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心房細動の患者さんに対するジゴキシンの使用リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心房細動におけるジゴキシンのリスク.jpg
今年のCirculation誌に掲載された、
心房細動の患者さんにおける、
ジゴキシンの使用についての論文です。

ジゴキシン(ジギタリス)は、
非常に古くから使用されている心不全の治療薬で、
脈拍を下げて心臓の負荷を減らし、
心臓の収縮力を高める作用があるとされています。

20年くらい前までは、
心不全治療の基礎薬として広く使用されましたが、
ACE阻害剤などの血管拡張剤の効果が、
多くの精度の高い臨床試験で確認されるようになると、
その用途は一気に狭まりました。

その有効性のデータも、
あまり精度の高いものではなく、
ジギタリスは血液濃度を測定しながら、
慎重に使用しないと、
ジギタリス中毒と言って、
血液濃度が増加した場合に、
重篤な不整脈や胃腸症状などが出現するため、
使用にリスクの高い薬であることもあって、
その使用頻度は、
近年減少しています。

ただ、心房細動という不整脈で、
脈が早く動悸などの症状が強い患者さんでは、
脈を下げて症状を安定させる目的で、
このジギタリスが使用されることは、
今日でもしばしば行なわれています。

国際的なガイドラインにおいても、
この目的の使用に関しては、
第一選択の扱いではありませんが、
その使用は認められています。

僕も昔から使い慣れているので、
こうした場合に特に高齢者ではジギタリスを、
少量使用することが多いのですが、
現行の第一選択はβ遮断剤という薬なので、
大学病院の先生などから、
お叱りを受けることもあります。

最近になり、
ジゴキシンを心房細動の患者さんに使用することは、
患者さんの予後に悪影響を与えるのではないか、
ということを示唆するデータが幾つか発表されています。

ただ、データの精度はそれほど高いものではなく、
例数もそれほど多いデータではないので、
心房細動の患者さんにジゴキシンが良くないと、
結論付けることは出来ません。

今回のデータはアメリカのもので、
カリフォルニア州の膨大な医療データを解析することにより、
心不全のない心房細動の患者さんにおける、
新規のジゴキシンの使用と、
患者さんの予後との関連性を検証しています。

対象となっているのは、
新規に心房細動の診断を受け、
ジゴキシンの使用を開始した4231名の患者さんで、
対象として1対3で年齢性別などをマッチさせた、
10556名の対照群と比較しています。

その結果…

心房細動の診断後にジゴキシンを使用し、
平均で1.17年の観察期間において、
未使用と比較して患者さんの死亡リスクは1.71倍に増加し、
入院のリスクも1.63倍に有意に増加していました。

つまり、
心不全のない心房細動の患者さんに対して、
脈拍のコントロール目的でジゴキシンを使用すると、
患者さんの予後が悪化するのではないか、
という結果です。

これはただ、
後から医療記録を解析しただけのデータなので、
例数は多いのですが、
データの精度はそれほど高いものではなく、
患者さんの予後を含めた経緯の詳細も分かりません。

ジゴキシンの使用によって生命予後が悪化したとすれば、
最も考えられるのはジギタリス中毒による不整脈の発症ですが、
それが血中濃度を測定しながら慎重に使用すれば、
予防出来る性質のものなのか、
それともそうではないのかについても、
明確ではありません。

従って、
これを持って心房細動の患者さんへの、
ジゴキシンの使用は行なうべきではない、
とは言えないと思いますが、
その使用の可否については、
より慎重に考えるべきではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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ちょんまげ侍金四郎

先生の本、拝読しております。
一つの項目の単元が、読み切りやすい長さ、なおかつ一方的に論じるのではなく「?」で読み手に問いかけ、それに対して客観的に説明されている方式がいいと思います。
またコラムがいいですね、特に先生らしき方の挿絵がぼそっとつぶやいているのがいいです(笑)

by ちょんまげ侍金四郎 (2014-12-24 09:14) 

fujiki

ちょんまげ侍金太郎さんへ
お読み頂きありがとうございます!
挿絵は最初は違和感があったのですが、
今はとぼけた感じが、
悪くないかな、とも思っています。
by fujiki (2014-12-25 06:09) 

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