SSブログ

アメリカにおけるベンゾジアゼピンの使用について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ベンゾジアゼピンの影響.jpg
今月のJAMA Psychiatry誌に掲載された、
アメリカにおけるベンゾジアゼピンの使用についての文献です。

ベンゾジアゼピンは、
商品名では抗不安薬のセルシン、
デパス、ソラナックス、ワイパックス、レキソタン、
睡眠導入剤の、
ハルシオン、レンドルミン、サイレース、
ユーロジンなどがこれに当たり、
その即効性と確実な効果から、
非常に幅広く使用されている薬剤です。

その効果はGABAという、
鎮静系の神経伝達物質の受容体に似た、
ベンゾジアゼピンの受容体に、
薬剤が結合することによってもたらされ、
不安障害の症状を軽減する作用と、
眠りに入るまでの時間を短縮する作用については、
精度の高い臨床試験により、
その効果が確認されています。

その発売以前に、
同様の目的に使用されていた薬剤と比較すると、
ベンゾジアゼピンは副作用も少なく、
使い易い薬であったため、
またたく間に世界中に広がりました。

特にストレスの強い先進国において、
ベンゾジアゼピンの使用頻度は高まりました。

ところが…

ベンゾジアゼピンの問題点が、
近年クローズアップされるようになりました。

このタイプの薬には常用性と依存性があり、
特に長く使用していると止めることが困難で、
次第にその使用量は増えがちになりますし、
急に薬を中断すると、
強い離脱症状が起こることがあります。

一方でこの薬の持つ鎮静作用は、
高齢者においては、
認知機能や運動機能の低下をもたらし、
認知症のリスクを高めたり、
生命予後を悪化させたり、
特に転倒や骨折のリスクを増加させる、
という複数の疫学データが存在しています。

問題はこうした事実がありながら、
高齢者において長期間のベンゾジアゼピンの使用が、
行なわれ続けている、ということです。

ガイドラインにおいては、
睡眠障害についてはまず生活改善を行ない、
それでも睡眠のトラブルが持続する場合には、
ゾルピデム(マイスリー)などの非ベンゾジアゼピン系の薬剤を、
使用することが推奨されています。

しかし、生活改善の効果が、
ベンゾジアゼピンの睡眠効果に匹敵する、
というデータはなく、
非ベンゾジアゼピンの効果はベンゾジアゼピンよりは弱く、
かつその安全性が明確にベンゾジアゼピンに勝るという、
確たる根拠もありません。

不安障害やパニック障害に対しては、
ベンゾジアゼピンではなく抗うつ剤、
特にSSRIなどの新規の抗うつ剤を第一選択とすることが、
認知行動療法などの心理療法と共に推奨されていますが、
少なくとも短期の有効性については、
ベンゾジアゼピンの効果が優越しています。

従って、患者さんにとっては、
ベンゾジアゼピンと同等の効果を持つ治療はなく、
特に長期間使用していたケースでは、
その中止は離脱症状を伴うので、
ベンゾジアゼピンの使用を控えるという現行の方針は、
正しいことである反面、
絵に描いた餅の側面があるのです。

今回の文献はアメリカにおいて、
膨大な処方データを解析することにより、
実際にどれだけのベンゾジアゼピンの処方が行なわれ、
そこにどのような傾向があるのかを解析しています。

その結果…

2008年の統計では、
18歳から80歳の年齢層の、
およそ5.2%がベンゾジアゼピンの処方を受けていました。
この処方の頻度は年齢と共に増加し、
18から35歳では2.6%であるのに対して、
65から80歳では8.7%まで増加しています。

アメリカにおいては、
ベンゾジアゼピンの処方は、
女性が男性の倍になっていました。

このうち120日間を越えるような長期の処方比率は、
18から35歳の年齢層では14.7%であったのに対して、
65から80歳の年齢層では31.4%まで増加していました。

処方する医師の内訳では、
精神科医の処方は18から35歳では15.0%であったのに対して、
年齢と共にその比率は下がり、
65から80歳では5.7%となっていました。

つまり、高齢者のベンゾジアゼピンの処方は、
若年層より多く、長期処方の比率が高く、
その処方は主に精神科以外の医師の手によっている、
ということになります。

日本においても、
精度の高い疫学データは存在しないと思いますが、
同様の傾向のあることは、
経験的にほぼ間違いはありません。

その利便性と実感出来る効果から、
患者さんはその処方を好み、
製薬会社はプライマリケアの医者にもその使用を気軽に勧め、
医療者は無自覚に処方を行なった、
という傾向があったからです。

現在でも、
ベンゾジアゼピンを気軽に処方する医者が、
いないという訳ではありませんが、
大部分の医療者は、
その使用に慎重になっていると思います。

一番の問題は、
既に長期間使用している、
特に高齢の患者さんの、
減量と離脱をどのように実現していくか、
ということで、
これは一部の専門家が抱え込める性質のものではなく、
末端の医療者の1人としては、
最新の知識のインプットに努めると共に、
目の前の患者さんの最善のために、
試行錯誤を続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(26)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 26

コメント 2

斉藤修二

いつも興味深く読ませて頂いております。
ひとつお伺いしたいことがあります。

胃内視鏡の際にドルミカムやセルシンなどのベンゾジアゼピン系
の鎮静剤を使うことがあると思いますが、日頃からベンゾの薬を
服用してる場所、効きにくいといったことはありますか?

もし効きにくいようなことがあっても、薬をやめればまた鎮静剤
が効くようになるのでしょうか?
by 斉藤修二 (2015-01-06 18:16) 

fujiki

斉藤さんへ
これは実際にそうしたことはあり、
一般に長期間ベンゾを使用されている方は、
鎮静の効きは悪いことが多いです。
薬を中止してしばらくすれば、
こうした反応については、
比較的速やかに、
元に戻ることが多いように思います。
(あくまで経験的な知見です)
by fujiki (2015-01-07 08:05) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0