by (2015-04-21 09:05) 

fujiki

鍋さんへ
2ヴァージョンとも行きました。
ネタバレは厳禁なので、
公演が終わるまで待って寝かせてあります。
感想は今週末にはアップする予定です。
by fujiki (2015-04-21 13:15) 

チモシー

お返事遅れてすみません。
それを聞いて、安心しました。
二ヶ月以内に妊娠したら
堕胎をすすめられてしまったと言う人が
いたという話も聞いて、不安でした。
きっかり二ヶ月以上は避妊をしなければ
ならないのだと思っていましたが、
勇気が出ました。ありがとうございました。
by チモシー (2015-05-05 14:44) 

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