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劇団☆新感線「蒼の乱」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。

朝からいつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
蒼の乱.jpg
劇団☆新感線の王道のシリーズ、
中島かずき作、いのうえひでのり演出の、
いのうえ歌舞伎の新作「蒼の乱」が、
今渋谷のシアターオーブで上演中です。

古田新太は外部出演のため休演で、
橋本じゅん、粟根まこと、高田聖子らのお馴染みの面々に、
メインは天海祐希、松山ケンイチのペアで、
早乙女太一や平幹二郎が脇を豪華に固めます。

今回の題材は平将門の乱で、
前にも確か取り上げたことのある、
どちらかと言えば手垢に塗れた目新しさはない素材です。

ただ、良かれと思って権力に反旗を翻した行為が、
内乱で国を弱体化させる結果になり、
それが隣国に攻め込まれる口実を作って、
国が滅ぶという一連の流れは、
隣国との緊張が高まる日本の現在や、
ウクライナの危機との関連も窺わせて、
歴史的な素材を扱いながらも、
中島かずきといのうえひでのりの最強コンビが、
現実と真っ向から切り結ぶような、
そうした演劇を志向している志の高さは強く感じます。

4時間近い長尺で、
前半は正直ダレる感じがあるのですが、
後半はツイストが効いていて、
ストーリーに深みがあり、
個人的には作り手の思いには強く共感する作品となりました。

以下ネタばれがあります。

腐敗した貴族に反旗を翻す平将門を松山ケンイチが演じますが、
自分の国を滅ぼされて、
大陸から日本に渡って来た少数民族の生き残りの女性を、
天海祐希が演じ、
彼女が松山ケンイチを愛して共に闘い、
ラストは殺された将門に代わって、
その志を後の世に伝える存在として生き続けます。

面白いのは、
松山ケンイチ扮する将門は、
純朴なお人良しとして描かれ、
少数民族や農民を守るために立ちあがるのですが、
洗脳されて天海祐希を殺そうとし、
逃亡すると今度は貴族の側に丸め込まれて、
将門の代理として戦っていた天海を、
逆に攻める側に廻る、という趣向です。
将門を追討した俵藤太こと藤原秀郷が、
実は将門本人だった、という着想は、
如何にも中島かずき、という感じの奇想です。

全ては流転し、
人間は裏切りに次ぐ裏切りを繰り返すのですが、
その中で「将門」というヒーローの志だけが、
天海祐希の仮想の肉体を持って永遠化する、
というロマンチズムも魅力的です。

劇団☆新感線は、
小劇場出身のユニットとしては、
大劇場を長期間満員にする集客力を持ち、
興行界の大資本とも提携して、
日本の商業演劇の柱の1つにまで上り詰めた、
という意味で、
かつてない小劇場演劇の成功事例だと思います。

つかこうへいにしても唐先生にしても、
野田秀樹にしても鴻上尚史にしても、
こうした成功の仕方はしませんでした。

ただ、その内容や演出は、
初期の頃とは大きく変わりました。

今回の作品などは、スタッフがかぶっている、
ということもありますが、
先代猿之助が創始したスーパー歌舞伎に、
非常に似通った世界観であり演出であって、
元々もう少し高齢層を主なターゲットとしたために、
猿之助版がもう少しスローテンポで、
老人的な世界観を元にしていることを除けば、
殆ど違いはないようにすら思えます。

それで勿論悪いということはないのですが、
いのうえ歌舞伎が猿之助歌舞伎と同工異曲では、
矢張りまずいのではないか、
というように個人的には思います。

もっと基本的な部分で、
ラディカルであっても良いのではないでしょうか?

それと演出面で気になったのは、
色々な趣向をないまぜに取り入れているので、
統一感があまりないことと、
何処かで見たような趣向のオンパレードだということです。

一般庶民の代表として、
重税に苦しむ農民たちが登場し、
ミュージカルのパロディ仕立ての音楽場面を繰り広げます。

しかし、ボロボロの衣装を着て、
顔を汚した群衆が出てくれば、
それが虐げられた大衆である、
というステレオタイプな発想は如何なものでしょうか?

ミュージカルパロディの笑えない安っぽさを含めて、
あまりに安易な設定のように僕には思えます。

人間とマペットの中間のような馬が登場しますが、
「ライオンキング」その他からのパクリのようにしか見えません。
この馬はパロディではなく、
ラストにも重要な情景として登場するので、
これではまずいと思います。

総じて国内で身内相手に見せることのみを考慮した演出は、
これだけのスケールを持つようになったのですから、
もう卒業する時期に来ているのではないでしょうか?

パロディではなく、
統一性を持った独自のスタイルを、
演出面で確立する時期に来ているのではないか、
というように思うのです。

作品的にもう1つの不満は、
最近のこのコンビの作劇では、
徹底した強い悪役が登場しなくなっていることで、
以前の作品では黒幕の存在などは明らかになりながらも、
強い敵との最終的には一対一の格闘が、
クライマックスとして設定されていて、
血沸き肉踊る感じがあったのですが、
それが最近では殆ど見られないことに、
意図的なものなのかも知れませんが、
残念さを感じます。

比較的最近では2009年の「蛮幽鬼」における、
堺雅人演じる冷酷無比な殺し屋などは、
本当に魅力的なキャラで、
今回も出演している早乙女太一との対決などは、
血沸き肉踊りました。

こうした正邪のがっぷり四つの対決のような構図が、
それ以降の新感線の舞台から、
失われていることは非常に残念に思います。

キャストは何と言っても天海祐希がフィーチャーされた舞台で、
確かに魅力的ではあるのですが、
今回の作品に関しては、
如何にも安全運転の演技で、
やや肩すかしの感じはありました。

体調面の不安もあるのかも知れませんが、
女性として登場し、
後半は将門の代わりとして男役的に戦い、
最後は女性に戻る、という趣向なのですが、
その切り替えもあまり明確にはなりませんでしたし、
ここぞという部分で、
もっとエネルギッシュな感じがないと、
こうした大舞台は厳しいと感じました。

松山ケンイチは悪くないのですが、
ちょっと線が細い印象です。
ラストの死の場面などは、
もっと凄みのある悲愴さが欲しいところです。

早乙女太一は殺陣の鮮やかさなど抜群の安定感ですが、
今回は役が小さくて残念な感じです。
彼を活かすためには、
矢張り拮抗した敵味方の対決が、
是非とも必要なのです。

今回はむしろ、
梶原善と大ベテランの平幹二郎の踏ん張りが、
印象に残りました。
この2人で舞台はかなり締まったと思います。

総じて面白い作品ですが不満は残ります。
劇団☆新感線は、
色々な意味で微妙なところに来ているように感じます。
願わくばスケールの大きな正邪の対決を復活させて、
スーパー歌舞伎の物真似的な路線は、
変更して頂ければな、
と個人的には思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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