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抗原虫薬ニタゾキサニドのインフルエンザに対する効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インフルエンザにニタゾキサニド.jpg
今月のLancet Infec Dis誌に掲載された、
寄生虫の治療薬を、
インフルエンザに使用した場合の効果を検証した、
臨床試験の論文です。

ニタゾキサニド(nitazoxanide)は、
アメリカでは2003年に認可された、
新規抗原虫剤で、
その適応はクリプトスポリジウム症及び、
ランブル鞭虫症による下痢症状です。

この薬はただ、
多くの生物の細胞の電子伝達系を阻害することにより、
その増殖を抑える作用を持つので、
原虫症のみならず、
ウイルス疾患や細菌疾患にも、
幅広い作用のあることが分かっています。

そのため特にラテンアメリカにおいては、
感染性の下痢症状に対して、
その原因に関わらず使用されて効果が確認されていますし、
2006年にはロタウイルス腸炎への効果が、
2008年にはC型肝炎ウイルスへの効果が、
それぞれ論文化され話題になりました。
ただ、ロタウイルス腸炎については、
ワクチンの普及により、
C型肝炎については、
経口のより有用性の高い抗ウイルス剤の開発により、
ニタゾキサニドのこれらの目的への適応は、
極限定的なものに留まっています。
一時期は適応拡大に乗り気であった製薬会社も、
ほぼ手を引いているのが現状だと思います。
日本では一般には認可されていません。

さて、今回の臨床研究は、
このニタゾキサニドを、
今度はインフルエンザウイルス感染症に使用して、
その効果を検証したもので、
適応拡大に向けての、
製薬会社の臨床試験の一環として行なわれたものです。

インフルエンザの治療薬には、
タミフル、リレンザなどの、
ノイラミニダーゼ阻害剤がありますが、
その効果が限定的であることや、
耐性菌が増加していることなどの問題も指摘されています。

ニタゾキサニドがインフルエンザ感染症に効果があるとすれば
(あるとするデータは幾つか存在しているのですが)、
その効果はウイルスの情報伝達経路を抑えることにより、
その複製をブロックすることにあり、
ノイラミニダーゼ阻害剤との相乗効果が、
理屈の上では期待出来ます。

今回の研究では、
アメリカの74のプライマリケアのクリニックにおいて、
2010年の12月から2011年の4月に掛けての1シーズンに、
インフルエンザ様症状を発症して48時間以内の患者さんを、
くじ引きで3つの群に分け、
主治医にも患者さんにも分からないように、
第1のグループは1日300ミリグラムのニタゾキサニドを5日間服用し、
第2のグループでは1日600ミリグラムのニタゾキサニドを5日間、
第3のグループでは偽薬を矢張り5日間服用して、
その後の28日間の症状の経過を観察しています。

患者さんは12から65歳の男女で、
624名がエントリーされ、
ほぼ210名ずつの3つのグループに分けられています。
それが実際にインフルエンザの感染かどうかは、
遺伝子検査かウイルス培養により、
後から確認されています。

その結果…

全てのエントリーされた患者さんの解析では、
偽薬での症状消失までの期間は、
平均108.2時間であったのに対して、
ニタゾキサニド1日300ミリグラム群では平均104.9時間、
1日600ミリグラム群では平均94.9時間となり、
低用量の300ミリグラムでは有意差はありませんでしたが、
通常用量の600ミリグラムでは偽薬より、
有意差を持って症状期間は短縮していました。

実際のインフルエンザの感染は、
各群80例ずつくらい確認されていて、
その感染者のみの解析では、
偽薬で症状改善までの時間が平均116.7時間に対して、
ニタゾキサニド1日300ミリグラム群では109.1時間、
1日600ミリグラム群では平均95.5時間となっていて、
矢張り600ミリグラムの通常用量でのみ、
偽薬より有意に症状期間は短縮していました。

この症状短縮期間は、
タミフルやリレンザの同様の臨床試験と、
ほぼ同等の効果と考えることが出来ます。

1つのポイントはインフルエンザウイルス以外の要因による、
インフルエンザ様症状に対しても、
ニタゾキサニドには、
それほどインフルエンザに対してと変わらない効果のあることで、
ニタゾキサニドのより幅の広い抗感染症作用が、
こうした結果をもたらしたものと考えられます。

副作用は頭痛や下痢が主なもので、
概ね軽症で忍容性は高いものと考えられました。

この結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

タミフルなどのノイラミニダーゼ阻害剤と、
同等の効果を持ち、
より耐性の生じ難い抗インフルエンザ薬が登場したことは、
一定の意味のあることだと思います。

ただ、一番の今後の興味は、
タミフルやリレンザとニタゾキサニドとの併用で、
より相乗的な効果が期待出来るのか、
ということと、
合併症を伴うような重症の事例に対して、
同様の効果や重症化予防の効果が、
期待出来るのか、と言う点にあり、
実際にそうした臨床試験が現在進行中のようです。

今後の知見の蓄積を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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コメント 1

bpd1teikichi_satoh

Dr.Ishihara何時も興味深い記事有難う御座います。抗原虫剤
ニタゾキサニドの名前は知っていたのですが、抗インフルエンザ
ウイルス作用があるとは知りませんでした。しかも耐性が生じ難い
事と、副作用が意外に少ない事は、今後期待できると思います。
一つお聞きしたいのですが、タミフルやリレンザの抗ノイラミニダーゼ
作用機序とは異なる機序でウイルス増殖を阻害するのでしょうか?
細胞の電子伝達系に作用するとの事ですが、電子伝達系の何処の
部位か、そして電子伝達系の阻害がどの様なメカニズムでウイルス
増殖を阻害するのか教えて下さい。
by bpd1teikichi_satoh (2014-08-03 10:03) 

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