抗生物質セフトリアキソン(ロセフィン)による偽胆石症について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2011年のJournal of the Korean Surgical Society誌に掲載された、
抗生物質の短期間の使用による、
胆石症の副作用の症例報告です。
この話題を代表するものとして、
この文献が適切とは必ずしも言えないのですが、
少なくとも成人事例については、
まとまったものはなく、
おそらくはこの薬剤自体の使用地域によるのだと思いますが、
欧米の文献は殆どないので、
それで英文ということになると、
こうしたチョイスとなりました。
日本語の文献もあり、
後は韓国とインドなどの文献もあります。
セフトリアキソン(ceftriaxone : CTRX)という抗生物質があり、
商品名ではロセフィンが代表的です。
この薬はセフェム系に分類される抗生物質ですが、
非常に半減期が長く、
1日1回の使用で充分な効果のあることが特徴です。
要するに外来でも治療が可能であることが利点で、
腎盂腎炎や胆嚢炎、
一部の肺炎などを、
外来で治療する時に効果を発揮します。
その副作用は概ね軽度のものですが、
特異的な副作用として時に問題になるのが、
胆石症や尿路結石の発症です。
まず、実際に経験した事例をご紹介します。
患者さんは20代の男性で、
急な高熱と咳を主訴に診療所を受診されました。
息切れも伴っていることより胸のレントゲンを撮影すると、
左の肺に細菌性の疑われる肺炎の所見を認めました。
やや重症感のあったため、
近隣の総合病院の呼吸器内科をご紹介しました。
病院側では入院治療が望ましいがベッドがないため、
通院で連日セフトリアキソン2グラムの点滴静注を、
診療所で施行して様子を見て欲しい、
という逆紹介になりました。
同日は病院で点滴をして、
翌日からは診療所で点滴を行ないました。
5日間の点滴治療を行ない、
症状と検査値が改善したため、
経口に切り替えてもう5日間の投与を行ないました。
最後の診察の時に腹痛の訴えがあったので、
超音波検査を行なったところ、
次のような所見が見付かりました。
こちらです。
胆嚢内に細かい砂のような胆石が、
溜まっているのが分かります。
取り込み可能な良い写真がなかったので、
これは実際のこの事例のものではなく、
韓国文献からの引用画像ですが、
ほぼ同様の所見が認められました。
患者さんには胆石の既往はなく、
指摘された事もありません。
その前年に超音波検査を含む健診を、
受けられていたのでその点は確かです。
ただ、痛みはどうやら胆石とは無関係で、
胃炎の可能性が高そうでした。
血液検査上も胆道系酵素の上昇などはなく、
胆嚢炎もその時点では否定的です。
それで検索を掛けると、
セフトリアキソンによる偽胆石症や尿路結石の発症の報告が、
特に小児に多く見付かりました。
患者さんの同意も得て、
セフトリアキソンの使用ももう終了していたため、
そのまま経過を見る方針としました。
そして、1ヶ月後にもう一度腹部超音波検査を行ないました。
こちらをご覧下さい。
これも同じ韓国の事例のものですが、
短期間で胆石の所見は消失していることが分かります。
このように、
セフトリアキソンの使用により、
超音波やCTにおける胆嚢結石様の所見、
また尿路結石様の所見が認められることがあり、
使用中止後2週間程度という短期間で、
その消失が認められていることより、
薬剤により誘発された可能性が高いと考えられます。
本物の石灰化を伴う結石であれば、
2週間で消失することは考え難いので、
胆石のように検査上は見えても、
実際の組成は本当の胆石とは違う可能性が高い、
という推測から、
「偽胆石」という名称が使用されています。
超音波所見としては、
胆泥と言われるような砂状の結石が多く、
不整形の小結石が、
集まったように見える所見もあるようです。
胆石の事例は1986年に小児科において初めて報告され、
その後も主にお子さんにおいて、
胆石と尿路結石様の所見が認められています。
尿路結石に関しては、
小児以外の報告は殆どありませんが、
偽性胆石については成人の事例の報告もあり、
2013年の日本の文献によると、
2000年から2012年に掛けて、
10例の成人事例の報告があるようです。
ただこの副作用は薬剤使用により、
2割程度発症する、という海外報告もあり、
実際には無症状のため診断されない事例は、
もっと多い可能性があります。
それでは何故、
セフトリアキソンにより偽胆石症が起こるのでしょうか?
