バレニクリン(チャンピックス)増量の効果について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝からレセプトのチェックをして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Intern Med 誌に昨年12月にウェブ掲載された、
禁煙補助剤として、
世界的に最も広く使用されている、
バレニクリン(商品名チャンピックス)を、
通常より増量した時の効果を検討した論文です。
これも小ネタ的なものですが、
臨床には一定の有用性のある情報だと思います。
診療所でも禁煙外来を平成20年の10月から開始し、
もう7年を越えました。
メインの処方はチャンピックスで、
少数の事例では、
前回チャンピックスが副作用のために使用出来なかったり、
精神疾患をお持ちで、
主治医の先生からOKが出なかったようなケースでは、
ニコチンの貼付剤を使用しています。
治療期間は原則3ヶ月(12週)で、
12週まで到達した事例の、
その時点での禁煙の成功率は、
ほぼ100%です。
ただ、これはトリッキーな数字で、
失敗の事例の殆どは途中での脱落か、
そもそも1回も完全にタバコを吸わない日を、
作れなかった事例です。
チャンピックスの治療プロトコールは、
まず少量から副作用を見ながら1週間を掛けて薬を増やし、
その間に同時に喫煙本数を減らして、
開始8日目に完全な禁煙をスタートする、
というものです。
開始量は1日0.5ミリグラムで、
維持量は1日2ミリグラムです。
この用量設定は基本的に欧米でのものと同一です。
最初の禁煙のハードルは、
矢張りこの開始8日目にあって、
この期限を過ぎても、
タバコを完全にはゼロには出来ない、
という方が少なからずいます。
診療所での経験では、
最初に自力でどの程度まで本数を減らせるかが、
成功失敗の1つの予測因子で、
概ね20本未満に減らせていれば、
成功する確率は高いのですが、
頑張っても自力では30本以上吸ってしまう、
というような場合には、
かなりハードルは高くなる、
という印象です。
また、2回目の診察は、
通常開始14日目かそれより少し前になるのですが、
減量は出来たが、どうしても数本は吸ってしまう、
というケースが散見されます。
この場合、僕のアドバイスは、
もう1週間はまだゼロに出来なくても良いけれど、
次回の診察の2週間後に、
まだゼロに出来ないようでしたら、
その後成功する可能性は低いので、
一旦中止した方が良い、
というものです。
そこで踏ん張れれば、大体成功します。
さて、この2週目くらいで、
数本は吸ってしまう、というような患者さんに話を聞くと、
チャンピックスの効果は出ていて、
何もない状態と比較すればかなり楽だけれど、
ゼロにはなかなかすることが出来ない、
というような言い方をよくされます。
サポートする医療者としては、
ここでチャンピックスをもう少し増量したら、
こうした患者さんの後押しを出来るのではないか、
というようには当然思います。
現在認められている量は、
1日2ミリグラムまでなので、
実際の診療ではそうしたことは出来ませんが、
発売前の臨床研究においては、
1日10ミリグラムという通常の5倍の高用量までが試みられています。
その用量においても、
一番多い副作用である吐き気や嘔吐は、
当然その頻度が増しているのですが、
それ以外の特有の毒性のようなものは、
認められていません。
今回の研究においては、イギリスにおいて、
禁煙治療を希望した、
18歳以上で妊娠や精神疾患などのない200名を、
通常の使用量通りで、チャンピックスのよる禁煙治療を行なった100名と、
開始12日目から段階的にチャンピックスの用量を、
1日5ミリグラムまで増加させた100名を、
対象者にも医療者にも、
分からないようにくじ引きで振り分け、
その禁煙の成功率を比較しています。
増量しないグループでは、
偽の薬を上乗せで飲んでもらうのです。
その結果…
治療開始後12週の最終の禁煙成功率は、
通常用量群で23.0%であったのに対して、
増量群では26.0%と、
明確な差は認められませんでした。
一方で吐き気の副作用は、
通常用量では18%で認められたのに対して、
増量では80%に認められ、
この点のみ明らかな差が付いている、
という結果になっています。
診療所の統計では、
初回治療で禁煙意欲のあった患者さんについて見ると、
12週時点での成功率は7割は超えていますから、
ちょっとここまでの成功率の低さは、
納得の行かないものがあります。
ただ、ヨーロッパの他の同種の試験でも、
12週の成功率は3割程度のものが多く、
試験のデザインの問題もあるのかとは思いますが、
少しその低さは不思議に思うところです。
いずれにしても、
現行の1日2ミリグラムのチャンピックスの用量には、
それなりの裏打ちがあり、
単純に倍にすればそれだけ有効率が上昇するかと言えば、
そうしたことはないと考えた方が良さそうです。
ただ、事例を選んで、
喫煙本数の多い事例(たとえば40本以上)のケースに、
一時的に副作用に注意しつつ、
たとえば3ミリグラム程度まで増量することは、
一定の意義はあるという可能性は、
残っているように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
朝からレセプトのチェックをして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Intern Med 誌に昨年12月にウェブ掲載された、
