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高血圧のカテーテル治療は無効なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から診断書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
腎動脈デナベーションの効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
高血圧のカテーテル治療の有効性についての論文です。

この話題は以前にも一度取り上げました。

高血圧の治療と言うと、
一般に思い浮かべるのは、
降圧剤と呼ばれる薬を飲むことによる薬物治療です。

原発性アルドステロン症など、
ホルモンの病気によって起こるような高血圧があり、
手術治療によって治癒する、というケースもありますが、
多くの高血圧は「本態性高血圧」と言って、
明確な単独の原因は不明なので、
完全に治すという治療はなく、
血圧が高いことによる弊害を予防するために、
薬を飲み続けて血圧をコントロールする治療が、
多くの場合は選択されています。

しかし、
多くの患者さんにとって、
薬を飲み続けお医者さんに通い続けるというのは苦痛ですから、
仮に1回の治療によって高血圧が治癒し、
その後は薬を飲む必要もなく、
お医者さんに掛かる必要のなくなるとすれば、
それに越したことはありません。

2009年のNew England…誌に、
7種類の降圧剤を使用していても、
血圧が167/107と高いままであった患者さんに対して、
腎動脈デナベーションという治療を行なったところ、
血圧が127/81まで改善した、
とする報告が発表されました。

腎動脈デナベーションというのは、
本態性高血圧が生じるメカニズムの1つとして、
全身の交感神経の緊張状態があるとの考えに基づき、
その悪循環を断つために、
腎臓周囲の交感神経を遮断する、
という治療のことです。

具体的には、
血管造影などと同じ手技で、
太腿の動脈からカテーテルを挿入し、
その先端を腎臓を栄養する動脈に進め、
電極カテーテルで通電して、
両側の腎動脈の交感神経を焼却して遮断します。

メドトロニック社という医療メーカーが、
その専用の器具を開発し、
3種類以上の降圧剤を使用しても、
収縮期の血圧が160mmHg以上より下がらない、
高血圧の患者さん153名を対象として、
腎動脈デナベーションを行ない、
その1年後までの経過を観察した文献が、
2009年のLancet誌に掲載されました。
患者さんはアメリカとヨーロッパの専門施設でエントリーされています。
腎動脈デナベーション治療の実用化に向けて、
本格的な臨床試験が始まったのです。
これをSYPRLICITY試験と呼んでいます。

この文献においては、
腎動脈デナベーションは安全に施行され、
施行後1カ月から有意に血圧は低下し、
1年後にもその効果は持続していた、
とされています。
ただ、この試験はデナベーション治療を施行した患者さんの、
治療前後の状態を比較しているだけで、
施行しないコントロールの患者さんとの比較はされていません。

これがSYMPLICITY HTN-1試験です。

その後先日記事でご紹介しましたように、
今年になって術後3年間の経過観察の結果が、
同じLancet誌に掲載され、
ほぼ同じ血圧の低下が、
3年間持続することが確認されました。

それに前後する形で今度は、
100名ほどの患者さんを、
この治療を行なう群と行なわない群とに分けて、
その後の血圧の経過を見る試験が行なわれ、
その結果は2010年の同じLancet誌に掲載されました。

施行後半年の時点で、
デナベーション治療を受けた患者さんでは、
収縮期の血圧が平均で32低下し、
拡張期は平均で20低下しましたが、
未施行の患者さんでは血圧は低下しませんでした。

つまり、コントロールとの比較においても、
腎動脈デナベーション治療は半年の観察期間においては、
その有効性が確認されたのです。

これがSYMPLICITY HTN-2試験です。

ただ、デナベーション治療はカテーテル治療ですから、
それをやったかやらないかは、
当然患者さんには分かっています。

つまり、
本来は治療をしたかしないかは、
患者さんには分からないようにしないと、
本当の意味での治療の効果を検証することにならないのですが、
そのことは実際的には困難なので、
施行がされていないのです。

