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ACE阻害剤誘発血管性浮腫とその治療について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
血管浮腫の治療.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
血圧の薬の副作用としての一種のアレルギー症状の、
救急治療についての論文です。

高血圧や心不全の治療に使用される、
ACE阻害剤というタイプの薬は、
その臓器保護作用などの利点から、
最も広く使用されている降圧剤の1つです。

心筋梗塞の発症や再発予防、
腎臓病の進行抑制と、
その有用性は多くの臨床データにより確認されています。

その副作用は概ね軽度で対応可能なものですが、
問題になるのは空咳と血管性浮腫です。

これはいずれもこの薬が、
ACEという酵素を阻害するために、
副次的にブラジキニンやサブスタンスPなどの物質が、
増加することにより生じると考えられています。

空咳は頻度は多いのですが、
重篤なものではありません。
ただ、頻繁な咳は患者さんにとっては、
生活に対する大きな障害になることもあります。

血管性浮腫は、
典型的なものは顔面や頸部などの腫れで、
血管の透過性が亢進することにより起こります。

軽度のものは顔が腫れるだけですが、
浮腫みが舌や声門、咽喉の奥などに強く起こると、
呼吸困難が生じることがあり、
それによる死亡の事例も報告されています。
また消化管に浮腫が起こると、
急激な腹痛や下痢などの症状を、
繰り返す原因となることもあります。

これは一種の薬剤に対するアレルギー反応であり、
それがブラジキニンなどの増加により、
浮腫の促進に結び付くと考えられています。

その発症頻度は日本ではあまり明確な統計がありませんが、
海外の統計では0.1から0.7%程度とされています。
それほど頻度の多いものではありませんが、
上記文献の記載では、
救急における血管性浮腫の3分の1は、
ACE阻害剤の原因によるものだとなっていますから、
その意味では無視出来ない合併症です。

ACE阻害剤による血管性浮腫は、
原因薬剤の中止により比較的速やかに消失しますが、
重症化したケースでは、
有効な治療は確立されていません。

呼吸状態の悪化時には人工呼吸器管理などが行われますが、
これは敢くまで対処療法で、
原因に対しての治療ではありません。

それ以外には、
経験的に大量のステロイドと抗ヒスタミン剤の併用が行われていますが、
その効果はあまり科学的にその有効性が確認されたものではありません。

遺伝性の血管性浮腫については、
ブラジキニンの阻害作用を期待して、
数種類の薬剤が海外では認可されていますが、
日本では血液製剤である、
ヒトC1インアクチベーターが1種類認可されているだけです。

海外でのみ認可されている薬に、
ブラジキニンの選択的受容体拮抗薬である、
イカチバント(icatibant)があり、
理屈から言えばブラジキニンのブロックにより、
ACE阻害剤による血管性浮腫にも、
有効であることが想定されます。

そこで今回の文献では、
イカチバントの第2相臨床試験として、
上気道にACE阻害剤に起因する、
血管性浮腫を来たし、
救急医療機関を受診した患者さんを登録して、
くじ引きで2つの群に分け、
一方ではステロイドと抗ヒスタミン剤の使用を行ない、
もう一方ではイカチバントを注射して、
その後の症状への効果を比較検証しています。

偽薬を使用して、
どちらの治療が行われたのかは、
患者さんにも主治医にも分からないようにして、
試験は施行されています。

ドイツの4か所の専門施設において、
30名の患者さんが登録され、
実際には通常治療群が14名、
イカチバント群が13名が、
統計処理の対象となっています。

3割以上の患者さんは以前にも同様の症状の既往があり、
症状発現後平均で5から6時間で、
投薬治療が行われています。

標準治療はプレドニゾロン500ミリグラムと、
抗ヒスタミン剤のクレマスチン(タベジール)が、
2ミリグラムで使用され、
イカチバントは30ミリグラムが皮下注射されています。

その結果…

標準治療群では、
症状の完全消失までに、
平均で27.1時間(20.3から48.0)掛かったのに対して、
イカチバント群では平均で8.0時間(3.0から16.0)で、
症状が消失していました。
つまり、明確にイカチバントが勝っていた、
という結果です。
標準治療は実際には効いていないように思えます。

有害事象については、
局所の発赤などが多く、
1例のみ呼吸困難の出現が認められました。

日本では使用出来る薬が殆どない現状ですが、
ACE阻害剤のみならず、
ARBでもその発症は報告されており、
重症の事例への選択肢として、
早急に日本でも使用可能となることが望ましいように、
個人的には思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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