禁煙補助剤として、
世界的に最も広く使用されている、
バレニクリン(商品名チャンピックス)を、
通常より増量した時の効果を検討した論文です。
これも小ネタ的なものですが、
臨床には一定の有用性のある情報だと思います。
診療所でも禁煙外来を平成20年の10月から開始し、
もう7年を越えました。
メインの処方はチャンピックスで、
少数の事例では、
前回チャンピックスが副作用のために使用出来なかったり、
精神疾患をお持ちで、
主治医の先生からOKが出なかったようなケースでは、
ニコチンの貼付剤を使用しています。
治療期間は原則3ヶ月(12週)で、
12週まで到達した事例の、
その時点での禁煙の成功率は、
ほぼ100%です。
ただ、これはトリッキーな数字で、
失敗の事例の殆どは途中での脱落か、
そもそも1回も完全にタバコを吸わない日を、
作れなかった事例です。
チャンピックスの治療プロトコールは、
まず少量から副作用を見ながら1週間を掛けて薬を増やし、
その間に同時に喫煙本数を減らして、
開始8日目に完全な禁煙をスタートする、
というものです。
開始量は1日0.5ミリグラムで、
維持量は1日2ミリグラムです。
この用量設定は基本的に欧米でのものと同一です。
最初の禁煙のハードルは、
矢張りこの開始8日目にあって、
この期限を過ぎても、
タバコを完全にはゼロには出来ない、
という方が少なからずいます。
診療所での経験では、
最初に自力でどの程度まで本数を減らせるかが、
成功失敗の1つの予測因子で、
概ね20本未満に減らせていれば、
成功する確率は高いのですが、
頑張っても自力では30本以上吸ってしまう、
というような場合には、
かなりハードルは高くなる、
という印象です。
また、2回目の診察は、
通常開始14日目かそれより少し前になるのですが、
減量は出来たが、どうしても数本は吸ってしまう、
というケースが散見されます。
この場合、僕のアドバイスは、
もう1週間はまだゼロに出来なくても良いけれど、
次回の診察の2週間後に、
まだゼロに出来ないようでしたら、
その後成功する可能性は低いので、
一旦中止した方が良い、
というものです。
そこで踏ん張れれば、大体成功します。
さて、この2週目くらいで、
数本は吸ってしまう、というような患者さんに話を聞くと、
チャンピックスの効果は出ていて、
何もない状態と比較すればかなり楽だけれど、
ゼロにはなかなかすることが出来ない、
というような言い方をよくされます。
サポートする医療者としては、
ここでチャンピックスをもう少し増量したら、
こうした患者さんの後押しを出来るのではないか、
というようには当然思います。
現在認められている量は、
1日2ミリグラムまでなので、
実際の診療ではそうしたことは出来ませんが、
発売前の臨床研究においては、
1日10ミリグラムという通常の5倍の高用量までが試みられています。
その用量においても、
一番多い副作用である吐き気や嘔吐は、
当然その頻度が増しているのですが、
それ以外の特有の毒性のようなものは、
認められていません。
今回の研究においては、イギリスにおいて、
禁煙治療を希望した、
18歳以上で妊娠や精神疾患などのない200名を、
通常の使用量通りで、チャンピックスのよる禁煙治療を行なった100名と、
開始12日目から段階的にチャンピックスの用量を、
1日5ミリグラムまで増加させた100名を、
対象者にも医療者にも、
分からないようにくじ引きで振り分け、
その禁煙の成功率を比較しています。
増量しないグループでは、
偽の薬を上乗せで飲んでもらうのです。
その結果…
治療開始後12週の最終の禁煙成功率は、
通常用量群で23.0%であったのに対して、
増量群では26.0%と、
明確な差は認められませんでした。
一方で吐き気の副作用は、
通常用量では18%で認められたのに対して、
増量では80%に認められ、
この点のみ明らかな差が付いている、
という結果になっています。
診療所の統計では、
初回治療で禁煙意欲のあった患者さんについて見ると、
12週時点での成功率は7割は超えていますから、
ちょっとここまでの成功率の低さは、
納得の行かないものがあります。
ただ、ヨーロッパの他の同種の試験でも、
12週の成功率は3割程度のものが多く、
試験のデザインの問題もあるのかとは思いますが、
少しその低さは不思議に思うところです。
いずれにしても、
現行の1日2ミリグラムのチャンピックスの用量には、
それなりの裏打ちがあり、
単純に倍にすればそれだけ有効率が上昇するかと言えば、
そうしたことはないと考えた方が良さそうです。
ただ、事例を選んで、
喫煙本数の多い事例(たとえば40本以上)のケースに、
一時的に副作用に注意しつつ、
たとえば3ミリグラム程度まで増量することは、
一定の意義はあるという可能性は、
残っているように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
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2015-01-09 08:23
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私は75歳で断煙しました。決断して良かったと思っています。
by Silvermac (2015-01-10 05:51)