宮部みゆき「ソロモンの偽証」 [ミステリー]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から何となく悶々として、
それから今PCに向かっています。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
最初は久しぶりのミステリーです。
まずこちら。
小説新潮に2002年から、
足掛け9年を掛けて連載された、
宮部みゆきのこれまでで最も長いミステリーです。
「負の方程式」というおまけの中編が付いた、
文庫版を読みました。
500ページを超える文庫本が6分冊という、
びっくりするような長さです。
端的に感想を言えば、
矢張りちょっと長過ぎると感じました。
オープニングは如何にも宮部みゆきという、
これからを期待させるワクワクするタッチですし、
ラストには「魔術はささやく」的な泣かせも入っています。
そうした意味では宮部みゆきさんのファンの期待を、
裏切る作品ではないと思います。
ただ、ミステリーとしては意外性に乏しく、
せいぜい短編を支えられる程度、という筋立てなので、
ミステリーとしてのワクワク、ドキドキを期待すると、
やや裏切られたような気分になります。
主人公達の心理の謎が、
それに代わる超大作を支えるだけの魅力に成り得たかと言うと、
それもちょっと微妙なように思いました。
宮部さんは現代の現役の作家の中では、
文章の上手さでは群を抜いていると思うのですが、
今回の作品は執筆期間も長いせいか、
文体はかなり揺れていて、
時々湊かなえさんを思わせるような表現や、
桐野夏生さんを思わせるような表現があり、
個人的には違和感がありました。
以下ネタバレを少し含む感想です。
この超大作は3部に分かれていて、
第1部は1990年のクリスマスイブに、
不登校だった少年が、
通っていた中学の屋上から転落死する、
という事件と、
そこから派生して起こる、
幾つかの事件が描かれます。
第2部では自殺として公式には処理された事件を、
クラスメートが中心となって模擬法廷を行ない、
真相を究明しようという企画から、
実際の裁判の開始までが描かれ、
第3部ではその裁判の経緯が描かれます。
基本的に最初の墜落死の謎が、
最後になって解かれる、という、
ミステリーの構造にはなっているのですが、
そこに特別な意外性などはなく、
「ああ、やっぱりそうだったのね」という程度のものです。
死んだ少年と、その隠れた親友とのある種の心理的な対決が、
その謎に絡むのですが、
それも過去作の「模倣犯」辺りの焼き直しの感があります。
いじめや虐待、DV、
ストーキング、過剰報道、不祥事隠蔽など、
多くの社会悪がアラベスクのように描かれますが、
そうした「現代の悪」を描出する手法は、
これも過去作の「名もなき毒」辺りの焼き直しで、
その密度の面で過去完成作に及ばない、
という気がします。
(長期に渡る連載なので、
実際には執筆時期はクロスしています)
ある種宮部みゆきミステリーの総決算、
という趣があるのですが、
量的には文句なく総決算ですが、
質的にはやや疑問が残るように思いました。
文庫版のラストには、
ボーナストラックとして、
「負の方程式」という中編が収められていて、
これが目の覚めるような快作です。
「ペテロの葬列」後の杉村三郎と、
「ソロモンの偽証」のヒロインが一緒に探偵役を勤め、
事件も学校で先生と生徒の証言が、
真っ向から食い違うという、
一種の不可能犯罪で、
意外に奥の深い真相が姿を現します。
本編よりある意味楽しめる作品で、
宮部さんは長編より中短編が本領の作家であることを、
再認識するような作品となっていました。
それでは次の記事に移ります。
次は演劇の感想です。
六号通り診療所の石原です。
朝から何となく悶々として、
それから今PCに向かっています。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
最初は久しぶりのミステリーです。
まずこちら。
小説新潮に2002年から、
足掛け9年を掛けて連載された、
宮部みゆきのこれまでで最も長いミステリーです。
「負の方程式」というおまけの中編が付いた、
文庫版を読みました。
500ページを超える文庫本が6分冊という、
びっくりするような長さです。
端的に感想を言えば、
矢張りちょっと長過ぎると感じました。
オープニングは如何にも宮部みゆきという、
これからを期待させるワクワクするタッチですし、
ラストには「魔術はささやく」的な泣かせも入っています。
そうした意味では宮部みゆきさんのファンの期待を、
裏切る作品ではないと思います。
ただ、ミステリーとしては意外性に乏しく、
せいぜい短編を支えられる程度、という筋立てなので、
ミステリーとしてのワクワク、ドキドキを期待すると、
やや裏切られたような気分になります。
主人公達の心理の謎が、
それに代わる超大作を支えるだけの魅力に成り得たかと言うと、
それもちょっと微妙なように思いました。
宮部さんは現代の現役の作家の中では、
文章の上手さでは群を抜いていると思うのですが、
今回の作品は執筆期間も長いせいか、
文体はかなり揺れていて、
時々湊かなえさんを思わせるような表現や、
桐野夏生さんを思わせるような表現があり、
個人的には違和感がありました。
以下ネタバレを少し含む感想です。
この超大作は3部に分かれていて、
第1部は1990年のクリスマスイブに、
不登校だった少年が、
通っていた中学の屋上から転落死する、
という事件と、
そこから派生して起こる、
幾つかの事件が描かれます。
第2部では自殺として公式には処理された事件を、
クラスメートが中心となって模擬法廷を行ない、
真相を究明しようという企画から、
実際の裁判の開始までが描かれ、
第3部ではその裁判の経緯が描かれます。
基本的に最初の墜落死の謎が、
最後になって解かれる、という、
ミステリーの構造にはなっているのですが、
そこに特別な意外性などはなく、
「ああ、やっぱりそうだったのね」という程度のものです。
死んだ少年と、その隠れた親友とのある種の心理的な対決が、
その謎に絡むのですが、
それも過去作の「模倣犯」辺りの焼き直しの感があります。
いじめや虐待、DV、
ストーキング、過剰報道、不祥事隠蔽など、
多くの社会悪がアラベスクのように描かれますが、
そうした「現代の悪」を描出する手法は、
これも過去作の「名もなき毒」辺りの焼き直しで、
その密度の面で過去完成作に及ばない、
という気がします。
(長期に渡る連載なので、
実際には執筆時期はクロスしています)
ある種宮部みゆきミステリーの総決算、
という趣があるのですが、
量的には文句なく総決算ですが、
質的にはやや疑問が残るように思いました。
文庫版のラストには、
ボーナストラックとして、
「負の方程式」という中編が収められていて、
これが目の覚めるような快作です。
「ペテロの葬列」後の杉村三郎と、
「ソロモンの偽証」のヒロインが一緒に探偵役を勤め、
事件も学校で先生と生徒の証言が、
真っ向から食い違うという、
一種の不可能犯罪で、
意外に奥の深い真相が姿を現します。
本編よりある意味楽しめる作品で、
宮部さんは長編より中短編が本領の作家であることを、
再認識するような作品となっていました。
それでは次の記事に移ります。
次は演劇の感想です。
2015-04-18 07:48
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