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床に落とした食べ物は何秒で拾えば安全なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

食中毒というのは、
非常にポピュラーで誰でもなる可能性のある病気です。

「食べ物に当たる」ことを心配する人は、
手洗いや食器の除菌などを心掛け、
食品の賞味期限も守り、
床に落としたソーセージを、
拾って食べるなどは論外です。

しかし、
その一方で手も洗わずに素手で物を食べ、
床に落としても、
素早く拾えば大丈夫、とばかりに、
落とした物をすぐに拾って口に入れるような人もいます。

清潔に気を遣う人の方が、
それでは食中毒にはならないのかと言えば、
意外にそうでもなく見えるところが、
この問題の不思議さです。

5秒ルールというのが、
欧米ではまことしやかに一般に流布しているそうです。

これは食べ物を床に落としても、
5秒以内にすばやく拾えば、
バイ菌はそんなに付かないので、
食べてもお腹をこわしたりはしない、
という生活の知恵のようなものです。

しかし、それは事実でしょうか?

面白いことに結構その5秒ルールを検証した実験が、
よく行なわれています。

こちらをまずご覧下さい。
アストン大学の食物汚染のリサーチ.jpg
これは最近ネットで目に付いたものです。

イギリスバーミンガムにある老舗のアストン大学のサイトですが、
今年の3月の記事で、
教授の指導の下、
生物学専攻の学生が、
5秒ルールを検証する実験を行なった、
というものです。

詳細は書かれていないのですが、
各種の食品を、
カーペットやフローリング、タイルといった様々な床面に、
3から30秒間の様々な短時間接触させ、
その後にそこに付いた大腸菌やブドウ球菌を、
検出しています。

その結果、5秒以内であれば、
増殖を起こすような細菌の伝播は起こらないけれど、
それを越える秒数の接触により、
食品から一定レベル以上の細菌が検出された、
という内容になっています。
細菌の伝播はフローリングやタイルでは多く、
カーペットでは少ないことが確認されました。

つまり、暮らしの知恵の5秒ルールを、
科学的に確認したような内容です。

そこにはこうした研究は初めてであるような記載がありますが、
それは違います。

こちらをご覧下さい。
食品と汚染文献.jpg
2007年のJournal of Applied Microbiology誌の記事ですが、
同じことを食中毒の原因菌である、
サルモネラで検証したものです。

床はカーペットとタイルとフローリングが選択され、
サルモネラをその細菌量を計測して散布し、
散布後の時間との関連も検証しています。

その結果はサルモネラを一定量以上散布すると、
5秒の接触でも感染が成立するくらいの菌量が、
床面から食品へと移行します。
その移行はサルモネラが散布されてから時間が経つにつれて減少しますが、
散布4週間後も菌は少ないながら生きています。

床面の比較では、
フローリングやタイルと比較して、
カーペットは格段に接触による菌の移行が少ない、
という結果でした。

つまり、5秒ルールは今度は完全に否定されています。

どうしてこんな違いが起こるのでしょうか?

これは勿論最大の原因は細菌の性質によるのです。

大腸菌やブドウ球菌と比較すると、
サルモネラの方が長く生育し接触による菌の伝播も起こり易く、
総じて感染力が強いのです。

更には最初の大学の実習的な実験では、
菌量や菌の付着からの時間が、
しっかりと定量的に検証されていません。

この文献を読むと、
これまでに非常に多くの同じような論文が、
既に発表されていることが分かります。
まあ、アストン大学の先生も、
そんなことは承知の上で、
学生の自主性に任せたのかも知れません。

考えてみればこのテーマは、
如何にも学生実習で考え付きそうなものです。
それなりの科学的思考が必要ですが、
やることは単純で手間もそれほど掛かりません。
一般の方の興味も惹きます。

まとめるとこういうことです。

常在菌のみが存在している、
掃除も行き届いている様な床面では、
食べ物を落としても5秒以内に素早く拾えば、
少なくとも病気のない健康な成人では、
食中毒になるような食品由来の感染は滅多に起こりません。
しかし、その床面がサルモネラやカンピロバクターなの、
感染力の強い細菌に汚染されている場合には、
一瞬で拾っても食中毒になる危険は皆無ではありません。
床面がカーペットの場合には、
接触面が少なく衝撃も少ないので、
感染のリスクはそれ以外の床面よりはかなり低くなります。

結局は当たり前の結論に落ち着きました。

いずれにしても、
床に落ちたものは、
基本的には食べない方が安全とは言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

いつもの追伸です。
ブログから生まれた書籍がKADOKAWAより発売中です。
「床に落とした食べ物」に似た感じの、
身近でちょっとした話題も入っています。
解熱剤や抗生物質の総論的なものもあって、
バランスには工夫を凝らしました。
一般的で肩の凝らない本ですが、
奥行きのある内容を心掛けました。
ご一読頂ければ幸いです。


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ひでほ

「健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! 」本日到着したので読みました。とてもためになりました。特に大豆と肝臓がんの疫学調査のデーターはびっくりです。読んでいない人は表紙の顔が先生の顔だと思っている人が多いのではないかと思いました。

by ひでほ (2014-05-28 13:56) 

fujiki

ひでほさんへ
お読み頂き本当にありがとうございます!
表紙の顔はインパクト重視で決まったので、
最初は非常に抵抗を感じましたが、
今は大分慣れたので、
「間違えられてもいいかな…」くらいに思っています。
by fujiki (2014-05-28 22:10) 

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