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妊娠中の高血圧治療についての新知見 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からレセプト作業などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
妊娠中の高血圧治療.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
妊娠中の高血圧の管理についての論文です。

正常妊娠では妊娠中には血圧は低下しますが、
その一方で妊娠の合併症として、
妊娠中に血圧が上昇する、
妊娠高血圧症候群が発症することがあります。
これは胎盤形成時の血管の形成不全により、
昇圧物質が母体血に入ることが原因と考えられています。

一方で出産年齢の高齢化の影響もあり、
高血圧の患者さんが、
妊娠をするケースも増加しています。

妊娠時には子癇(eclampsia)と言って、
高血圧に伴い痙攣発作が生じるケースも見られます。

妊娠中の持続する高血圧は、
早産や胎児の低体重、新生児の身体の異常、
胎児の成長障害などのリスクを高め、
母体においては、
妊娠高血圧腎症や子癇、腎障害や肺水腫、
脳卒中などのリスクを高めます。

そのため、妊娠中の高血圧は、
治療が必要と考えられています。

一方で妊娠中に血圧が低下することは、
胎盤への血流を低下させ、
胎児に悪影響を与える可能性があります。

従って、
妊娠中の高血圧の治療の開始の基準と、
血圧の目標値は、
通常の高血圧の治療とは、
区別して考えないといけないのです。

これまでの多くの臨床データから、
妊娠中の高血圧の薬物治療開始の基準は、
子癇のリスクが高いと想定されたり、
腎症を合併したりした場合以外には、
収縮期血圧が160mmHg以上、
もしくは拡張期血圧が110mmHg以上と、
日本の高血圧ガイドラインでは定められていて、
これは脳卒中のリスクの上昇を、
主な根拠としています。
そして、海外のガイドラインも、
若干の違いはありますが、
概ねこの基準と同じです。

それでは、
薬物治療を行なう場合に、
どのような薬を使用し、
目標の血圧をどのレベルに設定するのが望ましいのでしょうか?

使用する薬については、
これまでのデータの蓄積から、
日本ではメチルドパとヒドララジン、
カルシウム拮抗薬のニフェジピン、
そして海外ではラベタロールという薬が、
第一選択薬の扱いになっています。

それ以外の薬は、
原則は禁忌かそれに近い扱いです。

降圧目標には定まったものがなく、
日本の「高血圧治療ガイドライン2014」では、
収縮期血圧を160未満、
拡張期血圧を110未満にするようコントロールする、
と書かれています。

一般論で言うと、
軽度の高血圧でも妊娠中の合併症のリスクは、
若干は増加するのですから、
より厳格で正常に近付けるコントロールを行なった方が、
妊娠された方や胎児の予後は良いのではないか、
と思えます。

しかし、実際にそうしたコントロールを行なった、
これまでの臨床試験においては、
血圧低下以外のメリットは、
母体にも胎児にも確認されず、
むしろ胎児の発育不全などが、
血圧低下の結果として生じるリスクが指摘されています。

今回の研究はこの点を再検証したもので、
妊娠14週から33週までの女性で、
重症ではない妊娠時の高血圧のある方に、
通常のコントロールと、
より正常血圧に近い状態を目標として、
厳格なコントロールを行なって、
その効果を比較しています。

対象となっているのは、
妊娠前から高血圧の治療中で、
拡張期血圧が85から105mmHgであるか、
妊娠時高血圧で、
拡張期血圧が90から105mmHgの妊婦で、
蛋白尿のあるようなリスクの高い方は除外されています。

対象者はトータルで987名で、
カナダを中心に世界16か国から登録されています。
それをくじ引きで2つの群に分け、
一方は目標の拡張期血圧を100mmHgに設定した、
従来の基準に近いマイルドなコントロールを行ない、
もう一方は目標の拡張期血圧を85mmHgに設定した、
より厳格なコントロールを行なって、
妊娠中から出産後に至る、
母体と胎児の予後を比較検証しています。

降圧剤はラベタロールが第一選択とされています。

その結果…

妊娠の中断や集中治療を必要とするような新生児の重篤な合併症、
そして母体の重篤な合併症のいずれにおいても、
両群で有意な差はありませんでした。

差があったのは、
両群の平均の血圧値と、
上が160、下が110を超える重症高血圧の発症率で、
いずれもマイルドなコントロール群の方が高かったのですが、
血圧をより下げているのですから、
ある意味当然の結果です。

低体重児はマイルドなコントロールでやや少ない傾向にあり、
これは血圧を低下させることにより、
胎児にリスクのある可能性を示唆していますが、
明確にそうと言えるほどの違いではありません。

従って、
妊娠中の高血圧に対しては、
腎臓などの臓器合併症がなければ、
上が160、下が100を超えない程度にコントロールすれば充分で、
それより下げることの積極的な意義は乏しい、
ということは、
これまでのデータの蓄積から、
言えるように思います。

ただ、
特殊な母体や胎児の重篤な合併症などに関しては、
その発症頻度も低いので、
その予防のためにどの程度の血圧コントロールが良いと、
一概に言うことは出来ず、
個々の妊娠された方の状態により、
個別に判断しなければいけない事項も、
多いのが現状のようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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