これははっきりしたメカニズムは解明されていません。
ただ、この薬は胆汁中に血液中の20から150倍という、
極めて高濃度に濃縮される性質があり、
またカルシウムイオンと結びつき易い、
という特徴もあります。
この薬の半減期の長さとも相俟って、
それだけ高濃度の薬剤が、
胆汁中でカルシウムと結び付くとすれば、
結石の要因となることは、
推論としては充分な蓋然性があります。
偽胆石症による閉塞性黄疸や急性膵炎、急性胆嚢炎などの報告も、
少数ですが存在していますから、
偽物の胆石だからと言って、
害のないものではありません。
ただ、一般論で言えば、
症状を来すような事例は、
小児のデータでも多いもので2割を超えることはなく、
大多数は自然に改善することは間違いがありません。
セフトリアキソンの使用期間は、
1週間以上のことが多いのですが、
5日程度の短期間でも発症した事例はあり、
さすがに1から2回の使用では問題がないようですが、
短期間だから考え難い、
とも言えないようです。
従って、
セフトリアキソンは有用性の高い抗生物質ですが、
その特異的な副作用として、
偽胆石症と尿路結石があり、
お子さんの事例が多いのですが、
成人でも偽胆石症については、
注意が必要なので、
使用後に腹痛などの症状が発症した場合には、
腹部超音波検査で胆石の有無を確認し、
偽胆石が疑われれば、
速やかに当該薬剤を中止して、
適切な処置を取る必要があります。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2011年のJournal of the Korean Surgical Society誌に掲載された、
抗生物質の短期間の使用による、
胆石症の副作用の症例報告です。
この話題を代表するものとして、
この文献が適切とは必ずしも言えないのですが、
少なくとも成人事例については、
まとまったものはなく、
おそらくはこの薬剤自体の使用地域によるのだと思いますが、
欧米の文献は殆どないので、
それで英文ということになると、
こうしたチョイスとなりました。
日本語の文献もあり、
後は韓国とインドなどの文献もあります。
セフトリアキソン(ceftriaxone : CTRX)という抗生物質があり、
商品名ではロセフィンが代表的です。
この薬はセフェム系に分類される抗生物質ですが、
非常に半減期が長く、
1日1回の使用で充分な効果のあることが特徴です。
要するに外来でも治療が可能であることが利点で、
腎盂腎炎や胆嚢炎、
一部の肺炎などを、
外来で治療する時に効果を発揮します。
その副作用は概ね軽度のものですが、
特異的な副作用として時に問題になるのが、
胆石症や尿路結石の発症です。
まず、実際に経験した事例をご紹介します。
患者さんは20代の男性で、
急な高熱と咳を主訴に診療所を受診されました。
息切れも伴っていることより胸のレントゲンを撮影すると、
左の肺に細菌性の疑われる肺炎の所見を認めました。
やや重症感のあったため、
近隣の総合病院の呼吸器内科をご紹介しました。
病院側では入院治療が望ましいがベッドがないため、
通院で連日セフトリアキソン2グラムの点滴静注を、
診療所で施行して様子を見て欲しい、
という逆紹介になりました。
同日は病院で点滴をして、
翌日からは診療所で点滴を行ないました。
5日間の点滴治療を行ない、
症状と検査値が改善したため、
経口に切り替えてもう5日間の投与を行ないました。
最後の診察の時に腹痛の訴えがあったので、
超音波検査を行なったところ、
次のような所見が見付かりました。
こちらです。
胆嚢内に細かい砂のような胆石が、
溜まっているのが分かります。
取り込み可能な良い写真がなかったので、
これは実際のこの事例のものではなく、
韓国文献からの引用画像ですが、
ほぼ同様の所見が認められました。
患者さんには胆石の既往はなく、
指摘された事もありません。
その前年に超音波検査を含む健診を、
受けられていたのでその点は確かです。
ただ、痛みはどうやら胆石とは無関係で、
胃炎の可能性が高そうでした。
血液検査上も胆道系酵素の上昇などはなく、
胆嚢炎もその時点では否定的です。
それで検索を掛けると、
セフトリアキソンによる偽胆石症や尿路結石の発症の報告が、
特に小児に多く見付かりました。