そして、SYMPLICITY HTN-3と命名された今回発表された試験では、
より厳密にコントロールを設定するため、
「偽治療」を行なうという手法を取り入れて、
腎動脈デナベーション治療の効果を検証しているのです。

患者さんはアメリカの複数の施設で登録された、
トータル535名の治療抵抗性高血圧の患者さんで、
くじ引きで2つのグループに分け、
364名は実際にデナベーション治療を行ない、
171名は「偽治療」を行なって、
その後の血圧の変化を、
診察室での測定及び24時間血圧計を用いた測定の両方で、
術後半年の経過観察を行なっています。

「偽治療」というのは一体どのようにしたのかと言うと、
カテーテルの検査自体は同じように行ない、
腎動脈の走行や狭窄の有無を確認、
患者さんには鎮静を掛けて、
治療群ではカテーテルに通電し、
未治療群はただ20分間カテーテルを入れたまま寝かして置くのです。

患者さんにもご家族にも、
治療が行なわれたかどうかは伏せておきます。

これはまあ、
日本では絶対に認められないタイプの、
人体実験です。

その結果は全く予想外のものになりました。

半年後の診察室収縮期血圧は、
デナベーション治療群で平均14.13の低下、
未治療群で平均11.74の低下で、
両者に有意な差は認められませんでした。
24時間血圧の平均値も、
治療群で6.75の低下、
未治療群で4.79の低下と、
これも有意な差は認められませんでした。

つまり、
「偽治療」と比較して検討すると、
腎動脈デナベーション治療の効果と称するものは、
煙のように消失してしまったのです。

この結果を受けて今年の1月に、
メドトロニック社は現在も継続中の臨床試験の、
新たな登録を中止する決定を下しました。

治療をしても効果が確認出来ないのですから、
この決定は当然のものと考えられます。

今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

今回の試験においては、
デナベーション治療を行なった群においても、
以前の試験のような、
著明な血圧の低下は見られていません。

これが治療の手技によるものなのか、
それとも患者さんの選択によるものなのか、
それともそれ以外の何らかの要因によるものなのか、
その辺りは現時点では明確ではありません。

ただ、今回の試験が最も例数の多いものなので、
少なくとも当初言われていたほど、
腎動脈デナベーションは血圧降下作用の著明なものではなさそうです。

今回の試験が失敗したのは、
「偽治療」という大胆な手法を取ったからです。

これは裏を返せば血圧は、
心理的な影響で大きく変動する、
という可能性を示唆しています。
高血圧が持続していて、
薬を飲んでも下がらない、
という診断自体が、
患者さんの交感神経の緊張を強くして、
悪循環のように血圧上昇に結び付いているので、
「この治療で血圧は間違いなく安定します」
と言われて仰々しいカテーテル治療を受けること自体が、
プラセボ効果で神経の緊張を緩めて血圧を安定させ、
そうなるとその効果は長期間持続するのです。

以前の試験では著明な血圧の低下があり、
今回の試験では治療群でも血圧の低下が少なかったことは、
「あなたが治療をうけたかどうかは分かりません」
という環境で治療が行なわれたことと、
おそらくは関連のある事項だと思います。

要するに腎動脈デナベーション治療の効果は、
多分に「有効な治療を受けた」
と信じる患者さんの心理に負っている部分があり、
その点を不明瞭にしてしまうと、
その効果は消失してしまう程度のものなのです。

おそらくこの結果をもって、
腎動脈デナベーション治療は、
臨床からは撤退する可能性が高いと思いますが、
交感神経の緊張が、
強く血圧に影響しているような患者さんを、
検査で抽出して施行するような手法を取れば、
一定の効果がある可能性はまだ残っていて、
その点については、
今後の検証を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コンタン

人間ドック学会からも、説明がでているようです。
http://gohoo.org/alerts/140415/
by コンタン (2014-04-15 17:28) 

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