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甲状腺ホルモンの使用がメンタルに与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
TSH抑制のメンタルへの影響.jpg
今月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
甲状腺ホルモン製剤(T4製剤)の使用が、
患者さんのメンタルに与える影響についての文献です。

例数は少なく、
そう精度の高い知見とは言えないのですが、
甲状腺ホルモン製剤(T4製剤)の使用と感情や認知との関連については、
僕自身も興味のある分野であり、
個人的な見解も含めて概説しておきたいと思います。

甲状腺機能低下症においては、
その治療のために甲状腺ホルモン製剤が使用されます。

人間の甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンには、
主にT3とT4の2種類が存在しますが、
T4は末梢でT3に変換されることと、
T3は活性が高く、
外部から使用して安定して補充することが難しいので、
通常はT4のみの製剤が、
使用されることが殆どです。

T4製剤(商品名チラーヂンSなど)が、
薬として使用されるのは、
甲状腺機能低下症におけるホルモン補充療法以外に、
甲状腺に悪性度の低いしこりが存在する時に、
TSHを抑制する目的でも使用されます。

TSHは甲状腺刺激ホルモンのことで、
脳下垂体から分泌され、
その名前の通り甲状腺を刺激する働きがあるので、
甲状腺に腫瘍があると、
その増殖にも若干の影響をもたらすと考えられています。

そのため、T4製剤を使用して、
TSHを通常より低い状態に抑制し、
しこりの増大を予防する、という治療が行なわれています。

これをTSH抑制療法と呼んでいます。

TSHを抑制するということは、
要するに潜在性の甲状腺機能亢進症にする、
ということとほぼ同じです。

そして、潜在性の甲状腺機能亢進症では、
心筋梗塞などの心疾患の発症リスクを増加させたり、
骨粗鬆症のリスクを増加させるなど、
それぞれ軽度ではありますが、
身体に良くない影響を与える可能性が指摘されています。

今回の研究は、
TSHを抑制することの、
精神的な影響や認知機能への影響を検討したもので、
例数は少ないのですが、
認知機能や記憶、実行機能やIQなど、
かなり詳細に脳の高次機能がチェックされている点が特徴です。

対象となっているのは、
甲状腺機能低下症や悪性度の低い甲状腺腫瘍などで、
T4製剤(商品名チラーヂンSなど)
を長期間継続的に使用している患者さんのうち、
TSHが正常範囲である35名の患者さんと、
TSHが正常より抑制されている24名の患者さん、
そして甲状腺疾患がないコントロールの20名です。

この3つの群の対象者に対して、
認知機能や実行機能、精神的な健康度や感情障碍の有無など、
詳細な高次脳機能の検査を行なっています。

その結果…

コントロール群に対して、
甲状腺ホルモン使用群では、
精神的な健康度の指標や、
感情の安定性の指標に、
低下傾向が認められました。
ただ、当初の予想とは異なって、
その低下はTSH抑制群より、
TSH正常群で強いという傾向がありました。

一方で認知機能や実行機能というような、
脳の高次機能に関しては、
コントロール群と甲状腺ホルモン使用群との間で、
明確な差は認められませんでした。

この結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

この結果のみの解釈としては、
甲状腺ホルモンの補充療法やTSH抑制療法を行なっても、
患者さんの認知機能や実行機能などの高次機能には、
大きな影響は与えないと考えられます。
一方で甲状腺ホルモンを使用している患者さんでは、
TSHの抑制の有無には関わらず、
情緒的には不安定な傾向があり、
また自分の精神状態を、
悪いと感じている傾向が強いと考えられます。

個人的な考えとしては、
甲状腺ホルモン製剤を使用中の方で、
精神的な調子の悪さや、
全身倦怠感、情緒不安定などを訴える方は多く、
それが必ずしも血液のTSHやT3、T4の数値と、
一致しているということはありません。

ただ、1つの傾向として、
同じ量の薬を継続的に服用しているにも関わらず、
数値の変動が大きい方は、
そうした精神的な不安定さも、
大きいという傾向があるように思います。

こうした不安定さの原因が何であるのかについては、
現時点ではまだ考えがまとまっていませんが、
甲状腺ホルモン製剤の吸収の問題や、
T4からT3への移行の問題、
他のホルモン(たとえばステロイドホルモン)とのバランスの問題などが、
関連している可能性が考えられます。

今回のデータは甲状腺ホルモン製剤の慢性の使用自体が、
時に精神的なバランスの乱れや抑うつなどに、
関連する可能性を示唆するもので、
個人的にはTSHの抑制云々は本質的なものではないように、
現時点では思えてなりません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

夏子

初めまして。私は、橋本病の甲状腺機能低下症なので先生の記事はとても参考になります。ありがとうございます。チラーヂン服薬を始めて9年ですが、量も体調も安定していませんでした。TSHが正常範囲内であれば症状は出ないと主治医は言うので、ただ数字合わせをしてきたという感じがあります。自分なりに調べて食事や生活を変えて、倦怠感や微熱、関節・筋肉痛、憂鬱感、他多くの症状はこの数年は無くなりましたが、ここ2年弱は認知機能低下と体も時間の中で用事をこなせずイライラして、橋本病はなんてやっかいなんだ、これが慢性病というものだからもう自分は仕事も人生もあきらめて最低限の生活をして行こうと思ってました。昨年真夏にしては多い100㎍も飲んでTSHは正常でした。そんな時、昨年12/25の炭酸カルシウムと甲状腺ホルモン剤吸収についての先生の記事を読み、気が付いたのです。私は朝食後すぐにチラーヂンとビール酵母の入った整腸剤を飲んでましたが、これにカルシウム製剤も入っていたのです。早速、整腸剤は夜飲むようにしたら、思うように起きられなかった朝が、難なく起きられるようになってきました。鉄やマグネシウムも薬の吸収を妨げるそうだとわかったので、ということは一生懸命栄養を取ろうとした朝食も影響があるだろうと思ったのです。ネットでチラーヂンを起床後の空腹時に飲む人がいることもわかり、いつも薬を処方してくれる調剤薬局に念のため確認し、問題ないとの事だったので、朝食1時間前に服薬するようにしたのです。それから2か月の間、本来の私を取り戻しました。元気に普通に過ごしています。少し難しい仕事に挑戦する事にもなりました。TSHの数値と体調はやはりイコールではないです。来月受診日に主治医には報告するつもりです。長くなり失礼しました。
by 夏子 (2014-03-25 01:45) 

fujiki

夏子さんへ
貴重なコメントありがとうございます。
当ブログが少しでもお役に立てば、
それ以上の喜びはありません。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2014-03-25 08:13) 

ミッミ

こんにちは、いつも貴重なお話を拝見させていただいております。
私は数年前に、乳がん(DCIS)と共に、甲状腺腫(7cm)・甲状腺右半分除去しました。
除去前の甲状腺数値を測定していなかった為、除去後の数値が検査基準値内であるため、問題ないとの医師の見解なのですが、私自身、倦怠感や疲労感があり、除去前に数値を測定しておけば良かった・・と少し後悔しております。
甲状腺のT4等が検査基準値内であるため、薬の服用はないまま、経過観察を行っている状況です。

様々な有益な記事を掲載していただき、本当にありがとうございます。
これからも楽しみにしております。

by ミッミ (2014-04-03 19:43) 

fujiki

ミッミさんへ
コメントありがとうございます。
少しでもご参考になる点があれば幸いです。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2014-04-03 21:04) 

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