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甲状腺結節の自然経過(イタリアの新知見) [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甲状腺良性腫瘍の自然経過.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
超音波所見もしくは穿刺吸引細胞診によって、
「良性」と初回に判断された甲状腺の結節の、
5年間の経過観察の結果の報告です。

甲状腺のしこりというのは、
死後の解剖の所見などでは、
5割に見付かるというデータのあるほど多い所見です。

そのうちの7から9%が悪性の可能性がある、
という報告もあります。

従って、甲状腺に何らかの検査でしこりが見付かった場合には、
それが良性であるのか悪性の可能性があるのかを、
まず適切に判断し、
その可能性に応じた対応を行なう必要があります。

通常そのための検査は、
甲状腺の超音波検査と、
甲状腺に針を刺して細胞を採取する、
穿刺吸引細胞診の検査です。

しこりの大きさが1センチ未満の場合には、
超音波の所見で悪性を疑わせるものがなければ、
経過観察の方針となり、
定期的な超音波検査で経過を見ます。
検査の間隔は1年に設定されることが多いようです。
1センチ以上のしこりで充実性の部分があれば、
原則穿刺吸引細胞診を行ないます。

ただ、日本の場合、
1センチを超えているしこりだからと言って、
必ず細胞診、ということはなく、
どちらかと言えば超音波所見を優先させて、
柔軟に運用されているケースが多いようです。

さて、
問題は初回の検査で「良性」と判断されたしこりを、
その後どのように経過観察をしてゆくか、
という方針にあります。

これについては、
国内外のガイドラインにおいて、
必ずしも明確な方針が示されていません。

甲状腺のしこりの場合、
良性のしこりが途中から悪性に変化することは、
基本的にはほぼないと考えられているので、
初回の検査が100%間違いがなく、
良性という判断なのであれば、
それ以降の検査は一切する必要がない、
という極論も誤りとは言えません。

ただ、問題は細胞診で悪性所見がなくても、
細胞の採取が充分でなかったり、
悪性所見がしこりの一部にあり、
それが採取されていない、
というようなケースも考えられます。
また、細胞診は乳頭癌については、
診断能が高いことで知られていますが、
それ以外の癌については、
その精度は高いものではありません。

つまり、実際的に、
細胞診で良性の結果であっても、
実は癌であった、というようなケースが、
どのくらい存在しているのか、
という点が第1の問題です。
言葉を変えれば、穿刺吸引細胞診の、
実際の運用上での偽陰性は、
どの程度になるのか、ということです。

もう1つの問題は超音波所見における、
「悪性を示唆する所見」とされるものが、
どの程度信頼のおけるものであるのか、
ということです。

これも極端に言えば、
「完全に悪性を否定出来る超音波所見」
というものがあるとすれば、
確定された以降の検査は、
基本的にはする必要がないからです。

こうした一度良性と判断された甲状腺結節を、
どのように経過観察することが妥当なのか、
という臨床上の問題を解決する目的で、
上記文献においては、
イタリアの8か所の甲状腺診療施設において、
一旦は良性の甲状腺結節と判断された病変に対して、
5年間の超音波検査による毎年1回の経過観察を行ない、
その間の病変の変化や、
悪性の診断の有無を検証しています。

登録の条件は、
甲状腺結節は1から4個、
大きさは4ミリから40ミリ、
充実性もしくは全体の4分の1以上が充実性で、
甲状腺機能低下症などの甲状腺の基礎疾患がなく、
超音波検査もしくは穿刺吸引細胞診において、
良性と判断された結節です。

この良性という判断は、
超音波検査で悪性を示唆する所見のない、
10ミリ未満の結節か、
悪性を示唆する所見があったり、
大きさが10ミリを超えていて、
穿刺吸引細胞診の結果が良性であった結節を指しています。

超音波での悪性を示唆する所見とは、
エコーレベルの低下した結節、
長さに比べて厚みが厚い結節、
微小な石灰化の見られる結節、
そして辺縁の不整な結節の4つの所見です。

トータル992名の患者さんの、
1567個の良性と判断された結節が登録されました。
患者さんの平均年齢は50代で8割が女性です。
基本的に小児の結節は含まれていないものと思われます。

さて、5年間の観察期間中、
良性とされた結節のうち5個の結節が癌と診断されました。
そのうちの3個は濾胞成分を含まない乳頭癌で、
残りの2個は濾胞成分を含む乳頭癌です。

観察期間中に、
このうちの2個は大きさが増大していますが、
残りの3個は大きさの変化はありません。
矢張り超音波所見上気になる病変だ、ということで、
再度の細胞診の方針となった訳です。

それ以外の観察可能であった全ての結節は、
良性という判断のままに推移しました。

つまり、最初に通常の手順で良性と判断された結節のうち、
5年間の観察期間中に実は癌であったと診断が覆ったのは、
全体の0.3%に過ぎなかった、
ということになります。

今回の臨床試験における穿刺吸引細胞診の検査は、
極めて偽陰性の少ない検査であった、
と言うことが出来ます。

この5年間に93名(9.3%)の患者さんに、
最初には見付からなかった、
新たな4ミリを超える結節が見付かりましたが、
そのうちで甲状腺癌と診断されたのは、
1例のみでした。

5年間の観察期間中、
153名(15.4%)の患者さんの174個(11.1%)のしこりの大きさは増加し、
逆に184名(18.5%)ではしこりは縮小が認められました。

つまり、
良性と判断されたしこりを経過観察すると、
そのほぼ同数が増大と縮小に向かう、
と言うことが分かります。
しかし、半数以上は5年間では大きさは変動しません。

どのようなしこりが増大し易いのかを解析すると、
複数のしこりがあるケースと、
最初のしこりが大きいケース、
それから男性は増加し易い、という結果になりました。
その一方年齢が65歳以上においては、
しこりの増大は稀でした。

今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

まず、甲状腺の結節が、
癌であるかないかを、
超音波の所見と穿刺吸引細胞診で判断する、
と言う手法は、
かなり理に適ったものだ、
と言うことが可能です。

細胞診に関しては、
少なからず偽陰性があることが危惧されたのですが、
今回のデータでは5年間で判定が覆ったしこりは、
結果として0.3%に過ぎませんでした。
(癌と判明した5例のうち1例は細胞診は未施行です)

問題は5年間に臨床的に見付かった6例の癌を、
効率良く検出するような、
経過観察のあり方はどのようなものなのか、
ということです。

これまでの考えでは、
しこりが経過の中で大きくなるケースは、
癌のリスクが高いとされていました。

しかし、今回のデータでは、
癌のうちの3例は増大はしておらず、
経過の中で縮小すれば、ほぼ癌でないと言って良いと思いますが、
増大しないからと言って、
癌でないとは言えない、という結果になっています。

1センチを超えるようなしこりにおいては、
大きさの増加は癌の兆候の1つとして、
捉えて良いのだと思いますが、
今回のように初回の検査で良性とされるようなしこりについては、
初回の検査データを超えて、
癌のリスクを測る物差しには、
大きさの変化は使えないように思います。

従って、
今回のデータを見る限り、
初回の検査がしっかりと行われていて、
良性のしこりという判断になっているのであれば、
次回の検査は5年後くらいに設定しても、
大きな違いはなく、
毎年の検査の方がより多く癌を検出する、
という根拠はあまりないように思われます。

ただ、これはややヨード欠乏地域のデータであり、
細胞診の施行方法や超音波検査の施行方法においても、
かなりの施設差や地域差が想定されるので、
そのまま日本でも当て嵌まるとは、
決められないデータであることは勿論のように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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