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臨床試験原理主義を憤る [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など20枚書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先日レビー小体型認知症に対して、
ドネペジル(商品名アリセプトなど)の適応追加が承認されました。

レビー小体型認知症は、
大脳と脳幹の神経細胞の脱落と、
レビー小体と呼ばれる構造物の出現を、
特徴とする変性性の認知症です。

ただ、この所見は、
解剖によってしか明らかにならないので、
通常生前の確定診断は困難です。

しかし、特徴的な症状が揃えば、
それをもってこの病気と診断されます。

アルツハイマー型認知症と同じ、
進行性の認知機能障害に加えて、
パーキンソン症状と言われる運動機能の異常や、
精神症状としての幻視がその特徴で、
認知機能にはかなりの波があり、
急にぼんやりして意識レベルの低下が起こり、
それがまたしばらくすると回復するのも、
その特徴の1つです。

その治療には、
まだ明確な方針がありません。

幻視などの精神症状には、
抗精神病薬と呼ばれる、
一種の鎮静剤が有効ですが、
少量でもパーキンソン症状の悪化することがあり、
使用には注意が必要です。

パーキンソン病に使用するような薬剤は、
逆に幻覚や妄想などの症状を、
悪化させることがあります。

そんな中で、
ドネペジルのようなコリンエステラーゼ阻害剤は、
レビー小体型認知症では、
脳のアセチルコリンの低下が確認されていることから、
その使用による症状の改善が期待され、
日本のおいて適応追加についての臨床試験が行なわれました。

その第2相の臨床試験の結果は、
2012年にブログ記事としてご紹介したことがあります。

トータル140名の患者さんを、
無作為に偽薬群と、
ドネペジルの3mg、5mg、10mgという、
3種類の用量に振り分けて、
認知機能や運動機能など、
複数の指標により、
その効果を12週間に渡り観察したところ、
CIBIC-plusというトータルな認知症の臨床評価の指標では、
偽薬に比べて、
少量の3mgを含む全ての用量で、
改善が認められました。

ただ、認知機能の指標や行動の指標では、
5mgと10mgでのみ有意な改善があり、
介護者の負担の軽減という指標では、
高用量の10mgのみに有意な改善が認められました。

副作用などの有害事象は、
概ねアルツハイマー型認知症に、
ドネペジルを使用した場合と、
同等であったとされています。

一番の危惧は、
ドネペジルの使用により、
幻覚なせん妄などの精神症状や、
パーキンソン症状が悪化するのではないか、
ということですが、
臨床試験の結果では、
そうした事例は少なく、
むしろ幻覚も歩行障害も、
トータルにはドネペジルの使用により、
改善が見られています。

ただ、パーキンソン症状が高度の方は、
除外されているので、
この臨床研究は、
レビー小体型認知症の患者さんを、
トータルに見ているとは必ずしも言えず、
認知機能の低下は中等度から高度で、
パーキンソン症状はそれに比較すると軽い患者さんを、
そのターゲットにしている、
という点には注意が必要なのではないかと思います。

その後第3相の臨床試験を経て、
ドネペジルのレビー小体型認知症に対する効果は、
再度確認がされ、
今月のレビー小体型認知症への、
適応拡大に至ったのです。

ここまでは特に問題はありません。

問題なのはその用法用量です。

レビー小体型認知症に対しては、
1日3ミリグラムから開始し、1から2週間後に5ミリグラムに増量する、
と明記されています。
5ミリグラムで4週間以上経過後、
10ミリグラムに増量すると書かれ、
症状により5ミリグラムに減量出来る、とされています。

これの何処が問題かと言うと、
アルツハイマー型認知症にある、
「症状により適宜減量する」という記載がないことで、
この薬は原則として、
最初の2週間以内を除いては、
5ミリグラムか10ミリグラムの用量しか使用してはならず、
5ミリグラムを継続する場合も、
一旦は10ミリグラムを使用してみて、
問題のあった事例に限られる、
ということになります。

認知症の診療をされている方なら、
感覚的にお分かり頂けるかと思うのですが、
患者さんによっては通常量のドネペジルでは、
興奮やイライラ、不眠などが生じ、
それが減量により落ち着くのは結構あることです。
ドネペジルは腎機能にはあまり影響されずに、
使用の可能な薬ではありますが、
それでも高齢の患者さんの場合、
通常より少量が最適用量であることも、
稀なことではないように思います。

しかし、上記のような添付文書の記載では、
たとえば10ミリグラムに増量しないで5ミリグラムを継続したり、
3ミリグラムを長期間使用することは、
査定の対象となることが充分に考えられます。

幾ら臨床試験の結果が、
10ミリグラムが適正の用量という結果であったとしても、
それは単なる1回の臨床試験の結果に過ぎないのですから、
このような用量の制限と、
減量を認めないというような方針は、
患者さんにとっても望ましいものではないように思います。

同様の問題は最近は数多く、
たとえば疼痛治療薬のプレガバリン(商品名リリカ)は、
神経障害性疼痛での用量の上限は1日600ミリグラムであるのに対して、
線維筋痛症に対する用量の上限は450ミリグラムという差があり、
これも承認時の臨床試験の用量設定がそうだったから、
というだけの理由で、
合理的な臨床上の理由は何らありません。

このような承認時の臨床試験の用量で、
厳格に処方を制限しようという考え方は、
人間の体質の違いを考える時、
あまり合理性のあるものとは言えず、
医療者がその裁量の広さを良いことに、
いい加減で非科学的な処方を繰り返したことが、
こうした制限を誘発した側面はあるので、
それを考えると忸怩たる思いがあるのですが、
基本的には「適宜用量増減」というような幅を持たせた記載は、
是非付け加えて欲しいと思うのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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