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トム・プロジェクト プロデュース「スィートホーム」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は祝日で診療所は休診です。

色々としなければいけないこともあり、
決めなければいけないこともあるのですが、
なかなか気持ちが乗せられません。
それでもやれることを、
少しずつやりたいと思います。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
スィートホーム.jpg
トム・プロジェクトのプロデュースとして、
劇団チョコレートケーキの作・演出コンビの新作に、
ベテランの高橋長英ら多彩なキャストの揃った企画公演が、
先日まで赤坂レッドシアターで上演されました。

キャストはこちら。
スィートホーム キャスト.jpg

いつものように、
直球で正攻法ど真ん中の社会派芝居で、
実際にあった14歳の少年による親族殺人を取り上げ、
単なる罪と家族の問題ではなく、
溶解する共同体と、
その中で幻影としての故郷を求める人間の心情に、
踏み込んでいる点はさすがです。

正直やや台本には平坦で短調な部分があるので、
古川健さんの作品としては、
決して傑出した出来とは言えませんが、
いつもながらのセンスのある演出と、
役者の熱演がそれを補い、
トータルには水準以上の上演になっていたと思います。

以下ネタばれがあります。

この作品は1988年の7月に起こった、
「目黒・中2少年の家族3人殺人事件」を元にしています。

これは勉強をしろと口うるさく言われていた、
中学生の14歳の少年が、
両親と祖母の3人を殺害した、というもので、
事件の経過はほぼ事実そのままをなぞり、
その上でたった1人事件のあった「家」に残された犯人の祖父と、
犯人の少年、そして少年の診察に当たる医師との交流を、
犯人の少年が少年院を退院する、
保護観察の審査のタイミングを起点にして、
構成されています。

登場人物はこの3人に、
殺された3人を併せた6人に絞り込まれ。、
殺された3人は祖父や犯人の回想の中で、
半ば幽霊のように姿を現します。

事件から3年が過ぎ、
もう犯人の少年も退院が決まっているのですが、
犯人にとってもその祖父にとっても、
事件が一体何故起こり、
自分にとってどのような意味を持っているのか、
という点については理解されないままです。

担当医師という狂言廻しの手で、
犯人と祖父の双方がこの事件に向き合い、
そしてラストには祖父と犯人の少年が、
殺された家族3人の墓前で向き合い終わります。

尋問された犯人が、
最後の最後に真実の一言を口にする、
という趣向は、
昨年上演されたチョコレートケーキの、
「親愛なる我が総統」に似ています。

ただ、ほぼ尋問のみのシンプルな構造であった、
「親愛なる我が総統」と比較すると、
この作品では事件前後の再現場面に多くが割かれ、
ラストにも墓前の場面が用意されているので、
もっと内容は複眼的です。

それが作品に膨らみを持たせている利点のある一方、
作品がやや散漫になり、
中段は中だるみの感もありました。
また、殺された3人の扱いが、
ほぼ全編回想の中の幽霊めいたものなので、
役者さんも演じ難そうでしたし、
物足りないものを感じました。

舞台美術はいつもながらセンスのあるもので、
舞台を鋭角に2つに切り取り、
高さにも微妙に差を付けて、
スィートホームである事件のあった「家」と、
面談の行われる部屋とを1つに構成し、
役者がその間を行き来します。
ラストの墓前の場面は、
舞台の前方を使用して演じられます。

ただ、ラストはもう少し舞台が動いた方が、
より良いように思いました。

テーマは切実で、
身近では家族や小さな共同体が崩壊し、
世界では国境が揺らぎ崩壊し、
その崩壊の隙間に、
暴力が侵食するという、
今の根本の問題に切り込んでいる点はさすがです。

ISのテロや虐殺も、
国内の親族殺人や、
殺しの体験のみを目的とした殺人も、
同じ崩壊現象の一部を見ているだけで、
ルーツは同じであるように個人的には思いますし、
その崩壊寸前にある世界の中で、
人間の今後の存続が、
試されているような思いもあります。

今回の作品では、
犯人の少年の「家に帰りたい」という思いの中に、
その再生の方向性を模索している訳で、
大仰に言えば演劇の今後の方向性は、
その一点にしかなく、
特定の政治的立場をなぞるような芝居は、
もうその役目を終えているように思います。

キャストは皆好演で、
ベテランの高橋長英の気概と、
犯人少年役の辻井彰太さんの熱意が、
特に光っていました。

鳥山昌克さんは大好きなのですが、
今回の少年の父親役は、
彼の藝質にはそぐわないように思いました。
総じて殺される3人は皆しっくり来ない様子で、
それは作品自体に問題があったように思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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midori

観たかったのですが都合が合わず残念に思っていたところでした,
ご紹介ありがとうございます.
4月の「追憶のアリラン」が楽しみです.
by midori (2015-02-11 11:13) 

fujiki

midoriさんへ
本公演の方が矢張り良かったと思います。
4月は楽しみですね。
by fujiki (2015-02-11 13:07) 

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