患者さんの同意も得て、
セフトリアキソンの使用ももう終了していたため、
そのまま経過を見る方針としました。
そして、1ヶ月後にもう一度腹部超音波検査を行ないました。
こちらをご覧下さい。
これも同じ韓国の事例のものですが、
短期間で胆石の所見は消失していることが分かります。
このように、
セフトリアキソンの使用により、
超音波やCTにおける胆嚢結石様の所見、
また尿路結石様の所見が認められることがあり、
使用中止後2週間程度という短期間で、
その消失が認められていることより、
薬剤により誘発された可能性が高いと考えられます。
本物の石灰化を伴う結石であれば、
2週間で消失することは考え難いので、
胆石のように検査上は見えても、
実際の組成は本当の胆石とは違う可能性が高い、
という推測から、
「偽胆石」という名称が使用されています。
超音波所見としては、
胆泥と言われるような砂状の結石が多く、
不整形の小結石が、
集まったように見える所見もあるようです。
胆石の事例は1986年に小児科において初めて報告され、
その後も主にお子さんにおいて、
胆石と尿路結石様の所見が認められています。
尿路結石に関しては、
小児以外の報告は殆どありませんが、
偽性胆石については成人の事例の報告もあり、
2013年の日本の文献によると、
2000年から2012年に掛けて、
10例の成人事例の報告があるようです。
ただこの副作用は薬剤使用により、
2割程度発症する、という海外報告もあり、
実際には無症状のため診断されない事例は、
もっと多い可能性があります。
それでは何故、
セフトリアキソンにより偽胆石症が起こるのでしょうか?
これははっきりしたメカニズムは解明されていません。
ただ、この薬は胆汁中に血液中の20から150倍という、
極めて高濃度に濃縮される性質があり、
またカルシウムイオンと結びつき易い、
という特徴もあります。
この薬の半減期の長さとも相俟って、
それだけ高濃度の薬剤が、
胆汁中でカルシウムと結び付くとすれば、
結石の要因となることは、
推論としては充分な蓋然性があります。
偽胆石症による閉塞性黄疸や急性膵炎、急性胆嚢炎などの報告も、
少数ですが存在していますから、
偽物の胆石だからと言って、
害のないものではありません。
ただ、一般論で言えば、
症状を来すような事例は、
小児のデータでも多いもので2割を超えることはなく、
大多数は自然に改善することは間違いがありません。
セフトリアキソンの使用期間は、
1週間以上のことが多いのですが、
5日程度の短期間でも発症した事例はあり、
さすがに1から2回の使用では問題がないようですが、
短期間だから考え難い、
とも言えないようです。
従って、
セフトリアキソンは有用性の高い抗生物質ですが、
その特異的な副作用として、
偽胆石症と尿路結石があり、
お子さんの事例が多いのですが、
成人でも偽胆石症については、
注意が必要なので、
使用後に腹痛などの症状が発症した場合には、
腹部超音波検査で胆石の有無を確認し、
偽胆石が疑われれば、
速やかに当該薬剤を中止して、
適切な処置を取る必要があります。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
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2015-02-09 08:19
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コメント(2)
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いつも拝読しております。セフトリアキソン、当院では一回1g1日2回の処方が殆どです。高齢者に対して上記の投与と1日2g1回投与では、リスクに違いはありますでしょうか? 元々セフトリアキソンはカルシウム含有輸液への混注は避けるべきなのは医師方にはお知らせはしていますが、たまに処方が出ます。
by 北御門 (2015-02-11 00:03)
北御門さんへ
そうした比較のデータは存在しないと思うので、
何とも言えないのですが、
おそらくトータルの使用量で影響されると、
お考え頂いて良いように思います。
by fujiki (2015-02-11 09:39)